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第37話 壁作り

 ディンってこうして話してるとあんまり悲壮感なく思えるけど、食事、酒、賭博、女性とイチャイチャ……そういった欲が完全に失われた世界に閉じ込められてるんだよな……。


 変なテンションがちょっと怖いとか思ったけど、この成り上がりがこいつのストレス解消になって、モチベーションが上がってくれるならこちらもありがたいな。


 でも変に指示されたり、相棒を勝手に使われるのはあれなので、一先ずここは退散しますか。



「俺のスキルで盛り上がってくれたようで何より。そんじゃ俺はもうちょっと詳しく村の人たちに壁の作り方説明しないとだから」

『あ、ちょ……。行く前に俺を日陰に……。ってなんだこれ?』




 その場から離れて村の人たちにこの後のやり方をレクチャーしようとすると、ディンが不穏な反応を見せた。


 まさかこのタイミングであの魔族がいちゃもんでもつけにきたとか?



「何かあったか?」

『……。まぁ、あったって言えばそうなんだけどな……。なんかそのスキルに魔道具が反応して、色々と文字が出てきて……』

「出てきて? 何が書いてあったんだ? もしかして魔道具を介してさらに強力な使い方が分かったとか?」

『いや、その反対だ。全然分からん。こんな文字、俺ですら知らないぞ』



 読めない文字、それが気になって俺は画面を覗いた。


 だがディンが言うように、確かに見たことのない……文字だということがやっと分かる程度のそれが俺の目にも映った。



「なんか、俺たちの使ってる文字よりも種類が多くて……。これが正しい表現か分からないけど()()()()()()()()って感じだな」

『ああ。明らかに俺たちが使ってるそれよりも高度……。この魔道具はもう百年以上前の物だって話だったんだけど……。どうなってんだ?』

「……。俺にもさっぱりだ。こういうのはディンに任せるよ。この村の頭脳班班長さん」

『は? お前勝手に面倒な役職を……ってだから日向じゃなくて日陰に移動させてくれ!』

「大丈夫! それくらい相棒にも伝わるし、出来るから!」




 そう言うと、俺は相棒と手をタッチして後を任せた。


 その文字が気にならないわけじゃないけど、今は壁が最優先だもんな。

 それに、ディンをからかうのちょっと楽しいから仕方ないよね。


 


「――皆さん、道具と材料については実際に見て、触れて頂いた通りです。そしてここからは俺の考えている方法がありますので、取りあえずそれを真似て壁を一緒に作って頂ければと。どうかよろしくお願いします!」




 村の皆が既に何か始めようとしているところ、俺は緊張しながらも声を掛け頭を下げた。


 勇者だのなんだの言われて、感謝の言葉があったりもしたけど村の人たちからしてみればまだまだ新人……いや、人にによっては余所者のという認識でしかないはず。


 持て囃されて自分が偉くなった、なんて思っちやいけない。


 謙虚に謙虚に……そもそもを忘れちゃいけない。

 ディンとの会話とは違う……そんなの自分に合ってないってことを心掛け――


 


「――なんで勇者様が頭下げてるんだよ! 他所から来て村のために色々してくれてる人に頭を下げないといけないのはこっちだってのに……。まったく、とんだ笑い話だぜ」

「俺たちだって村のためになりたくて働きたいんだ! おう皆! このままだと勇者様に嘗められかねないからな! 酒はあとあと! さ、仕事に取っ掛かろうぜ! ってなわけでその考えとやらを教えてくれよ! 聞く態勢は出来てるぜ勇者様! いいや、村長さん!」



 頭を上げると村の人たちはしまった、という表情を見せたかと思えば数人の男性陣を中心に仕事モードに突入。


 どうやら村の人たちが自分の言うことを聞いてくれるとかくれないとか、俺を余所者扱いにするだとかなんとか、そんなものを考えることが村のこと一番に考える人たちにとって最も間違った……偉そうな態度、考えだったらしい。


 村長……。

 なんとなく否定し続けてたけど、これからこの人たちと一緒に発展させていくことを思えば、それを受け入れて、同じくらいの熱情で取り組むべきなんだろうな。


 俺には故郷らしいものもない。


 だから心内のどこかで村の一員になることに躊躇いを感じていたと思う。

 けど……勇者パーティーに入れてもらうことになったあの時みたいに踏み出してみるか。



「うふふ……。緊張していたレンヤ様も嫌いじゃありませんでしたけど、やっぱりそっちの方が私は好みよ」

「あ、はは。ありがとうございます」



 ――すぅ。



「それじゃあ皆、改めて聞いてください! いいですか! 聞き逃したら今夜はお酒抜きですよ!」




 

「――では説明した通りに!」

「「おお!!!!」」



 レクチャーが終わると村の人たちは村の四方に小走りで散って行った。


 そして各々竿や棒を用意すると、まずはそれを立てる。


 普通支柱になるこれが倒れないようにするためにはそれなりに深く刺さらないといけないところだけど、超高速で完成するセメントがこの作業を省かせてくれる。



 ――べちょ。



 適当に手で支えながらその根本にヘラやコテでセメントをかける。


 それだけでそれらは決して倒れることのない状態……太い根をはっている大木以上の土台を獲得。


 次はそんな棒や竿に、今度は横にしたそれらを高い位置で繋げていく。


 これも普通であれば洗濯用の竿みたいに引っ掛ける箇所を作る必要があるのだけど、セメントとコテ、ヘラが手間を省いてくれる。


 だって繋ぎ目にセメントを垂らすだけで2つの棒は簡単にくっついてくれるんだから。



「――よし! こっちも完了!」

「こっちも出来たわ!」



 そんなこんなで土台作りの作業はこの時点で殆んど完了。



 ――ばさ。


 

 あっという間に辺りから声が上がり始めて、今度はその横にした棒に洗濯物を干す要領で次々に布が掛けられていく。


 できるだけ隙間は埋めるようにしていくわけだから布が足りなくなると思っていたが、村の規模が大きくないことと、農家が多いからなのか、替えの洋服用の布やタオルなんかを作るための布を比較的多く買い取っていた、またぼろ布でももらってしまっていたようで、案外足りてしまった。


 こうして村を囲うように布が掛けられたところでついにメインイベント。



 ――べちょべちょさっさ。



 その布に向かって放ったり、塗りたくったり、広げたり……各々が思い思いにコテを使ってセメントで遊び始めた。


 こんなに雑でいいのかって思うくらいだけど、俺の研いだものはその用途に合わせて機能する。


 不思議なくらいセメントは隙間を作らないように広がって、子供が適当に放ったそれも面白いくらいきちんとした作業となる。


 これで壁作りは終了、ではなくて、布よりも下……地面と布の間に隙間がある場合がほとんどだからここに適当に木の板を噛ませたり、藁を敷き詰めたりしてセメントを流し込んだり、また表面に広げていく作業がスタート。


 俺の見立てだとこれにそこそこな時間を費やしてしまうと思ったのだけど……。



「ほい、こっち用意したから埋めといてくれ!」

「わかったわ!」

「こっちも出来た!」

「んじゃそっちは俺が埋めとくわ!」



 何年も同じ村で生活を共にしている村の人たちは自然な役割分担であっという間にこれもこなしてしまった。


 だから外壁が完成するのにかかったのは半日どころか数時間程度。


 コテやヘラの力のお陰で雑さも見えない、立派な壁がベロニア村にも作られたのだった。



「――高さ4メートルくらいで、結構いい感じに出来ましたね。これを基盤にして、素材も増やせばもっと高さを出すことだって出来そうです。皆さんお疲れさまでした! ……ってなんか微妙な反応じゃないですか?」

「……」



 見事な出来に村の人たちを労う。


 でもその様子はどこか暗くも映る。

 思ったよりも疲れたのかな?



「いや、なんというかこんな簡単に作れたから……不完全燃焼ってやつ?」

「あとは出来たって言っても裏壁はまだまだで……そもそもこの薄さだと本当に大丈夫なのからって……」



 やりがいと、それに対する性能に自信がないってわけらしい。


 いや、俺も正直そのステータスを見なければこうなっていたかも。


 

「うーん……SS級とかいう表記がみんなにも見えればいいんだけど……。……。……。そうだ、どうせならこれこそ派手にお祭りみたいにして喜ばせてあげるか」

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