第38話 せっかちな人たち
――カラカラカラカラ。
「――皆様着きました! 足元お気をつけてゆっくりとお降りください」
ベロニア村を出てすぐのところで驚くような数の馬車が止まった。
そして御者の人たちの合図がそこらかしこから聞こえ始める。
「来たか。……にしても、これは思ったよりも数が多いですね」
「結果救ってあげたわけだから遠慮すると思ったんですけどね。あ、もしかして私のことをお話に?」
「手紙には一応書いておきました。でもその返信にはルビーさんを恨むようなことは書いてなくて……それよりも『本当に力を示した街、或いは村がこの連合の中心となり、輸出入において最も大きな権限を握れるのか?』って皆その事ばかり気にしてましたよ」
「恩よりも恨みよりも現金とは……。うむうむぅ……この勝負絶対に負けられんな」
壁が完全に完成した後、伝達係の方たちにお願いして俺は半ば無理矢理この日にベロニア村に来ていただくよう様々な街、村に手紙を渡していた。
でも最後の一文、『来られない場合、輸出物の制限を設けさせていただきます』……あれは流石にやりすぎたかな?
なんか降りてくる人たちの顔がみんな怖い。
それにどの馬車からも強そうな人が降りてきている。
黒い甲冑を身に纏う2メートルくらいの武人、軽装ではあるものの鋭い視線であたりを見回すほとんど足音を立てず隙を感じさせない付き人、白装束を纏う集団、見たことのない色の液体の入った瓶を片手に笑みを浮かべている女等々……。
魔族が襲ってきてこの辺り村や街がひどい目に合ったのは間違いないはずなんだけど……こんな人たちがいるのならあの危機を乗り越えられたような気がしなくもない。
「まったく……。まさかわざわざこんな田舎まで出向くことになろうとは……。いや、あの危機を救ってくれた魔族殺しの勇者様とそのお仲間がベロニア村の中心として立ったのだから挨拶をしに来るのは当然といえば当然なのだが……。……。……。なるほど手紙の内容通り若いな」
「まぁまぁそんなに風に人を見定めていると緊張してまともに話せなくなってしまいますよ。特にこれだけの年齢ですと、手紙では尊大な態度をとれても実際に会うとそうはいかないということが多いですし」
「ふっ……。であれば勇者などと呼ばれるべきではないな。そもそも俺は気に食わんのだ。この俺がこの一件に関わっていない内に解決しただけでここまで偉そうにするなどな」
降りてきた人たちは俺に挨拶をするでもなく、顔を見て愚痴を呟いたり値踏みをしたり嫌みを剥き出しにしたり……現状最悪な空気が完成している。
これにはさすがのルビーさんもその顔を強張らせ、ツムギさんも苛立ちが隠せないのかギリギリと歯を擦らせている。
ただ、俺は案外冷静だったりする。
仲間がこうなっているところを見ると、俺はそうならないようにしようって思えるし……。
そもそもその手紙はツムギさんがああだこうだ言ったのが多く反映されていて、俺のせいでこうなっているわけじゃないって言い訳もできるし。
最悪の思考だけどこれが本当に活きてる。
「――皆様、ご苦労いただきありがとうございます。この度ベロニア村の長として皆様をお呼びいたしましたレンヤと申します。以降どうかよろしくお願いいたします」
声のトーンを上げるでも下げるわけでもなく、淡々と頭をさげる。
これに他の村長と思われる人や街の長と思われる人たちは黙って視線を送る。
さすがにそれぞれの長……俺が礼儀を重んじている、いわゆる普通の人間でありベロニア村の長として今回の会議で何かを画策しているのだと、咄嗟に判断したのだろう、もう嫌みも愚痴も出さず自分の評価が下がらないよう口を噤んだのだろう。
というか最初の態度が悪すぎたのって……どれだけ俺が無礼で不遜な人間だと思ってたんだよ。
仮にも勇者って言葉を出してはいたのに。
「これはこれは村長がわざわざ出迎えてくれるとは思いませんでしたぞ。私はスプリーン村のトウゲン。この度はお呼びいただいたこと、誠に感謝しております」
「私はここより南の街シャスの長であるかとリーンと申しますわ。残念ながら焼けてしまった他の街も一時任せられまして、この度はその代表もかねております。どうかよろしくお願いいたします」
手のひらを返すように挨拶する長たち。
嫌な空気はとりあえず去ったって感じ――
「――俺は最も国に近いところにあるカロンの街の長、シュエンだ。ふっ……。貧相な体つきだな」
そんな中、一人だけ俺に近づいて来るや否や面と向かって悪口を放ってきた。
これだけの人がいればこういったタイプの人間もいるか……。
嘘とか駆け引きとかは駄目そうなタイプ……だけど、そのほうが俺たちにとって都合がいい。
「ええ、お恥ずかしながらまだまだ未熟な者で……。ですが安心してください、手紙に書いてありました『本当に力を示した街、或いは村がこの連合の中心となり、輸出入において最も大きな権限を握れる』、これを見定めることはできますので」
「ほう……。これだけの手練れ、権力者を前にその目をするか……。それだけその魔族の女を信用していると見える」
シュエンさんは何かを察したかのようにルビーさんを見た。
そしてその魔族という言葉に周りの人たちはぎょっと目を見開いて身構えた。
恨みは返信に書いていなかった……だけどそれはルビーさんに怯えていたからなのかもしれない。
つまりこの護衛であろう人たちの多さはルビーさんを警戒していて、という意味合いも強そう。
というか手紙の文面から『ルビーさんと戦って、強さを示す』そう思っていた人がほとんどなのかもしれない。
「信用はしていますが……。まぁ一先ず皆さんのお宿を紹介させていただければと思います。これだけ御来客がいらっしゃるとは思いませんでしたが、宿泊場所を増やしていたので何とかなりそう――」
「構わん。俺たちはここに居座るつもりはないのでな。それよりも……さっさとその見定めというのを済ませようじゃないか。そんで誰がこいつら、この村と街をまとめた連合、その代表になるか決めようぜ」
シュエンは俺の話を最後まで聞くこともなく、腹積もりをすべて打ち明けてくれた。
それに他の長たちもこくりと頷くと、護衛のひとたちに何やら指示を出し始めた。
腹の探り合いなんてもうない。
ただ力と力のぶつかり合いによる格付け。
……俺たちが最も最高な形を容易に完成させてくれた。
――ばっ!
「――それではスプリーン村の我々から力を図っていただけませんかな?」
すると、俺以外にもこの状況をよしと思った人たちがいたようで、一斉にその口を開こうとした。
しかしそれよりも早くスプリーン村のトウゲンさんが挙手。
それにほとんどの人が目を奪われた瞬間に口を開き、一番手を名乗り出た。
こういった場面で自分が一番目立つ方法をすぐにとれるあたり、頭が切れる……いや、経験が豊富なのかもしれない。
やっぱり長というのは何か他よりも秀でた能力を持った人がなれるんだな。
あんなに腹はたるんでるけど。
「……。そうですね、それではスプリーン村からそのお力を――」
――シュッ。
周りが文句を言うこともできず歯ぎしりするのを見ると、俺はふっと息を吐いて了解の意を表した。
すると、俺が言い終わるよりも先に地面をずるような音が側で聞こえた。
そして……。
――キィン。
「――受け止めるか。しかもその爪一つで。それに横の女も気づいていたようだ」
「うふふふ……。せっかちだこと。女性はおしとやかなほうがモテますわよ」
音のほうを見ると、笑みを浮かべながらやけに軽装で鋭い視線を見せていた護衛の人がルビーさんに右手に持つ剣を受け止められていたのだった。
なるほど、一番手が欲しかったのはこの奇襲を仕掛けたかったからか……。
まったく……。こっちはそんな、格下相手にわざわざ最大戦力を使うような力の測り方なんてしようと思っていないのに。




