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第36話 超高速セメント

「村を囲えるだけの枝、物干し竿、それに懸けられる布とかその他もろもろの準備完了しました。いやぁこれが村を守る壁になるなんて到底考えられませんな!」

「あ、ありがとうございます。ま、まぁ楽しみにしていてくださいよ」

「勇者のお兄ちゃん! 私も一緒に壁作る! みんなですっごいの作るの! ね、お母さん!」

「そうねえ、勇者様の全身全霊をかけた作戦と素材ですもの、すっごいのが作れるわよ。そうよね、勇者様?」

「は、はは……。き、期待していてくださいよぉ……」




「――うふ、うふふふ……」




 俺が指示した通りに村の人たちはまるで祭りでも始まったかの如く家から飛び出てくると、各々楽しそうに準備を進めてくれた。


 自分たちが魔族になりかけた、というかほとんどなってしまったこと、それに記憶の操作や元村長の裏切り……俺やルビーさん、マトマがいくら頑張ったところでこれまでの出来事は消えないし、この村の防衛機能に対する不安感を拭い去ることは難しいと思われた。



 だが、こうして村を高めようと行動することで、不安を和らげることができた。



 完全にとまではいかないけど、素晴らしい一歩が……ベロニア村の人たちにとっての明確で、視認可能な希望が湧き上がる。



 今日はそんな素晴らしい一日になるなっている。なのに……俺はさっきから冷や汗が止まらない。

 合わせて仕事をこなしながらのルビーさんは笑いが止まらない。


 そんな俺の表情を見たツムギさんに至っては『大丈夫、任せろ』と自分の胸をどんと叩いた後から村人たちに酒を進めるその手が止まらない。



 それって全部、俺の失敗に対して……失敗したという体で行動してますよね!?


 味方じゃないのかよ、みんなぁ。



『ま、しょうがないんじゃねえの? こんなゴミみたいな素材だけで立派な壁が作れるだなんて、本当に信じてるのは子供もくらいなもん。大人たちはレンヤ……勇者様が自分たちを励ますためにちょっとした行事を開いてくれた、とかその程度にしか思ってねぇもん。見ろ、仕事だってのに酒どころかここぞとばかりにつまみや菓子まで出てきたぜ』


 

 ゴミって……。

 口が悪いだけじゃなくて、多分国はこことは違って色んな物で溢れているってことなんだろうな。


 持っている人が特殊ではあるものの、遠距離で連絡をとれる魔道具とか、今回の情報をまとめたり、通話ができたり映像を流したり等々が出来る魔道具まで存在しているくらいだし。


 

 ……というか、期待されてないはされてないで悲しいんだけど。

 俺が勇者っぽくないのは自分でも分かってはいるけどさ。


 

「はぁ……。いいや、それならそれで変な緊張も減るし……。っと、こっちはこっちで一先ず準備できたから、メインを触っていきますか」



 ――カランカラン。



 村の人たちに集めてもらったコテやヘラを一通り一回荒研をして強化。適当にその場にまとめた。



 ――バシャッ。

 


 そうして仕事の道具が出揃ったところで、俺はでか目のスコップで桶に盛られた土をざっと均すと、汲んできてもらった水をどんどんとその中に流していく。


 そしてそれをかき混ぜながら洞窟で手に入れたストーンバイトの毒を足していく。


 当然飲んだりでもしない限り人に危害が及ばないよう浄化済みで、これはただ物に固める効果を付与することのできる薬と化していた。


 触ったり嗅いだりしても石化しないことの確認はなかなかに怖くはあったけどね。



「……。すごい、なんだかどろどろしてきたわ」

「本当はちゃんとした割合で砂、砂利、水、あとは専門の人たちが作って販売しているっていう粉を足す必要があるみたいですけど……この浄化したストーンバイトの毒が面倒な部分を全部こなしてくれてるみたいです。なんとなく気づいてるかもですけど、詳しい仕組みを説明しろと言われたら無理なので、聞かないでもらえると助かります」



 かき混ぜられるそれらが変化していくと、キラキラした目でルビーさんが俺に視線を向けた。


 思ってたよりも反応がよくて、なんだか誇らしくはあるけど、色々聞かれると困るので先手は打っておく。


 勇者パーティーで冒険をしているとき、小遣い稼ぎで家を作ったりとか街の壁を補修する職人さんの道具をメンテナンスすることが度々あった。

 その時に壁の材料であるこの()()()()の作り方を聞いたわけだけど……こんな簡単に作れましたなんて言ったら怒られるかもしれないな。


 あの人たちは俺みたいに聞かれたら困るなんてことないくらいにプロだから。



『へぇ……。あの毒をこんな風に利用するとはなぁ。だけど、セメントってのは固まるのに時間がかかる。それに結構な重さもあるから布に塗りつけたところで簡単に壁としての機能を持たせるなんてできない。もっと言えば強度が足りない、というか厚みが足りない、セメントの量が足りない。発想は良かったと思うが、行動に移すには研究がちょっとばかし足りないな。やっぱ俺みたいに引きこもってるのと、冒険者みたいな考えるよりも先に行動、って奴らとじゃ全然違うってこ――』

「いや、俺もどっちかと言えばそっち側だよ。だから何度か試しもしてる。その証拠に本当だったらセメントを作る際に必要な防塵装備だのが、この方法であればいらない……つまり、有害な成分が発生しないって分かってたから村の人たちを巻き込んだ。だからセメント……セメント擬きをどうさせられるかも当然知っている。だから、多分これでなんとかなる」

『……なんとかなるってもねぇ。奇跡でも起きない限りこのどろどろを都合よく、瞬時に固めることは――』




「――うわあ! すっごい! カチカチだよ!」

「本当ね……。これ、私たちが触ってもどろどろのままなのに、()()()何かに塗りつけた時だけすぐに固まって……」



 俺とディンが話していると、早速村の人たちが研ぎ終わったコテやヘラを手にとってセメント擬きを掬い上げていた。


 そしてこれらをどうすればいいのか、ここまでお膳立てすれば誰でも察しがついていたようで、既に何本か立てられた壁際の棒と、それに引っ掛けられた布にまずは小さい女の子が先人を切って塗りつけた。



 すると、それは塗りつけた瞬間に固まり、綺麗なコンクリートとなった。



『おいおいこれって……どうなってんだ? 普通完全に固まるまで1カ月はかかるはずだぞ!』

「それは――」

「うふふ……。レンヤ様の研いだ武器や道具にはあり得ない強化が施されるのよ。これから一緒に村を発展させていくのだから、これくらいで驚いちゃダメよ。そうよね、レンヤ様」



 驚く声をあげるディンに説明をしてやろうとすると、なぜか誰よりも胸を張ってルビーさんがふふんと鼻を鳴らした。


 このしてやったって快感にルビーさんも満足気だ。



『研いだ道具……。ちょっと見せてもらってもいいか?』

「ん? 構わないけど」



 

研師【覚醒】LV2

□対象物:セメント用コテ(S級、思考自動用途選定からセメント用に変換済)

□効果時間:スキル対象者が死亡するまで。(現距離において)

□効果:耐久強化(S+級)、傷防止、硬化速度強化(S+級)、硬度強化(S+級)、硬度強化付与(S級)、全耐性(S級)、持ち上げ力強化(A級)、疲労軽減(A級)

□研段階:2

□情報開示段階(効果を発揮できる項目の開示):2

□確認可能ランク:SSS+(最大ランクではない)

 



『は、はは……。な、なんだよこれ。こんなの国の……いいや王都のお偉いさんでも持ってるかどうかってくらいレアな道具じゃねえか。俺のこの身体じゃあもう楽しみらしい楽しみなんてねぇかもなんて思ってたけどよ……。自分の損得関係なしでこんなにワクワクするのなんざ初めてだぜ。本腰入れてこの村をすごいとこにしてやろうじゃねえの、勇者レンヤ様よお!』

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