第32話 電波と磁力
――ジ、ジジ……。
「そんで、表層を石化……」
ツムギさんの剣がヴァイパーに届くと思われたその時、その周辺は突然赤く灯り、独特で聞いたことのない音が鳴った。
しかもヴァイパーは最後のあがきのように戸惑いなく全身を石化してしまった。
しかし、そのくらいであれば俺が研いだ剣で切ることができ――
「あっつ!!! くっ! なんだこれは!! こいつ魔法陣もなしに炎魔法を!?」
石化したヴァイパーの脳天に数センチ食い込んだ剣。
だけど、ツムギさんは剣を振り切ることができず、苦悶の表情を浮かべながら剣を鞘に納めてしまった。
よく見ると、剣の握り部分も赤く変色してしまっている。
おそらくだが、握り締めることも難しいくらいにヴァイパーのスキルによって熱されてしまったのだろう。
そう、魔法ではなくスキルによって。
つまり魔法のように魔法陣を介することなく発現させられる、ほとんど隙のない厄介なもんってことだ。
「ツムギさん、大丈夫ですか?」
「……ああ。だがあれを発動されたまんまじゃ接近戦は難しい」
「そうみたいですね。でも、あの熱量……。魔力の消費は大きいようですし、長くは続かないかと。それにあのまま熱せられれば本人だって無事ではありませんわ」
ツムギさんは一旦下がってルビーさんと合流。
二人で敵の様子を観察し始めた。
どうやら二人ともイレギュラーな事態でも冷静に戦えているようで、心配はいらなそうだ。
「それに、あいつ……だんだん赤くなっているしな。それよりも俺は鈴を回収して……。お、これが奴の声を送るための魔道具か……。それとこれは……魔石炭?」
俺はそんな様子を気にしながらも、ヴァイパーが……男が使っていたであろう机とその周辺を漁っていた。
すると机の横辺りの箱いっぱいに黒い石が積み上げられていた。
それは不思議なくらいに引き合い、くっついていてなかなか剥がれてはくれない。
そういえばここに来る途中ツムギさんが話してくれたっけ、魔石炭が出回りにくい理由には用途が少ないからというだけでなく、採掘するのが難しいからだって。
魔石炭は加えらえた衝撃によって引き合う力、或いは反発する力が発現してしまう。
それは初めは微々たるものなのだが、何度も刺激を与えることで強くなり……掘り進める度強固に繋がったり、弾けて掘削する人や物を破壊する恐れがあるのだとか。
どちらか一方の効果によってくれればまだいいのだが、そんな現場や偏らせる方法は未だ見つかっていないらしい。
「それでこれはくっついたまま、と。でも一人で、しかもそんなに時間が経っていないにしてはかなり取れているように――」
――ず、ずず……。
「え? もしかしてこれ……引っ張られてるのか? しかも……洞窟が揺れているようにすら……」
魔石炭を手にとって疑問が浮かび上がろうとしていると、低く何かが引きずられているような音がこだまし始めた。
地鳴り、とはまた違う。
それに箱の中の魔石炭すべてがカタカタと揺れて、だんだんとヴァイパーのいる場所へと吸い寄せられている。
これはまさか引き寄せる力を奴は利用できるのか? それに、ここにある魔石炭すべてを引き寄せられるということは、魔石炭の持つ効果を……あいつは変えられるということ。
『――ほう……。これは惜しいことをしたかな。おっと……これ以上は……無理、か』
ヴァイパーのスキルを考察してると、途切れ途切れではあるものの、机の上の魔道具から声がした。
何を言っているかも、その声の特徴すらもわかりにくくはあったけど……俺の知っている男の声ではない、別の男の声だということだけは分かった。
この状況を誰かが見ている……。監視している。
そのことに一抹の不安を感じた俺は魔道具をまさぐる。
ヴァイパーのスキルによる熱がこちらにまで及んでいるからか、魔道具は熱い。
でも触れない程度だったから俺はとにかくべたべたとそれに触って……一つの突起を見つけることができた。
――ポチ。……ふっ。
何かは分からないけど、ほかにこの魔道具を止められそうな仕組みは見受けられなかったから躊躇なくそれを押し込むと、魔道具から漏れていた若干の光は消えた。
男の声も……聞こえてくる気配はない。
「これでいいのかな? ……あとでツムギさんに聞いてみよ――」
――ガラ。ガラガラガラ。
なんとか魔道具を止められたと思っていると、ヴァイパーのスキルの影響でついに壁が崩れ始めた。
そして辺りには壁を形成していた石と魔石炭が散らばり、隠れていたストーンパイソンやストーンバイトが姿を現した。
だが、その様子はどこかおかしい。
ほとんど動かず、生気を感じない。石化? それにしては色も普通の石化と違うような……。
「――ん、あむ」
そうしてストーンパイソンやストーンバイトを観察していると、まだ動いていた個体が落ちていた魔石炭を食った。
すると、その身体は変色。途端に動かなくなった。
「やっぱり自分から石化している。いいや、これもヴァイパーの洗脳によるものか? だとすればなんでこんなこと――」
――ず、ずず……。ズドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
なっていた地響きのような音が大きく、激しくなった。
それともに魔石炭だけでなく黒く変色したストーンバイトやストーンパイソンたちは一気にヴァイパーの元へ。
見れば石化したヴァイパーもその色を深く黒くしていた。
おそらくこの引き寄せる力を強くするため。
そして……。
「くっ! これはまずいな……」
「モンスターたちとこの石……まさか私たちを一緒にあそこに連れて行こうとしているの?」
それに絡められた二人を熱源である自分の元に近づけるため。
膨大な量の魔石炭とストーンバイト、ストーンパイソンを回避するのは不可能。
それを切断したり、斬ったりしてもその破片が衣類についてしまえば意味がない。
ただのモンスターでは導けない戦い方……。ヴァイパー……その中にいるであろう男はなかなかに切れるということか。
切り替わるだのなんだの言っていたけど、その前に倒さないといけなかったってことか。
「――遠くから……。その首っ、を……飛光斬ッ!! 飛光斬ッ!! 飛光斬ッ!!」
必死に踏ん張りながらツムギさんは剣を抜いた。
熱せられた剣を持つのは苦痛なはずなのに、そんな表情を見せず何度も何度もスキルを発動させる。
しかし、その飛ぶ斬撃は魔石炭やモンスターたちに阻まれてヴァイパーには届かない。
接近してまともに戦う術がないどころか、唯一の遠距離攻撃さえ無駄撃ちになる。
このままだと向こうの魔力が尽きるよりも先に俺たちが熱で焼かれて殺される。
なにか、なにか他にこの距離のままヴァイパーまで届く攻撃が、武器があれば……。
「あ……。そういえばあの時……」
窮地に陥り俺は思い出した。
少し前、俺たちに向かって撃ちだされたその一発……どこからか飛んできてい俺たちの頭上を通りすぎたその一発を。
あれはおそらく……反発する力を利用した魔石炭の弾丸だった。
そう、だって切り替わる前のヴァイパーの攻撃、毒液の弾はそこまでの威力はなかったから間違いない。
つまり、だ。
魔石炭の持つ反発する力、或いは引き寄せる力は通常の方法で、衝撃を加えて鍛え上げるとそこまでの能力になるということ。
じゃあもし俺が……この魔石炭に研いで刺激を与れば……。
「……。やってみるしかなさそうだ。あ、そういえば研紙は使い切ったから……こっちの研石でやるしかない、か」
急いで砥石を取り出すと俺は引っ張られる魔石炭を必死に抑えながらそれにあてがい…一研ぎ。
「……。あー、ごめん。これ、手加減なしのやばい一撃になるかもしんない。でもしょうがないよな。あんなとこで研紙を使わせ切ったちゃったんだからさ」




