第31話 単純計算
「――まさか獣人種が待ち受けていようとはな。一体どこのどいつが私たち、お……国知事から人を授かった私たちを襲えるというのか、と思っていたのだが……。一先ずお前に関しては納得だ」
俺とは違ってツムギさんは獣人種を見慣れているのか、驚く様子も狼狽える様子もなくふふんと鼻を鳴らした。
その言い草からして、やっぱり獣人種と人間の関係は良好とは言えないらしい。
であれば本当はこんなところで争いたくはないのだけど……。一応話してみるか。
「あの……。俺たちはストーンバイトの毒を摂取、それと魔石炭が目的でして……その、襲われてしまったから戦うという選択を取りましたが、本来俺たちに戦う理由はないのです。あなたも誰かに頼まれたり、洗脳されたりということはないようですし……。だから――」
「――お前たちは、手ヲ出スナ。これは俺のエモノ。もし勝手に手を出す、ナラ。その時は分かってイル?」
俺の話を聞く様子はなく、獣人種はやる気満々。
その気迫に怖気づいたストーンバイトやストーンパイソンたちはゆっくりと散っていった。
最早鈴を使うまでもないくらい上下関係がしっかりしている。
というか予想はしていたけど、やっぱり男の姿がない。
やっぱりこいつが、鈴の効果から逃れた強者で……きっと男は殺されてしまったのだろう。
腹を空かせていることから考えると、食われた可能性が高いな……。
「はぁ。ってことはこっちもやるしかないってことか……」
「当然だ。奴らは自分たちの種族のことしか考えない。それ以外は敵としか見ない。話せるというだけでその本質はモンスターと同じなんだ。ま、魔族よりも欲深いわけじゃないから、自分たちから襲ってくるということはほとんどないのだが……。食欲に流されてこんなにも積極的に、しかもモンスターを使役して襲ってくるとは……しばらく見ないうちに奴らの質はさらに下がってしまったようだ」
ツムギさんは最早考える必要もないと言わんばかりに腰に下げていた剣に手をかけて体勢を低くした。
この血の気の多さも野生味が強くてどう名乗って感じだけど……あんまり余計なことを言うのは止めておこう。
ツムギさんの性格からして落ち着いたあとに説教を始めかねないから。
「……。やり方はそう思うかもしれませんけど、あの魔力は決して質が低いとは言えません。殺気は狩りには邪魔だからと自然に抑えられているみたいですけど、魔力は隠せませんわ。きっとレベルも私たちを優に超えているかと……。びっくりさせてあげたかったのに、ほーんと面白くないわ」
ルビーさんはルビーさんでぷくっと頬を膨らませながら不機嫌なご様子。
敵は殺気を抑えているのに、こっちは殺気全開だ。
……今回は人数的にも俺はサポートに回ろうかな。
向こうのほうに気になるものがちらほらとあるし……場合によってはそっちの探索が勝利のカギになるかもしれない。
「――毒液纏ウ……。泳グ……」
俺たちの準備が整うと同時に、敵の身体から紫色のねっとりとした液体が漏れ始めた。
そして俺たちにその効果を読ませる時間を与えまいとするように、それを飛ばし始める。
「――!? 二人とも、剣を抜いてください! あれは多分毒液だから――」
「「了解!」」
二人は俺が最後まで言い切るよりも早く的に向かって走り始め、その剣を抜いた。
「……。鑑定眼」
――名前:ヴァイパー(獣人種:蛇)、レベル150相当。
そして俺は二人の背に隠れながら鑑定眼を発動。
そのまま右側から敵……ヴァイパーの攻撃範囲から離れていく。
こんな怪しい動きをしていれば普通のモンスター、魔族なんかも真っ先に俺を狙うはず。
それもあんなに範囲の広いスキルを持っていて、しかも高レベルの存在であれば尚更。
だって普通それだけの力があれば、余裕があるから。
でも……。
「――!?」
「強力な攻撃だとは思うが、あまりにも遅いな」
「それに……それはもう毒液じゃないの。その光り方からしても汗とか唾液とかその辺の水とも……変わらない。と、いうわけで……うふふ、真正面から突っ込んでも大丈夫というわけよ!!」
二人を相手にそんな余裕を見せることなんてできないだろ?
まずツムギさんはレベルアップしたことで見切る能力が開花した。
動体視力が著しく向上、本人曰く自分の飛ぶ斬撃を線ではなく点として捉えることができるだけに引き上がったらしい。
そもそも自分でもあの斬撃をまともに追えてなかったのかよ、とつい個々の中で突っ込んでしまったけど、とにかくこれによって敵の攻撃のタイミングを読むのが容易になったらしい。
また、複雑な軌道の動きも直前で完璧に捉えられることから敵が攻撃を出し切った後に避けて、反撃を繰り出すことが可能なんだとか。
つまりスキルに合った強化だけじゃなくて、ツムギさんのあまり動かず待つ、という戦闘方法に合った強化がなされたというわけなんだが……現状は驚くくらい突っ込んでいる。
戦闘に関して不真面目なタイプではまいことを鑑みるに、おそらくこれだけ動いても大丈夫な敵……ツムギさんのなかではそういう判定になっているのだろう。
だからってレベル150の相手にいつもの自分と違うスタイルで挑めるその性格は、俺みたいなタイプの人間からすると異常に思える、と同時に……頼もしくも思える。……かもね。
「――うふふふふふ!! 痛くない! 全然、痛くないわよ!」
次にルビーさんだけど……見た目に似合わず、恐ろしいくらいのパワータイプとなった。
内の筋肉が強化されたことによって強化された翼での突進それが強力なことはここまでの道のりで分かっていたけど、それ以上にルビーさんはその包容力……ではなくて締め付ける力をを向上させるためなのか、腕と脚の筋力が増大していた。
そしてそれは魔族としての力を解放していてもいなくても同様であり、力を込めない限り表層に出てくることはないから敵を欺くことも可能。
まさか毒の力を無効化されたとはいえ、弓なんかよりも速く撃ちだされる体液の弾丸をあんなにおっとりした女性に受け止められる、だけじゃなくて脚の間や腕に挟まれ、その圧だけで破裂させられるだなんて思っていなかっただろう。
しかも力を込めたその身体は鋼のように固くなり、ダメージを大きく減らす。
これが元々の魔族による防御力と合わさることで、俺の出会ったことのある存在の攻撃であればどれも効かなくなるんじゃないかな?
それに……そのダメージ軽減は当然自傷ダメージをも減らせるから……。
「――『母なる大地』」
――バゴンッッッッッッッ!!!
どれだけ強く地面を叩いても全く痛みはない。
「!? 動カナ、い……」
そうして思い切りルビーさんが殴った辺りは大きくへこみ、地面に足をつけていた存在はその揺れ、振動に抗うことができなくなる。
ダメージ軽減と剣による状態異常の無効化……それだけでも強いっていうのに、これはちょっとやりすぎか。
でもしょうがないか。だって二人のレベルはすでに100を超えているんだから。
「50の差……でも、合計で見れば二人で200レベル。馬鹿みたいな強さの測り方だけど……あながちそれ、間違っちゃいないだろ?」
「お前……キライ――」
必死に身体を動かそうと、逃げようとするヴァイパーを見ながら俺は笑った。
そしてヴァイパーがそんな俺に苛立ちを覚えて視線を向けたかと思った時、その振動の恐ろしさを知っていた女性が上空から剣を構えて降りて来るのだった。
「――とっ……たあああああああああああああああっ!!」
「……。仕方、ナイ。ベース、ヲ……。……。……。俺に戻してやろうって? まったく、こんな時ばっかり頼ろうなんざ反吐が出るぜ……。だが、賢明だな」




