第30話 にょろじゅる
「――うふふふふふふふふっ……! さあレンヤ様、こっちですわ! 私をつかまえてみて……なーんて、言っちゃいます!」
「あ、はは……。調子が良さそうで何よりです。それに罠も……」
「この私がいる限りなんら問題はないのだ! 2人とも感謝するように! うむうむ、うはははは!!」
……。なんかやりにくくなっちゃた。
俺の出番がないくらい二人が強くなってくれたみたいだからそれはいいんだけどね。
二人ともよくないところまで伸びちゃって……ルビーさんなんて魔力のコントロールできないとまずいからちょっと心配。
それに……。
――ドンッ!!
「小難しい道も罠も破壊してしまえば問題はない、ですよね? ん? レンヤ様どうかしましたか?」
「は、はは。でも洞窟自体は残しておいてくださいね」
洞窟の耐久も心配。
逃げていったストーンパイソンを追いかけ始めてからここまでずっと二人の攻撃で道を作って進んでるから、いつかここが崩壊するんじゃないかってもうひやひやもの。
入り口付近にはツムギさんの仲間もいるんだから、って言ってもいいけど……むずっとされると俺ですら怖いよ。
ルビーさんは強靭な内の筋力と大きな翼を活かしたシンプルな突進。
ツムギさんはそれをどこからともなく発生する飛ぶ斬撃によって瞬時に細切れ。
さっきからずっと火を使わなくて暗い中を進んでいけているのはこの斬撃による恩恵によるもの。
これつまり……俺には仕事がないってことです、はい。
「これ、敵が見たら驚く通り越して恐怖で動けなくなるんじゃないか?」
「うふふ、そうかもしませ……二人とも! 伏せて!!」
勢いよく俺たちの前を飛行していたルビーさんが唐突に声を荒げた。
「は、はい!」
「まさか、私の斬撃でもなのか……」
俺はこの先の状況が分からないからただルビーさんの言葉に従うのみだったのだが、どうやらツムギさんはルビーさんのいる先にも攻撃を仕掛けていたようで、何かに気づいた様子を見せていた。
俺が研いだツムギさんの剣であればそうやすやすと弾かれることはないだろうけど……ツムギさんのスキルに剣の切れ味は乗らないのかな?
もしスキルを強化できるような剣にすることができれば、個人の役割も増えてよさそうなんだけど――
――パッッッンッッッッッッッッッッッッ!!
研師の効果に今後の展望を期待していると、俺たちの真上で何かが弾けるような音が聞こえた。
さらにそれは通り過ぎた後で何かにぶつかったのか、強烈な破裂音を発しながら地面を揺らした。
おいおい、この二人があまりにもやりすぎてたと思ってたけど、向こうは向こうで洞窟ぶっ壊そうとしてるじゃねえか。
「これじゃあ近づけなくないか? ガードはできたとしても進むのは流石に……」
「いや見ろ。ストーンパイソン、それとストーンバイトが湧いてきた。きっと罠に使われる予定で忍んでいたのだろうが……ゆっくりこっちに近づいてくる」
ルビーさんよりも少し前の辺りで、まるでさっきの攻撃を合図にしたかのようにモンスターたちがそこら中から飛び出してきた。
その光景は圧巻で、めちゃくちゃ気持ち悪い。
「うふふ、どうしますレンヤ様。私これくらいなら魔法を用いて一回で吹っ飛ばせる自身ありますけど」
「気持ち悪いからお願いしたい、って言いたいところですけど……。こいつらおかしくないですか? なんだか襲ってくる様子がないです」
「それは確かに……魔力が高ぶっている感じもなければさっきの一発もちゃんと狙って放たれたように思えませんでした。逃げていったあの個体と戦っていた時は、なんというかもっと悪意のようなものを感じることができたんですけど……。なにか、変わったということでしょうか?」
敵の様子がおかしいことに気づくと、ルビーさんは俺の元に近づき首を傾げた。
その質問に答えるのは難しい。
だって敵である、こいつらを使役するあの声の男、それ以外はこの奥にいないだろうから。
それに影響を与えることのできる存在がいるとは、今段階で考えられない。
ということは……。
「こいつら、ストーンパイソンの強さが鈴の音を凌駕するものだった……いや、凌駕するモンスターになったことで、使役するものが変わった。……その可能性が高いような気がします」
「それって、もしかして今の私みたいに……」
魔力のコントロールが可能になったことが影響したのか、あれ以来ルビーさんは鈴の影響をあまり受けなくなっていた。
ちなみに娘であるマトマは半分が人間であるからか、元々ほかの魔族と比べて鈴の効果は少なかったうえにレベルアップをしてからは全くその効果を受けなくなっていた。
多分鈴の効果は魔の影響を受けた存在であることとは別に、レベルや何らかの基準の上に立つ格が条件に関わってくるらしい。
つまり男の持っていたであろう鈴の効果を受けないということは、ルビーさんが今危惧したように同じだけのレベル、強さである可能性が高いということ。
いくら人間が関わっているといってもそんな存在がこんなところに生まれるなんてやっぱりおかしいけどな。
それもこれもルビーさんとお母さんがここを封鎖したこと、モンスターに接触したことが原因になっているのだろうか……。
いや、そう見せかけて……ってのは考えすぎか。
「――何はともあれ迎え入れようとしてくれているなら都合がいいじゃないか。あんな弾丸を何発も撃ち込まれては面倒だからな」
「それはそうですけど……」
湧き出てきたモンスターたちは俺たちの周りに集まると脚に絡みついてきた。
そして俺たちを見上げながらくいくいっと首を振る。
これ多分乗れ、ってことなんだろうけど……やっぱり抵抗が――
「――どーんっ! うふふ、大人しくしていればきっと大丈夫ですから」
「そうだぞ! おお! 案外速くて快適じゃないか!」
モンスターたちに連れられることをためらっていると、ルビーさんが俺の背中を思いっきり押した。物理的に。
にょろにょろとした感覚が背中を這い、むず痒い。
鱗の感触と、冷たい皮膚。
どれをとっても鳥肌もの。それに、間違ってかストーンパイソンが俺の服の中に数匹。
この感じ……そういえば、俺なんでこんなにこいつらのことがダメになっているんだったっけ?
「分かんないし、そもそも考えれないし……ルビーさんちょっと俺ギブ、かも……」
ぞわぞわと、ショックで視界が白く……話すのも、ままならな――
「あらあら……。ちょっといじめすぎちゃったかしら。レンヤ様ごめんなさい。でも……うふふ、特別に膝枕してあげますわ」
「まったくだらしない。この先に敵がいるというのに……。ここを出たらその根性を叩き直してやろうか」
――ピクピク。
「あら! それちょっと興味あります! って、本当に気絶しちゃいましたね。痙攣しちゃって……」
「……。はぁ……。男の声、その男が鈴を持っていたこと……いろいろ緊張していたのに、馬鹿みたいじゃないか」
◇
「――おい! おい! ついたぞ! おい!!」
ん? あれ、俺何をして……。
確か夢を見てて、鱗がすごくて……その背中が……大きくて――
「あれ? 大きくない? そうだ! 俺モンスターに乗せられて――」
「大きくないですか? そうかなって思ってましたけど……。レンヤ様はこっちのほうが好きなのかしら?」
目を開け上半身を起こすと、俺の背中にぴったりと柔らかいものが当たった。
「ル、ルビーさん……。当たってるんですけど……」
「うふふ、当ててるんですよ――」
――ジュルッ。
その感触に慌てていると、気持ちの悪い、なにか汁気を感じる音が大きく響いた。
だから俺はその音の正体を見た。
「こ、こいつは……魔族? 人間?」
「――リョウホウ、正解。ヨク、来た。……。ウン、やっぱり生きてるほうが、活発に動いてるほうが……。ウマ、ソウ」
べろべろと人ではありえない長さの舌を口からぶら下げ、長い首を持っているけど……その下は尻尾以外ほとんど人間。
これが……獣人種?




