第29話 夢の魔石炭
「――あっち側か……。多分男の、敵の拠点みたいのがあるんだろうけど……ずっと姿を見せない慎重な性格からして罠だらけなんだろうなぁ」
血の痕は岩の間や下を潜って移動していたせいで途切れ途切れ。
それでも向かった方角はなんとなく分かり、俺たちが進むべき道を絞ることはできた。
ただわざと絞らせた、という可能性もある。
「ルビーさん、この先の道で何か変わった魔力の流れとかありませんか?」
「……。高魔力を保有する何か……それはなんとなく」
「びくびくしていても始まらんだろう! こんなところで油を売っていないでさっさと先に進むのみだ! なぜだか仲間の石化は解かれていないようだしな」
そう言いながらツムギさんは何かを取り出すと、真剣な眼差しをそれに向けた。
「それは?」
「仲間と連絡がとれる魔道具、らしい。距離は限られているが実に便利だぞ。……。まぁ魔族であるルビー殿は見たことがあるかもしれんが」
チラリとルビーさんの顔を見てどこか警戒した様子を見せるツムギさん。
そういえば俺はもう慣れてしまったけど普通の人には魔族って当然怖い存在。
さっきまでの会話とか戦闘から敵じゃないとは分かっていても気遅れしてしまうよな。
「いえ、私は他の魔族とかその暮らしに馴染んでいたわけではないので……。人の里もベロニア村以外入ったこともなかったですし……」
「そ、そうかそうか! な、ならば良いのだ! 」
なんとか威厳と立場を保つツムギさん。
まったく、びくびくしてるのはどっちだか……。
それにしても、見たことの無い形状の魔道具だったな……。
東側の王都ですらそんな代物は見たことがなかったが……俺が思っているよりも西側の一部地域は発展しているのかもしれない。
なんだろう、別に俺の専門分野というわけでもないけどプライドが刺激される。
「とにかくまた同じような敵が出てきても困りますし、そろそろ移動した方がいいかもしれないです。レンヤ様、ご判断を」
ルビーさんが俺に指示を仰ぎ、ツムギさんもそれに合わせる。
おいおい、いつから俺がリーダーになってんだよ。
ま、まぁ嫌な気分ではないけどね。
「……。進みます。進みますが、ちょっと準備してからでもいいですか?」
「レンヤ殿! 何を悠長なことを――」
「その剣、折れてはいないと思いますが、間違いなくダメージがあります。このままだと十分に剣は振るえないでしょう」
「うむむぅ……。見抜いていたか……」
見抜くも何も、盛大にヤバい音鳴らしてたけどね、さっきの尻餅で。
「それとあれだけの巨体を操っていた魔力の残滓と、ストーンパイソンの経験値は勿体ないですからね。さてと、これで待ち構えている敵をあっと言わせてみせましょうか。」
◇
研師【覚醒】LV2
□対象物:鉄のスプーン(D+級)
□効果時間:スキル対象者が死亡するまで。(現距離において)
□効果:切れ味強化(A+級)、傷防止、掬い上げ(S+級)、譲渡(S+級)、満足感(S+級)、取り込み意欲増進(S+級)、吸収効率(S+)
□研段階:2
□情報開示段階(効果を発揮できる項目の開示):2
□確認可能ランク:SSS+(最大ランクではない)
◇
そういいながら俺は研ぎ直したスプーンを取り出すとルビーさんに協力してもらいながら急ぎ足でそれらを回収。
今度は手傷の1つも負うことなく勝てるよう大幅な強化に勤しむのだった。
◇
――チリン。
「――しゅうぅ……」
「やれやれ、こりゃあこっぴどくやられっちまったな。よしよし、すぐ治してやるから待ってな」
――バシャッ。
俺は手懐けたストーンパイソンが帰ってくると、直ぐ様その傷口にポーションをぶっかけた。
ポーション一瓶金貨一枚。
だけど、これからの儲けと地位を思えばこんなもん些細な出費。
あの方に気に入られることができれば、こんな俺でも貴族の称号を授かることだって夢じゃねえ。
なんにせよ、あの方に言われた場所で気付いてないはずはねえのに、この魔石炭については何も言ってこなかった。
上じゃまだまだこの価値が分かってねえのかな?
「でも俺には分かる。それもこれも全部これのおかげでな……。くふふ、ははははっ! ハズレスキル持ちで引きこもりの研究者かぶれが成り上がる様を見せつけてやるぜ」
俺は開けた洞窟内に置かれた木の椅子に腰かけると、自作の魔道具をゆっくりと撫でながら笑った。
魔力を感知して敵の所在を知るスキル……それであっても数十メートル先くらいまでしか、しかも最低限の相手の情報しか読み取れない。
だがこの俺のスキルと、それと連動したこの魔道具……電気機械器具があれば映像の出力が可能。
その範囲は俺がスキルを発動した場所であればどこでも。
ただ、距離が遠くなると鮮明な映像が……いや、元々そこまでは良くないけど、まぁ十分な映像が乱れたりするのは難点。
音声を送ることは今のところ概ねスムーズで、相手の話を聞いたり、逆にこっそりこっちの声を流して煽ったりもできる。
今まで紙でやり取りするしかできなかったのが、こんな楽になっちまうんだからその価値は計り知れねぇ。
しかも、この魔石炭による発電で出きることが他にもたくさんあることを俺は知ることができた。
明かりを灯すだけじゃねぇ。
物を熱したり、反対に冷やすこと……馬車に変わる何かを魔石炭で生み出せるようになるかもしれねえ。
生活はガラリと変わって、近い将来必要なもの全てに電気が使われ始める。
そうなれば、人知れずここを牛耳ることができた俺は魔石炭で荒稼ぎが出きるってわけだ。
そう、大事なのは人知れず……つまりここを誰かに知られて、襲われること、奪われることを避けないといけないってこと。
「だから殺す。2つの理由であの女を殺す。絶対に……。あの方にその首を差し出してやる。っと、なれば既存の罠を確認。それと次の番はどれにすっかなぁ。おいお前ら、希望があれば叶えてやってもいいぜ」
――しゅうぅ……。
蛇どもの薄気味悪い鳴き声も俺のために戦ってくれる駒だと思えば可愛らしく思える。
まったく、この鈴ってのは本当に便利だな。
まさか魔石炭を喰ってレベル100になってたストーンパイソンまで従えることができるなんてよ。
でも、これを街に配ってるのは気に喰わねえがな。
「田舎連中には過ぎた道具だっての」
――チリン。
「しゅぅ……」
「お、もう動けるようになったのか! な、お前もそう思うだろ? ……って話しかけるだけ無駄か――」
「――マゾク……。タベル……。モットツヨクナル……」
怪我をしたことが原因か、それとも人間と戦ったことが原因なのか、決して人の言葉を話すことのできないその口が器用に動いた。
「お前……だよな? 話してるのって……。う、嘘だよな、その辺に誰かいるんだろ?」
『――魔石炭の影響がまさかこんな形で浮かび上がるとは……あらゆる獣人種の祖もこうして生まれたのかもしれん』
辺りにまた違う声が響いた。
この音声の感じは……まさか。
「あなた様も、あの魔道具……電気器具を?」
『察しがいいな。やはり優秀だよ君は。ただし優秀すぎるが故、欲深い。であればその欲ごと喰われるといいだろう』
「ま、待ってください! 俺はあなた様の配下として忠実な下部、人間として……これからは自我を持つことも――」
『そんなもの信用できる訳がなかろう。君はもう人ではないのだから。欲にまみれ……魔に溺れたな』
人ではない、その言葉にハッとした俺は咄嗟に自分の手を見た。
切ったばかりのはずの爪が長く伸びている。
しかも机の上に置いてあったコップ、その中にためられていた水には黒い粒が浮かんでいた。
「そ、そんな馬鹿な……。俺は、俺は人間――」
「イタダキマス」
――う! ぐ! あああああぁぁぁぁぁぁ……。
鈴を鳴らす暇もなく、そしてそれが利くこともないであろう、その特殊なストーンパイソンは俺を飲みこんだ。
そして意識がある状態の俺をその腹の中でゆっくりと溶かしていった……。




