第27話 男なら黙って飛べ!
「――何をしている!? さっさと引け! どういう原理かは分からないが、干渉されれば身体の毒で……今度は全身を石に変えられるぞ!」
「これで倒せなくても、多分大丈夫です。その証拠に、『さっさと引け』って……俺が普通に動けるから出た言葉ですよね?」
「!?」
俺は砂煙舞う中に突っ込み、腰に提げていたナイフをそのまま地面に突き刺した、というかそこが柔らかい土に変わっていたから潜らせたという方が正しいか。
とにかく、敵の潜伏している場所を対象に水を浄化する時と同じイメージを描いていく。
そしてそれと似たようなイメージを描いているのだろう、ルビーさんも新たに用意した剣を引き抜いてそれを掲げている。
これが俺が渡した、ルビーさんのための武器。
その効果はツムギさんが目を開いて驚くもので、直接相手を攻撃しなくとも魔力を用いたもの、或いは浄化の対象となるものを無効化できる。
ただしそれは一定の強度のみで、既に石化してしまっていたあの人たちをどうにかできるほどじゃないんだけど。
「そこは伸び代ってことだよな。どうやらランクもまだまだみたいだし」
◇
研師【覚醒】LV2
□対象物:鉄のレイピア(D+級)
□効果時間:スキル対象者が死亡するまで。(現距離において)
□効果:切れ味強化(SS-級)、刃こぼれ防止、魔特攻(清めの力付与)、魔特攻:空中間接浄化(初期発展効果、通常比較、S級相当、自己魔力消費有)
□研段階:2
□情報開示段階(効果を発揮できる項目の開示):2
□確認可能ランク:SSS+(最大ランクではない)
◇
あの日メアリーさんに貸し出した剣、それをまたルビーさんへのサプライズになればと思って改めてじっくり研いでみたところ、いつの間にか俺のスキルはレベル2に上がっていた。
アナウンスがあるわけでもなく、かなりぬるっと行われてしまったが、この変化はかなり大きかったようで今まで不透明だった部分の可視化、何より同じ剣であっても新しい効果が付与できるようになっていた。
村のみんなに渡したスコップ、あれで掘った土が軽く感じるのもこれによる恩恵。
そして当然俺のメイン武器であるこのナイフも強化されていて……。
「破っ!!」
――ドンッ!
俺がナイフに気合いを乗せてやると、そこから半径1メートルほどで地面が輝き、爆発音に似た清浄化の音が鳴り響いた。
――あぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁ……。
地面が振動し、地中にいるストーンパイソンの絶叫が微かに伝わる。
距離はそれなりに離れていたようで、案外余裕はあったようだ。
おそらくは地面にああした仕掛けを作って相手を混乱、或いは恐怖でかき乱してから狩るというのが奴らのやり方なのだろう。
「それにしても……レベル100でも問題なしで倒せるだけの武器に仕上がってたか。敵との相性も良かったけど想像より遥かに楽勝……。こうなると実際の切れ味も確認してみたいですね、ルビーさん」
「うふふ、にょろにょろが出てこなかったからって強気になっちゃってもう……。でも、まだ毒の回収が済んでないからストーンバイトとは戦わないとですよ」
「……そうでした」
子供をなだめるように事実を言い放つルビーさん。
ああ、早く達成感に浸って一杯やりたい。
「――な、なななななななな、なんだ今のは!? 魔法? いや大地神の御業!? 私は、とんでもないものを目撃してしまったのかもしれん……。まさかその身を斬ることなくあれを倒してしまうとは……。……。……。うむ、流石は私の協力者殿だ! これはきっと関係を築いた私に国にから多大な恩謝が――」
「くふふふ、ばーか。そっちが本命じゃねえっての」
――ガラ。
うざいくらいに驚いてくれるツムギさんを見てか、どこからかはっきりと男の声が、聞こえると天井が崩れ落ちてきた。
しかし、その崩れ方はなんというか自然のものではないような感じで……ってなんだこの形!? なんか繋がってて、口に見えるんだが!?
「――刺して喰え、番のストーンパイソン」
再び聞こえた男の声。
それによって崩れた天井だと思っていたそれが1匹のモンスターであることに俺は気付いた。
そうしてそれをモンスターと認識したことでようやくレベルを確認することができたのだが……。
――強化済みレベル143相当。
元々が100でバフ効果で143か……。
もうパイソンとかよりも地竜とかって言われた方が納得いくよ、こんなの。
「くっ、前に遭遇した奴が脳裏にこびりついて地中ばかりを気にさせられたというわけか……。皆、なんとか回避せよ! 10秒……いや30秒は私が――」
「レンヤ様、少し解放しますが安心してください」
天井から迫る落石、ではなく口を大きく開いたストーンパイソン。
その巨体のせいか、範囲こそ広いものの速度は大したものではないと判断したツムギさんは、冷静にそれを見ると剣に手を掛けて俺たちに逃げるよう呼び掛けた。
確かに30秒もあれば初撃はなんとかなる。
だけど、その代わりにツムギさんが犠牲になってしまうのは避けたい。
そう思って強くナイフを握った時、俺よりも早く状況を察したルビーさんが一歩前に出た。
瞳の色はいつの間にか赤色に染まり、翼が徐々に顕現。
そういえばルビーさん、あの力は消えたわけじゃないって、ただ完全なコントロールを手にいたって話していたっけ。
――バサ。
翼が大きくはためく、土煙が上がる。
勢いよく飛び出したルビーさんが、勢いままにその剣でストーンパイソンの牙を断ち切る。
「まさか、ルビー殿が……。いや、今重要なのはそんなことではない。やった……のか?」
ドスンとストーンパイソンの口にあった一本牙は地面に落ちた。
だが、それに驚き動きを止めたのは一瞬。
――べき……。
「再生能力ですって!? そんなの聞いてないわよもう!」
欠けた先から新たに牙が生え、直ぐ様ルビーさんを刺し殺そうとストーンパイソンはさっきよりも早く強く近づいた。
「うっ……。おっもい……」
これを斬る余裕は流石になかったようで、ルビーさんは剣の腹でそれを受け止め、必死に翼をはためかせた。
でもこのままじゃじり貧。いつかあの牙はルビーさんを刺す。
俺も剣で……いや、それだとダメージを負った判定を与えてあっという間にまた再生される。
「だったら……これを使うか」
俺はリュックの中から一枚の研紙を取り出した。
「レンヤ殿、その紙切れは一体? まさかとは思うが、折り紙なんてしている場合ではないのだぞ」
「……。ただこれで全部をってなると、時間がかかってしょうがない。それに、あの高さ……レベル上がっても俺の跳躍力は並なんだよなぁ」
「……。私の話を聞いてないとは……。うむむ……おい! そんなに高く飛びたいなら考えるよりも先に跳べ!」
――パンッ!
お叱りの声と共にやってきたツムギさんの平手打ちが俺の尻で張りのあるいい音を奏でた。
じんじんする尻。絶対赤くなってるやつだこれ。
「あの――」
「もう一発必要か?」
「け、結構です! あー、はいはいどうなるか分からないけどやればいいんでしょ、やれば!」
「ふ、それでこそ男! よく言った」
――ひゅ。
その場で思い切り跳ねた、かと思えばさっきも聞いた風切り音が響き……俺の足元がキラリと輝いた。
「ちょ、ま――」
「胸を張って行ってこい!!」
ツムギさんの言葉に逆らってやろうとも一瞬過ったけど……もう、俺飛んでるよ。
まさか俺の身体目掛けてあんな切れ味のスキルぶっぱなすかよ、普通!
靴、昨日磨いてなかったら……。
「レンヤ様! 魔力の反応が大きいのは頭の後ろ辺りです!」
「ルビーさん、全然心配してないし。ああ……。もう一度考えるの止めた!! とにかくその身体、うっすうすになるまで研いてやるよ!!」
俺は自分に襲いかかったであろう不幸と、ニッコニコのルビーさんの顔を頭の中から吹き飛ばして、勢いそのままに研紙をストーンパイソンの鼻先から後頭部にかけてあてがい、あり得ないほど雑に、深く、一研してやるのだった。




