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第26話  輝く罠

「――いっ、たくない?」

「レンヤ様、後ろに……」



 大量の血がかかったことで一瞬自分がどこか斬られてしまったと錯覚、同じ様にルビーさんも一撃をもらってしまったかもしれない、そう思ってその顔を見たのだが……俺の心配とは裏腹にルビーさんは冷静な様子で後ろを振り返り、その先を指差していた。



「これは……ストーンバイト?」



 そしてそこには1メートルほどで、しかも俺の脚くらいの太さはあるストーンバイトが死体となって転がっていた。



 気配はまったく感じなかった。



 それに、こんなに大きい個体を俺は知らない。


 もしかしてこっちのストーンバイトはこれくらいのサイズか普通――


 

「こんな大きい個体初めて見ました。噛みつかれるだけじゃなくて、最悪飲まれることもあったかも。ほら、こういったモンスターって思ったよりも口が開くので」



 他人事のように淡々と死体を観察するルビーさん。


 どうやらこちらのサイズ感は俺と同じらしい。


 ということはこのストーンバイトは異常で、やはりこの洞窟内には何かが起きているということ……。

 

 

「まったく……。こんな場所に来るような人間であれば実力者であると思ったのだがな。まさか、このような不意打ちにも気付かんとは……仕方ない、ここからは私が戦闘を引き受けよう。その代わりマップの作成と灯り、また飲食についてのみ其方らに任せようか。うむ、本当はマップの作成など知的な役割は私の得意分やではあるが私がこの場で1番強いのだから仕方ないな。そう、私が1番強いのだから」



 嫌な予感を感じ、シリアスな雰囲気漂う中ツムギさんが口を開いた。


 俺たちを攻撃したわけではなく、むしろ守ってくれたことには感謝しているけど……。


 こんなにマウンティングされると素直にお礼言いにくいんだけど。


 というか知的って、この人腹空かせてずっとここにいるんだよな?


 ……ということは迷子ってことだよな。


 この人――

 

「強がりさんで可愛い人ですね」



 その本質になんとなく気付いてしまったと思っていると、ルビーさんはそれを口に出してしまった。



「な!? 別に強がってなんていないぞ! ただ私は事実をだな!」

「うふふ、そういうことにしてあげます。マッピングや帰り道についてはこっちに任せてください。私たち、協力関係にあるんですものね?」

「そ、そうだとも! なかなか話が分かるじゃないかルビー殿! あっはっはっはっ! 私の方からも其方らが国から多大な恩恵を受けられるよう言っておくからな! 期待しておいてくれ」



 ……。勝手に協力関係結んじゃった。


 まぁ、悪い人じゃないし……なんというかルビーさんの方が上手って感じだから悪いようにはならなそうだけど。


 それに国とベロニア村の今後の関係を思えば間違った選択じゃない、と思う。


 断って戦うなんてのは嫌だし……でも多分あれもなんか半分くらい嘘っぽいんだよな。


 素直に一緒に帰りたいって言えないから極端な選択肢を提示しただけ。

 いくら国が口封じをしたいからって殺すってのはむしろ反感を買う行為だからな。



「……ま、それは一旦置いとくとしてですね、改めていくつか質問してもいいですか?」

「構わん。私たちは協力関係にあるのだから現状の情報共有は当たり前だ」

「ありがとうございます。ではまず1つ。今のデカいストーンバイト……あれが入口のお仲間を石化した原因ですか?」



 俺の質問でまた空気が変わった。


 この感じ、やっぱり……。



「残念だが違う。あの程度のモンスターであれば何匹来ようとも私たちの敵ではないのでな」

「そう、ですよね。じゃあ一体何に? まさか魔族?」

「いいや、モンスターだ。あれはストーンパイソン。ゴーゴンより生まれし存在といわれ、その強さはレベルで言えば100を越える」

「レベル100以上ですか……」



 この前魔族たちのレベルに驚愕したばっかりだってのに……。


 西側にいる敵のレベルちょっと高すぎないか?



「私たちも完全に油断していた。この辺りは魔王城より遠く離れた場所で、魔素もそこまで濃くはない。あれほどの敵がなんの変哲もない洞窟にいるとは到底思えなかった」

「何の変哲もない……。あの……洞窟に入る時何か違和感というか、そういうのはなかったですか?」



 ツムギさんの話に引っ掛かりを感じたようでルビーさんがそれとなく質問を繰り出した。


 そうだ、何の変哲もないってことはないはずだ。


 だってこの洞窟には結界が施されていて、ルビーさんたち以外はそう易々と入れないようになってあたはずなんだから。



「一応魔石炭の反応を調べる魔道具に反応はあったが……それ以外は何もなかったぞ」

「そう、ですか……」



 ルビーさんはそれを聞くと俺に視線を向けた。


 そして俺はコクりと頷く。


 ツムギさんよりもこの中に入り込んだ人がいて、魔石炭の反応を利用した。

 そして、ツムギさんたちを殺そうとした。



 つまりツムギさんたちはまんまと嵌められたってわけで……その犯人はまだこの辺りにいる可能性が高い。

 最悪この話も聞かれて……であれば申し訳ないけどツムギさんにはこの場で話すことはできないな。



 幸いにも俺とルビーさんの2人で気付くことができたし……前方、モンスターに関してはツムギさんに任せてその誰か、或いは何かは俺たちで請け負うとしよう。




「そ、それじゃあそろそろ移動しましょうか。相手がレベル100と分かれば一旦帰還して、急いで援軍を呼ぶべき――」



 ――その時を、獲物を現せ……収穫光(ハーベストライト)



 ここまでの道を描いたマップを取り出して印を付けた辺りを見ようとした時、散らばっていた輝石の光が一斉に強くなった。



 ――――チリン。



 そして聞き覚えのある鈴の音が鳴り響くと、岩影や水中から何かが飛び出してくる音が……。



「くっ……一体何が――」



 ――ぐちゅ……。



 強い光のせいでろくに前が見えないと思っていると、咀嚼音に近いそれと、弱めの痛みが全身を襲った。


 これは……全てストーンバイトか?



 

「そうか、あいつらは目じゃなくて音や魔力の揺らぎで獲物を見つける。だからこの光の中でも……。っく、まずい。脚が動かない……。ルビーさん! 大丈夫ですか!?」

「は、はい! でも、こっちも動けなくて……」



 やけに開けた場所が、しかも絶好の休憩所としてあると思ったら……これ全部罠かよ。

 それで最初の1匹は俺たちにもう他の個体はいないと思わせるための囮みたいな役だった、と。


 

 しかもさっきの鈴の音……やはり誰かがずっと俺たちをつけていたみたいだな。



 こうなっとら取っ捕まえてまず鈴を奪いたいところだが、それよりも先にこの状況をどうにかしないと……。



「って、うわああああああああ!!」



 光に目が慣れ自分の身体を見回すと、さっきの個体よりも小さいとはいえしっかりとうねうね動くストーンバイトが数十匹噛みついていた。


 ヌメヌメとした粘液と鱗のざらざら感、何より感情を殺したような目で見つめてくるその様子は……とにかく気持ち悪い。



「あ、折角の悲鳴顔が……」

「あの、今はそんなくだらないこと言ってる場合じゃないと思うんですけど! ルビーさんは剣を、剣を抜いて下さ――」



「――その必要はない。なぜなら……それは私の獲物だからだ。しかしなんだ……私の協力者たちはうるさいながらにも、随分と余裕があって頼もしいじゃないか」



 ――ひゅんっ。



 輝石とは違う閃光が俺たちの前を走った。

 そしてまた血が宙を舞い、全身から痛みは抜けた。



 今度は目も慣れ、不意の攻撃でもなかったのに……見えたのは閃光だけ。



 とてつもなく速い太刀筋、それに歩行速度……というわけではないようで、ツムギさんはさっきまで立っていた場所からまったく動いている様子がなかった。



 ということはスキル? 剣士のスキルってこんなものまであるのか――



「――しゆあぁ……」



 息が漏れ、その声のした辺りで砂が舞い上がった。


 この気配……。



「レンヤ様!! 強力な魔力を感知しました! しかもこれ、かなり膨れ上がって……」

「神出鬼没で自由な奴だ。あの時は出口まで泳がしたのに今度はすぐさま打ち込んだ毒を強化しにきたか。だが今度は油断せん。その顔を出した時が今度こそお前の死に時。特大の墓を用意して――」



 

 ――ズボッ。

 

 


「――いいや、こうしてこの土ごと魔の力を消してやればわざわざ墓を作らなくてもいいんじゃないですか?」 

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