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第24話 横取り御免

「もしかしてこの人たちが私たちの結界を破って……いえ、今は考えている場合じゃなさそうですね」

「はい、まずは状態を確かめましょう」



 俺は目元に意識を集中して石化している人たちを見た。



 レベルは30前後が平均でなかなかの強さ。

 また鑑定眼は通常の状態異常も見ることができるようで、レベルの横には石化の文字が浮かんでいるのが確認できた。



 ただその文字の色は赤くなっている。

 おそらくは状態異常の強度をこの色によって分けているのだろう。



 そもそも『ストーンバイト』による石化の毒は噛みついた箇所のみに発現するという認識だった。


 それが全身まで及んでいることを考えると……嫌な予感がしてならない。




「でも……とりあえずは生きてはいますね。俺の鑑定眼のスキルレベルだと死体から情報を読み取れませんから」

「……。魔力の流れ、魔力の定着の仕方……こういったものからも生きているのは確認できました。一先ずは安心ですね」

「ええ、そうですね」



 ほっとした様子のルビーさんはできる限りの笑顔で俺に同調を求めてきた。


 確かに生きていたという事実はよかった、けどこのままこの状態が続くようであればどうなるかはわからない。




 俺の知っている『ストーンバイト』の毒は効果時間が数秒。

 表面上のみの石化ということも含めて後遺症などもなかったが、今度の場合はそれよりもかなり長い効果時間。


 あくまでスキルによる部分、つまり常識から逸脱した効果の増長が今回も行われている可能性が高く、石化していることで起こりえる事象も常識の範疇じゃないと思う。

 こんな状態でも生きているというのがその証拠になっている……とはいえ、やはり普通の感覚で見ると後遺症が残る可能性を否定できない。


 だから明確な情報がないうちは油断できない……。



「ルビーさん、ストーンバイトの毒もやっぱり血清が必要になるんでしょうか?」

「うーん……。私もあまりそのあたりの知識があるわけじゃないので何とも言えませんが……。魔法であったりスキルであったり……そういったものであれば発動者を倒すことで解除される場合がほとんどですよね。この人たちからは他の何かの魔力も感じますからきっと毒の効果は増幅されていて……」

「それを倒すことで解除されると……。ということは俺たちの選択は村に戻って医療知識に長けた人を呼ぶのではなく、深入りして発動者、発動主を倒すことってわけですね」

「仕事が増えちゃいましたね」

「はい。でも見捨てるわけにもいかないですから」

「っふふ……」



 ため息を溢しながらも、俺が洞窟の先に目をやるとルビーさんは少しだけ嬉しそうな表情を見せた。



「血が滾るって感じ、ですか?」

「ち、違います! いや、あの、笑ってしまったのは不謹慎だったと思いますけど……。レンヤ様ってやっぱり勇者様なんだなって……」

「……そんなに似てます?」

「ええ、困ってしまうくらい」




 そういいながらルビーさんは明かりを灯しながら俺の手に触れた。



 ――しゃぁあぁ……。



 その時だった……俺の耳には確かにモンスターの音が聞こえた。


 細く、長く、息が漏れるような、そんな声が。




「ストーンバイト……。レンヤ様、たぶんこっちからですよ!」

「分かりました。急ぎましょう」




 魔力だけでなく聴覚も俺より敏感なルビーさんの指し示す方向を見て、脚を早める。




 ――たったったったったったったったったったったったっ……チリン。




「ん? 今何か踏んだような……」

「多分この先をあの人たちの仲間が進んでいってるんですよ。きっと私たちと同じように発動主を討伐するために。それでその途中で落とした荷物を踏んだんだと思います」

「じゃあその荷物を……いや、先を急ぐべきですよね。その仲間もさっきの人たちみたいになってしまう可能性が高いですから」



 駆けていく足に感じた違和感と音。

 だけどルビーさんが魔力を感知しない、それに何も反応しなかったことから俺は立ち止まることなく洞窟の奥へと進んでいくのだった。



「――あっぶね、まさかこんなとこに別の人間が来るなんて思わなかったぜ。まったく余計に人は殺したくねぇってのに……。でもな、ここは俺の場所、俺の稼ぎ場。誰にも邪魔なんかさせねえ」







「――はぁはぁはぁ……。大分奥に来たと思うんですけど……それっぽいモンスター出てきませんね」

「ストーンバイトは元々人間の気配に敏感ですから、その主もこっちに気づいて隠れてしまっているのかもしれませんね」

「闇雲に動いてもダメってことですか……」

「そうかもしれないですね。……そうだ、この辺でちょっと休憩しませんか? このまま走り回っていても逆に効率が落ちてしまうでしょうし、ちょうどいい水辺もありますし」

「そ、そうですね。ルビーさんもずっと火を焚いているのは疲れるでしょうから、この辺り、輝石が多い場所は最適だと思います」




 石化している人間対を見つけたからすでに数時間。


 洞窟は思ったよりも広く、高低差もあって入り組んでいた。


 一応来た道には目印をつけて進んできた上、マップも書いてはいるけど……帰りがちょっと心配ではある。




「それにしても輝石があるなんて思いませんでした。これって東側だとかなり貴重なんですよ」

「そうなんですか? あ、でも確かに私とお母さんが元々いたところでもあまり見かけなかったかもしれません。それだけこの辺りはまだまだ資源が掘り起こされてないってことなんですね」

「ただ根こそぎ取ろうとすれば自然を壊したとかって言われかねないので気を付けないとです。さもないと契約違反であいつみたいに……」

「……考えただけで背筋が凍る思いですね。で、でも大きな建物も欲しいみたいなことも言っていたので、必要であれば大丈夫なんじゃないですか?」

「それは……。次に様子を見に来た時に相談してみます。でもいつ様子を見に来るのか……。なんか子供っぽい感じだったから忘れてそうでもあるんですよね」

「あはは、それはあるかもしれませんね。……と、お話はここまでにしてお昼にしましょう!」




 俺たちは平ためな岩に腰かけると、改めて洞窟の中を見渡し、遅めの昼食をとることに。



 ――パカっ!



「はい、じゃーん!」



 ここまでっずっと動きっぱなしだったのにルビーさんは元気いっぱいという様子で背負っていたリュックから大きめのランチボックスを取り出すと、勢いよくそれを開けた。




「これは美味そうですね」




 現れた黒い生地のパンを使ったサンドイッチ。

 間にはベロニア村の名産品であろうみずみずしく光るトマトがこれでもかと挟まれていて、長く、カリカリに焼かれた干し肉が2枚……この緑色の野菜はレタスかな?



「すみません、じゃあいただきま――」

「あーん!」

「え?」

「? ……あーん!」



 俺がサンドイッチを一つ手に取ろうとすると、それよりも早くルビーさんが俺の目の前にサンドイッチを運んできた。


 突然のことに変な声を漏らしてしまうと、ルビーさんは首を傾げ、手に取ったサンドイッチを半分に割って再び口に運んできた。



 いや、別に食べにくいって言ってるわけじゃないんですけど……。


 もう、これ食べないわけにはいかないか。




「あ、ありがとうございます。あーん――」




 ――がぶ。




 サンドイッチに挟まれた野菜たちが口の中に飲まれる音、そしてそれを咀嚼する音が漏れる。


 洞窟ということもあって音が反響してしまうから大きく聞こえるだけで、その咀嚼する様子はとても上品……。




「って、誰?」

「いや、その……すまない。腹が減って今にも死んでしまいそうだったが故……許せ! そしてもう一つ、いや……二つほどもらおうか!!」




 男らしい口調の……女性、だよな?

 というかこの人……俺どころかルビーさんですら気づけなかった。



 ……。レベルは……73、だと?


 

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