第23話 不穏なピクニック
「――それじゃあ出かけてきますから皆さんもほどほどに休みつつ頑張ってくださ――」
――ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ!!!
「畑を耕してる時の鍬とかもすごかったけどよ、レンヤ様……やっぱあんたすげえよ。熟しまくったトマトよりもやわかいぜこの土!」
「それに重さを感じないってのもすごいねえ! これなら女の私でも力仕事ができるってもんだよ!」
「がはははは!! お前さんはこれがなくとも男に交じって仕事してたじゃないか! 男どもが情けないからってよお!」
「あ? なんか言ったかい?」
「……すみません」
俺の言葉が全く耳に入ってこないくらい村の人たちは村の周りをひたすらにスコップで掘る。
あまりに快適に仕事が進むもんだから軽口も出ていい雰囲気……ってことにしていいよね?
女性の声があまりに太すぎるけど。というか腕も脚も筋肉が発達しすぎて道具が細く見えるんだが……。
「……。こっちに何か飛び火する前に出かけるとしよう。すいませんお待たせしました、ちょっと時間かかっちゃいましたがもう出発できそうです」
「全然待ってないですから謝らないでください。それと……この時間のお陰でお弁当も用意できましたし」
「あ、ありがとうございます」
早速『ストーンバイト』を探しに行こうとしたのだが、村の人の中にもまだ何かしたくてうずうずしている人がいる、とルビーさんから聞き、俺は数本の研いだっスコップを用意。
ルビーさんが心当たりのあるそんな人たちに声を掛けると、さっそく村の周りを掘り始めたというわけだ。
約束した報酬はもちろん渡すつもりなんだけど……ここまで頑張ってくれるな色を付けたほうがいいかもな。
他の村や街との交流も今までより盛んになるだろうし……村の人たちの手持ち金を増やすのも今後の課題になりそうだ。
自発的に交易をして、村で扱われるものが増えることでベロニア村をより強固に発展させることもできるだろうし、逆に輸出を盛んに行うことでトマトなどの作物が特産物として広まる……その結果として村を訪れる人の数は増えていく。
そうなることで村の価値というのは高まるはずだ。
もちろん、これをよく思わないような人たちもいるだろうけど……そう人たち程身分が高くて権力を持っている領主である可能性が高い。
面倒は付きまとうが反対にこれを手中に治められれば、いずれ襲い来るであろうスウェンに対して十分な武力で待ち構えることができる。
スウェンだって馬鹿じゃないから手駒は増やしてくる。
最悪その中に魔族が潜んでいるかもしれないことを考えるとやりすぎってくらいがちょうどいいよな。
「――うふふ、それじゃあ早速向かいましょう。『ストーンバイト』の生息地については検討がついてますからどーんと大船に乗ったつもりでついてきてください」
「あはは、わかりました」
そう言って自信満々に張ったルビーさんの胸が揺れると、俺たちは村を出た。
村を出るのはこれで2回目。
前回は目的である村に向かうことが目標であまり周りを見る機会がなかったけど、今回はモンスターの討伐が目標ということもあって探索できる機会でもある。
西側、それにこの辺りの植生、モンスターの種類、ダンジョンの有無……なにより鉱石の発掘場所なんかもちゃんと確認しておきたいところだ。
細かく研げる砥石は東側の実家に置いてきたままで、実は今まで研いできたものもまだまだ切れ味を高めることができる……。
そんな砥石が、砥石にできるような鉱石がこっちでも取れるのならそれに越したことはないし、場合によっちゃそれ以上のものを……なんてのは贅沢すぎるか。
でも、実家にあるものと同等のものは欲しいなぁ。
マトマたちにお願いして実家に向かってもらうっていう手もあるけど、どっちかっていうと俺の実家は王都寄り……スウェンたちと遭遇する可能性の高いところにわざわざ出向いてくれなんて、やっぱ言えない。
「――私的になりすぎるのはよくない。でも……炭鉱夫なんかの仕事が発展してくればついでにお願いできないもんかな?」
「炭鉱夫? それって何ですか? 私初めて聞きました」
「えっと、石炭というものを採掘する職業です。ちなみに石炭というのは製鉄したり……発電にも使われるもので、魔法を扱える人が少ない地域でもより豊かな生活を送れるための大事な資源になりつつあるんです。ベロニア村、というか東側でも発展途上の分野になるのでそれで初めて聞いたのかと」
「なるほど、勉強になります。私あまり他の場所って知らないので。その……実は発電っていうのもよく知らないんですよね」
少しだけ恥ずかしそうに髪をかき上げるルビーさん。
この様子からして魔族側でもこういった技術はまだまだ発展途上のようだ。
ま、それもしょうがないか。
そもそも魔法があればこと足りることが多すぎるし……俺みたいに冒険者なのに魔法が使えなくて、お金もなくて、それでもどうにか生活費を押さえようとして調べる人間でもない限りこんなのは調べないから。
でも、この村には魔法が使える人が少ないからこういったものを利用するのはありだと思うんだよな。
石炭を掘るって作業が過酷って話もあるけど、この研師ってスキルがあればそれも軽減されるし。
場合によっては炭鉱夫って仕事がこの村の特徴に……って石炭を利用しているところが少ないからあまりないから輸出で儲けるってのは難しいか。
西側の国、王都が東側よりもそういったことに励んでいるとも思えないから。
これだけ魔素が濃いのなら……多分スクロールとかの種類に関しては東側以上なんじゃ?
「――あ、そろそろ見えてきますよ。この林を抜けたあたりです」
「抜けたあたり? あの『ストーンバイト』ってこういった木々で陰った場所に生息しているイメージなんですけど――」
そんな他愛もない会話をしながら村の西側を進み、ついに森の中を歩いているとルビーさんが明るい声で先に見えた明かりを指さした。
そして木漏れ日というにはあまりにも輝きすぎているそこに踏み入ると、そこには川が流れ、側には明らかに怪しげな洞窟が。
「なるほど、ここなら暗がりが好きな『ストーンバイト』もいそうですね」
「はい、母とここで夜が明けるまで身を隠していたことがったんですけど、その時はすごかったですよ。そりゃもうにょろにょろにょろにょろにょろ……」
「あの、あんまり脅かさないでもらえると……」
「うふふ、すみません!」
嬉しそうに謝るルビーさん。この人は本当に……。
でもそれがちょっとかわいいのがずるいんだよな。
「私が魔法で中を照らすので早速――」
手の平の上に小さな魔法陣を展開するルビーさん。
しかし火はなかなかつかず、なぜかルビーさんは険しい顔で黙り込んでしまった。
「ルビーさん?」
「私と母がここで一夜を過ごしたといいましたよね?」
「はい」
「その時万が一魔族や人間が入ってきたらまずいと思って、私たちここに入れないようできる限りの結界を張ったんです」
「……張っていた、ですか」
今までの緩い探索、もうピクニックのほうが近いんじゃないかと思えるくらいの空気感が……一気に引き締まった。
「ええ。魔族でも簡単には破れない。この辺りの人間も同じで……。つまり1等級の魔族、或いはそれと同等以上の何かがこの洞窟に入った痕跡があるってことです」
――ぼっ。
息を飲み、ようやく火をつけたルビーさんはその瞳に揺らめく炎を映しながら俺を見た。
「どうしますか? 進みますか?」
「……。せっかく村の雰囲気がよくなっているわけですからね。不穏な事柄はできるだけ排除しておいたほうがいい思います。ルビーさんを危険なところに連れて行くのは気が引けますが……ついてきてくれますか?」
「はい、もちろん」
その返事を聞くと、俺は洞窟内を照らしてもらいながらその中へ一歩踏み入った。
すると……。
「これは……」
入り口から間もなくのところで完全に石化している体格のいい人間たちが姿を現したのだった。




