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第22話 通信と資材素材

『――あーあー……聞こえるかしら? あーあー……』

「き、聞こえますからできるだけ大人しく……」

『おにーちゃ! こっちはね、ぜーんぶおっきいよ!』

『お二人とも静かに! 我々が西側から来たとバレれば何が起こるか……』



 行かせる人たち間違えたかな?




 メアリーさんが緊急で村に帰ってきてから丸1日。


 危機は去ったと判断して、メアリーさん、それにその助っ人としてマトマと村の資材を管理している男性、カリムさんが東側へ渡っていた。


 通常転移のスクロールは1度に複数人移動することは不可能な上、魔素の濃度に大きな違いがあることから西側から東側、或いはその反対は不可能とされていたのだが、先日研いだルビーさん用の剣の効果によってスクロールの質が変化。

 これによってスクロールが許容できる人数が大幅に増え、色々と試したところこれに触れながら思念を流すことで、声や映像を立体化、文を送らずとも連絡がとれることが分かった。


 ただし、耐久力はそこまで高くなさそうだからできるだけ大事に扱ってもらいたいのだけど……全員それを忘れていそうで怖い。


 これってダメになったら金貨70枚払わないとなんだろ?


 いや、それだけの金はあるけど……そんな大金をバンバン使える金銭感覚が俺にはまだないんだよな。

 勇者パーティーにいたとはいえ、分け前は少なかったし、普通に貧乏性です。



「……。はぁ、西側と東側の間にある関所からメアリーさんは賄賂を払ってこっそり入れてもらったわけですよね? カリムさんの言う通りそんなメアリーさんが東側で発見されたとなれば問い詰められるのは必死。交渉するも何もなくなりかねませんからちゃんと仮面を忘れず、大人しく――」

『大丈夫よ! これでもあなたより長く生きているし、私ってなんだかんだ器用なのよ』

「……」

『なんで黙るのよ。……いいわ、用意してくれた剣を売り捌くだけじゃなくて受注契約もわんさか持ってくるから覚悟なさい!』

『ベロニアおっきくするからマトマと、こっちのカリムも資材探し頑張る!』

「ああ頼むなマトマ。それとカリムさん、大変かとは思いますけど2人のことお願いします」

『は、はい! これほどの大役を頂けたのですから期待された成果以上の働きをしてみせます! では失礼致します』



 これ以上うるさくなってしまう前に、と思ったのだろう 

カリムさんは早々に音声と映像を切ってくれた。


 今度カリムさんは帰ってきたら飲みにでも誘おうか。



「――それにしても、良かったんですか? マトマを行かせて」

「ええ。あの子には私と違っていろんなところを見てきて欲しいですから。それに瞳の色で差別を受ける……ということも向こうではないんですよね?」



 俺が話しかけると、ルビーさんは落ち着いた様子でもう一度俺に確認をする。


 若々しいルビーさんだけど、こうして子供を気にしている表情はやっぱり母親だな。



「はい。そもそも東側では魔族の見た目を知らない人がほとんどですし、ここよりも人種は多いですから。亜人種はいないですけど」

「亜人種がいない……それなら大丈夫そうですね」



 ほっと胸を撫で下ろすルビーさん。


 こっちに来てからまだ亜人種を見たこともないけど……ちょっと訳ありな人たちなんだろうな、きっと。



「それよりも、これで沢山の資材が手に入るようになれば他の村の長たちがやって来るよりも先により村をよく見せることができそうですね」

「そうですね。やっぱりここ、ベロニア村がここまでの発展を遂げたと見せることができればいい条件で協力してくれるでしょうし、ちょっと頑張らないとですね」



 今後ベロニア村を発展させることで、国や王都から信頼を得たいと考えている。



 後々は東側と西側の関所の全権を担うことも狙っているから、それに足りるだけの規模に、最終的には国として認めらるとかは流石にか。



 

「はい。しっかり支えますから一緒に頑張りましょう」



 ルビーさんは耳に近いところでそう囁やくと、そっと身体を寄せてきた。


 近い。胸当たってるよ……。



「え、えっとそれじゃあ早速防護壁と堀を作りましょうか! 一応周りに柵はありますけど、やっぱりあれだけじゃ心許ないですし」

「レンヤ様の宿敵が来たときのことも考えれば私もそれがいいと思います。でもそれだけ大きな仕事となれば時間も掛かるはすで、村長たちがやって来る日には間に合わないかもしれません。それに資材も足りない気がします」

「あー、実はそれについてメアリーさんと考えていたことがあって――」

「メアリー、さん? 2人で、ですか?」



 途端にルビーさんは腕をぎゅっと掴み、笑顔で俺の顔を覗き込んできた。


 笑ってるけど怖いよルビーさん。



「ほ、ほらメアリーさんって俺たちよりも年上で、冒険者としても俺より長く活動していたみたいだからさ、ちょっと相談に乗ってもらってたんだ。それで、もし俺が研いだ道具がどれも破格の性能を持っているのだとしたら、『ストーンバイト』の毒を使ってみたらどうかって」

「あ、またこういうときばっかりそんな口調で……ってストーンバイト!? あんなモンスターでそんな強固な壁なんて作れるの!?」



 相手に一時的に血を凝固させる毒を流すモンスター、それがストーンバイト。


 通常この毒は直接体内に流し込まれることが考えられているから、魔素や外の空気にめっぽう弱い。


 だからそれを使って何かを作ろうなんて発想普通は思い浮かばないけど、メアリーさん曰くあれが魔素の影響なく普通に取り出せるのならかなり優れた素材になるかも……らしい。


 で、その魔素の影響を受けず取り出すという言葉に思い当たる節がありすぎる俺はこれを利用しようとしているわけだ。



「多分大丈夫です。……多分」




 『ストーンバイト』はコボルトなどの犬獣種の主食であることがほとんど。

 だとすればこの辺り一帯で確認しているモンスターたちからしても『ストーンバイト』はほぼ100パーセント生息している。



 だけど『スネークバイト』って人間の気配に敏感なのと……俺、あの見た目が駄目なんだよなぁ。

 とはいえ死骸だとスプーンの効果対象外だし、やっぱり生きたままあれに触れる必要が……。



「もしかしてレンヤ様でもそれを取り出す道具に昇華させるのは難しい、とか?」

「いえ、それは昨日手持ちのスプーンで試したので大丈夫です」

「となると……もしかして怖いんですか?」



 苦手だってことを隠すためいつもより真面目な顔をしたのが仇になったらしい。


 ルビーさんは俺の顔を見てクスクス笑い出した。



「そ、そんなに笑わなくても……」

「あ、ふふ……。ごめんなさい。レンヤ様がシンヤと似て可愛かったから、つい。勇者って真面目だから嘘が下手くそな人たちなのね。うふふ……」

「いやまぁ、ある意味では」



 はっきりとものを言うスウェンの姿を思い浮かべる。


 うん。あれは正直だけど全然可愛くなかったですね。



「それにしても『ストーンバイト』かぁ。そういえば最近は狩りもろくに出来てなくてあのお肉にありつけてないのよね」

「へ、へぇそうなんですか」 

「それに私魔族だから背後をとるのも、場所を探るのも得意で」

「な、なるほど?」

「だから私が一緒に付いていった方が絶対楽ですよ。ねぇレンヤ様もそう思いますよね?」



 悪役かと疑いそうになるくらいの笑顔。


 からかってる。

 マトマがいないからって優しいお母さんから女王様のそれになってる。


 怖がってるとこを見られるのは恥ずかしい。

 

 でも村のことを考えれば……。



「はい。思います。よろしくお願いします」

「うふふ。これでレンヤ様の怯えた可愛い顔が……じゃなくて恩返しが出来ますね。そうと決まれば早速準備しましょうか」



 ……ルビーさん、本音出てますよ。


 あなたも嘘つけないタイプなのね。



 はぁ、久々の冒険者らしい仕事だけど魔族なんかよりよっぽど気が重いや。

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