第21話 商人魂
「――と、いうわけで早々に帰ってきたってわけ。いやぁまさか街に、しかも東側で魔族が出るなんて思わなくて……」
「そうですか……。いや、まぁそれでも無事で良かったです。王とへ向かう、いわゆる下りのルートは万が一ってことがあるので出向かないこと。それと、次東側に行く際には2、3人同伴してもらいましょうか」
「――はい。……うわぁあああああ、怖かったよお! マトマちゃーん!!」
「メアリーおねーちゃ……。よしよし」
東側から帰ってきたメアリーはいつもの誰よりも大人で、商人魂溢れる雰囲気から一変、みっともないくらいに泣きわめきながらマトマの胸の中へダイブした。
マトマに頭を撫でられる様子を見ているとどっちが年上なのか分からなくなるな、と突っ込みをいれたくなってしまう。
ルビーさんや村の人たちも苦笑いを浮かべていて……なんというか、ついこの前村にってきた時の緊張感が嘘みたいだな。
「それにしても、スウェンが俺を恨んでか……。面倒なことになったな。しかも魔族の気配を纏っていたとか……。人違いじゃないですよね?」
「うぐ、えぐっ……。あの街に勇者様がいるというのは有名で、私も何度か見掛けてるから間違えるはずがないわ。それに、ルミアって人とか、周りの人たちもその名前を呼んでたから。あれ……多分西側までくるわよ。どうするの?」
スウェンが俺を殺すために西側へやってくる。
しかも動機が俺が妬ましいから……。
ふざけるなよ、散々俺のことを使えないだのいらないだの言っておいて……俺がちょっと剣を強化できると分かった途端これかよ。
自分より目立つのが気に食わないって駄々をこねる子供以下の思考回路じゃねえか。
そりゃ心の隙をつかれて魔族になるわけだよ。
同情してやる余地がない。
だから……。
「スウェンの動向を逐一確認して、時が来れば迎え撃つ。そうだな……あの街からここに来るまでおそらくそれなりの時間があるからそれまでに国と連携して軍を整備しようと思う。この場所の主に任せられた共存って主題にもスウェン討伐、或いは捕獲は役立ちそうだしな。……。それと、俺のせいで危険な目にあう可能性が出てきてしまったこと、本当に申し訳なく思ってる。ごめん」
スウェンに対する今後の方針と、今回のことで迷惑をかけてしまうことをこの場の皆に伝えた。
するとルビーさんやマトマ、村の人たちはきょとんとして見せる。
俺、まずいこと言っちゃったか?
「レンヤ様、頭を上げてください」
「うん! 全然謝ることないよ!」
なんとも言えない空気の中、気まずそうにしているとルビーさんとマトマが口を開いた。
その顔はこちらの心配とは反対に笑っている。
「レンヤ様が来てくださらなかったらベロニア村はなくなり、皆洗脳されてしまっていました。だから私たちはレンヤ様に救われたと感謝していて……謝って欲しいなんて全く思っていません。むしろ、レンヤ様の役に立てると嬉しく思っているくらいですよ」
村の人たちはそれぞれやる気満々といった様子で俺に視線を集めた。
「はは、そう言ってくれると本当に助かります。皆さんありがとうございます。ルビーさんも……えっと、ありがとな」
「あ、いえ……。そんな私は……もう、ズルいですよ。こんな時にそんな感じでくるなんて」
前に話していた通り、精一杯の砕けた口調で話しかけるとルビーさんはまた赤くなり困った様子を見せた。
やっぱりこれ止めた方がいいんじゃ?
「軍の整備……ということは合わせてこの村の設備も向上させるべきよね。となれば何より資金の工面が必須。ふふふふ……ねぇ荒稼ぎしてくるから助っ人を何人かお願いね。あ、あと危険なところに出向くわけだから分け前は……」
「分かってます。まったく、あんなに泣いてたのに金となればすぐこれって……」
「仕方ないじゃない、私商人なのよ」
胸を張ってふふんと鼻を鳴らすメアリーさん。
その姿に初めてあったときのことを思い出してしまい、俺はどうしようもなく不安を抱いてしまった。
「それでももう実績をあげてくれたんだから信用しないわけにはいかないか。あんな短い間にこれだけの稼ぎ……要塞とか作れるかも、なんてな」
――ジャラ。
冗談を呟きながら俺は剣の売上によって手に入れた金貨袋を軽く鳴らしながら笑った。
だって今からこれを見て驚く国で働く商人たちの顔が浮かんでしょうがないのだから。
◇
時は戻ってメアリーがベロニア村を訪れた日。
「――それでどうやって村に? というか西側に入ってきたんですか?」
「粗茶ですが……」
突然やってきたその女性を、俺は事情を聞くよりも先に自分の家へ招待していた。
女性に悪意は感じられなかったから大丈夫、と一応村の皆には知らせたが、なぜか膨れっ面だったルビーさんたけは万が一もある、の一点張りでついてきてしまっていた。
結果招待した女性に茶を注いでくれたり、菓子を用意してくれたりと助かってはいるのだけど……やっぱり視線が怖い。
俺は何もしてないよね?
「その前にまずここに迎え入れたこと、本当に感謝していますわ。私の名前はメアリー。寛大な対応ありがとうございます」
「あ、はい。俺はレンヤ。俺の場合は訳あって偶然ここに飛ばされたわけですけど……。メアリーさんは確か俺に会いにきたとか……。申し訳ないんですけど、どこかでお会いした覚えはなくて、理由もさっぱりなんですよね」
スウェンと一緒に飛ばされたっていうならそっちを追って誰かがやって来るのは分かる。
だけど個人だと何もやりとげたものがない俺なんかを追いかけてくるなんて……まったく検討がつかない。
ファン……ってこともないだろうし。
「そうですね。確かに私たちは面会したことがありません。あなたみたいな人が勇者パーティーにいることすら知りませんでしたわ」
「じゃあどうして――」
「研師。そのスキルを使って研がれた武器をたまたま目にしたんですよ。そしてそのスキルの発動者があなただと判明した。ここまで言えば私の目的はなんとなく理解頂けますよね?」
俺のスキルを利用したい……つまり金稼ぎの道具をたまたま見つけてこんなところまで飛んできたってことか。
このハングリー精神……商人の行動力は時に冒険者を凌駕するわ、なんてエリがたまに口にしてたけど……。
ごめん。あれマジだったんだ。
「目的は、まあ。でも初めましての人に、はいいいですよ、と二つ返事するのは難しいですね。俺の研いだ剣は自分で思ったよりも強力で、もし悪用されでもしたら……」
「なるほど。それなら私に考えがありますわ」
俺の反応を見たエリさんは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出して胸を叩いた。
すごい、揺れてる。
「――こほん!!」
「あ、あのその考えって何ですか?」
ルビーさんのやけに大きな咳払いを聞き俺は慌てて視線を逸らす。
これ以上機嫌を悪くさせたらどうなるか……。
「それは……まず私にその剣を1つ貸して頂いてからですわね。私だって商品を見ずに交渉を……だなんてしたくはありませんもの。っというわけで失礼!」
「あっ!」
メアリーさんは俺の目を盗んで研いだばかりの剣を勝手に掴んだ。
「それはルビーさんに渡そうとしていて……」
「え?」
咄嗟にそれを止めようとして、まだ言わずにおいた言葉が口から出てしまった。
するとルビーさんの不機嫌はどこかに飛んでいったのか、顔を真っ赤にして嬉しそうに微笑んだ。
喜んでくれるのは嬉しい……けど、今じゃないんだよなぁ。
「――凄い! 勇者スウェンが持っていたものとは段違いじゃない! って、え? これ……」
剣を掲げてうっとりするメアリーさんの腰辺りが光った。
これがこの聖剣の能力――
「転移のスクロールの色が変わった……だけじゃないわ! 転移距離とか回数とか、連絡手段としても使えるとか本当! 魔が浄化されて聖光力って……なによなによこの概念わ! ほらあなたたちも見て!」
子供みたいにはしゃぐメアリーさん。
そしてその下半身の大人色は剣の判定だと魔になったのだろう。
ヒラヒラと光になって舞い落ちてしまっていた。
「あ、あの下が……」
「え? ……。……。……。きゃあああああああっ!」
響き渡る悲鳴。
申し訳ない気持ちが湧き上がって俺はついその言葉を放ってしまう。
「あ、あの……すいません。えっと……研いだ剣そちらに下ろしますから殴らないで!」
メアリーさんはぐっと握った拳をむむむと呻きながら下げ……。
「あんなにエッチなものを私に渡そうと……。いやん、なんか熱くなってきちゃった」
なぜかルビーさんは嬉しそうに火照った顔を手団扇で冷まそうとしていたのだった。




