第20話【エリ視点】興奮しちゃう
「あそこいた魔族よりも強そうには見えなかったとはいえ……やっぱりこの剣は特別ね! それにほら、魔族のしつこい血も、高濃度も魔力もこーんなに簡単に払い除けられるわ! 私ってばスキルを使ったわけでもないのに!」
あまりの出来事にその場にいた人たちのほとんどが黙っていた、というのに魔族を斬り捨てた女性はわざとらしく剣の凄さをアピールし始めた。
確かに凄いのは凄いけど、こんなに自分から言われると素直に誉めてあげるのも難しそうね。
「えっと……。誰かは分かりませんけど助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ! 商品を紹介するには丁度いい機会だって思っただけだから気にしないで!」
そんな中まず女性に話しかけたのはルミアだった。
行儀よくお辞儀をするところとか、お礼を忘れないところとか、スウェンなんかには勿体ない女の子。
あとは男運があればってところ……私がそれを言うのはおかしいけど。
「……って、商品? それは売り物なの?」
「残念ながらこれは非売品でして……。でもこれと非常に近い切れ味、そして何よりも魔を払う力を持った剣を本日3本限定でご用意させて頂いております!」
よく見ると女性は背中に雑に剣を放り込んだ筒を背負っていた。
商人ってことかしら?
でもいったい何者? 目元を隠すお面をつけているけれど、魔族を倒すくらいの人物なら流石に有名なはず……。
それとも……本当にあの剣が凄いだけ?
……。そんなのはあり得ない。
だってそれだけの業物っていうのなら国など、出所が分かるエンブレムがあるはず。
でもあの剣にはそれがない。
聖剣のような伝説の存在ならそれは別だろうけど、聖剣は……いえ、スウェンの持っていたあれは聖剣ではなかった。
ただの骨で、紛い物。
ということはこれが聖剣……それを模した、ちゃんとしたレプリカ?
「あの……。それはどこで作られたのか知ってる? スウェン……。勇者が持っていた聖剣は偽物だったみたいで……もしかしたらそれも――」
「いえいえ! これは確かに聖剣、いやそれを超える一振りですが偽物呼ばわりされていい代物じゃありませんよ! 名のある研師がしっかり、丹精込めて仕上げたものですから!」
研師。
鍛冶職人ではなくて研師……。
あの剣を用いていた時の光とルミアの槍が放っていた光……。
もしかしてそれって……。
「レンヤ……。生きていたんだ。そしてあいつが、これを仕上げた。俺に聖剣もどきをあてがったのも……。全部全部あいつが……」
「スウェン?」
「あいつが、あいつさえいなければこんな羞恥に晒されることも、ルミア……お前の気持ちが揺れることもなかった。そうだ、全部あいつが悪い。あいつさえいなければ、きっと今頃は順風満帆な旅路になっていたんだ!」
ルミアの心配する声を無視してスウェンはぶつぶつと呟き続け……眼は赤く変色。
私の中にあった予感は的中してしまったらしい。
「魔族への変化……。スウェン……あんた勇者の血を引いていなかったの? でも、スキルは持っていたわよね?」
「なにを言っている? 俺は勇者。真の血を引く者。そんなに言うのなら見せてやる、その証拠を。勇者として、魔王や魔族だけでなく、聖剣なんて紛い物を作る悪しき者、それにくみする人間たちまでをも皆殺しにすることのできる力を!」
スキル名でもある勇者。
それは過去にこの地上を救ったとされる1人の人間から代々引き継がれてきたもの。
それを取得したものは後にこの世の闇を晴らすほどの力を手にし、いかなる敵をも殲滅する。
その身を削る勇気をもって。
「私の植え付けた魔と勇者のスキルが噛み合って、魔族となるという代償を払って力を得た……ってところかしら。うふふ……嬉しい誤算もあったものね。もし、これを制御できるようであれば私はこの世の富、全てを手にすることだって――」
――ブワッ。
欲が口に出たその時、凄まじい殺気が辺りを包んだ。
その殺気にあてられただけで数人が気絶。
まさかとは思うけどその皆殺しに私たちはカウントされていないわよね?
「――やめてスウェン! この人たちは関係ない!」
「……。ルミア、お前は本当に優しいな。こいつらは俺を笑って、その女の持つ剣にばかり気をとられていたってのに……」
「それは……そうかもしれないけど。でもだからって人間を殺すなんておかしいよ。私の知ってるスウェンはそんなことしない」
「なるほど。じゃあ余計に知らせてやる必要があるな」
スウェンのその言葉で辺りの緊張感がさらに高まった。
殺される。
誰かが、間違いなく――
「じゃ、じゃあ西側に行こう! あの、えっと……。あっちの人たちはこっちでは……人って扱いされてない。見せしめにするならそっちの方がリスクもないと思わない? ここで殺しなんかすればS級冒険者とか貴族とかに追われるようになって面倒だよ、きっと。それにそうなっちゃうとレンヤ君……レンヤの野郎に勘づかれて逃げられるかもしれないし!」
「……。西側へ、か。それはいい案かもしれないな。そもそもレンヤのいる場所は西側の可能性が高い」
「そうよね! だったら――」
「だが、俺を笑ったやつはまだしも……。その剣を売ろうとしている女は見逃せないな。知ってる情報を吐いてもらう。そしてルミア……お前が俺を裏切ればどうなるか、ついでにそれも教えてやる。……ん? あいつはどこにあった?」
2人の予定が決まり、最悪な光景が描かれようすると思われたが、商人の女はどこを見渡しても姿が見えなかった。
気配も感じない。
「い、いないね」
「ちっ。逃がしたか。まぁいい、女から剣を買ったやつを探しながら西側を目指していれば嫌でも拠点は分かる」
「そ、そうだね。それじゃあ西側に向かって出発しよ! あ……皆、この事は他言無用だよ。じゃないと今度はどうなるか分からないから……」
必死に笑顔を作っていたルミアは一瞬だけ真剣な表情を見せ、警告。
そのままスウェンの腕に抱きついて歩き始めた。
ルミアらしからぬ言動……説得は諦めて、せめて被害が出ないようにする。
そのためにあなたはあれに付いていこうって決めたのね。
優しい子。でも本当にお馬鹿。
さっきのルミアの眼の動き、おそらくは私がスウェンを遠回りして連れて行くからエリはレンヤ君を、って意味で……私を信用した。
でもね、スウェンがそうなった原因は私なの。
それに……こんな状況だっていうのにあなたの信用した私は興奮している。
「最低な人間……。だけど仕方がないわよね。暴れ回ったスウェンが魔王を討伐して……死んだはずの人間はルミアのために最強の剣を作る羽目になり、襲いくるスウェンを討伐。でもルミアからは非難されてその心は隙だらけ。そうなれば私の魔を植え付けられる。だから私がそれを討伐したと伝えても構わない。そう、何も問題はない。2人をけしかけたのが私だとしても、誰も気にはしない。……。さ、私は私でやることが出来たわ。だからこの首は私がもらってあげる。それと王都への報告も……私の都合がいいように伝えてあげるからね、ルミア」
私は女が斬り捨てた魔族の頭を拾い上げて風呂敷でくるんだ。
これがあれば勇者の代わりに私が西側へ向かうことを理解してくれる。
報酬もたんまりで、ノーリスクで向こう側に渡れる。
あんな姿になったスウェンじゃ王に会えるはずはないだろうし、それを知られることはない。
……完璧。あまりにも完璧だわ! そうだわ、死体も集められるよう色々変装の準備もしようかしら。
「これは楽しくなってきたわね。……。ただあの女本当にどこにいったのかしら? 西側にレンヤがいるのなら転移のスクロールを使った可能性もあるけど……。そんな様子はなかったし……。そもそもあれは使用許可が必要な上、何度も使えるものじゃないはず。値段を考えても……。ま、あんまり気にすることはないないわよね」
そうやって自分に言い聞かせながら、私は王都を目指すことにしたのだった。




