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第17話 大人と大人

「――勇者様、魔族の出現により逃げていた近隣の村人たちを発見。新たに研いだ鈴を手渡し、のちに設置。人間に姿を変えている者がいないかの確認も完了しましたので一時帰還いたしました」

「あ、はい。ありがとうございます」

「またこの度の騒動の原因となっていた前村長の討伐について謝罪と討伐の報告もしたわけですが……」

「で、ですが?」

「村長たちからは非難の声が上がらず……代わりに『良い付き合い』をしたいので話し合いの場を設けたいと……」

「わ、わかりました。では早速日取りの提案を……。文を用意するので明日、いや明後日の朝また訪ねてきてください」

「了解しました」



 そうしてきれいな敬礼を見せると、伝達役を買って出てくれた男性は俺の部屋から出て行った。



「お疲れ様です。お茶、お熱いうちにどうぞ」

「あ、ありがとうございますルビーさん」

「私はお菓子作った!」

「ん? ああこりゃうまそうだ。ありがとうなマトマ」




 ――あれからさらに二日が経過。



 村長がいなくなったということ、また記憶を、その意識を操作されていたという事実から村人たちは混乱。


 きっと元の村に戻るまでそれなりに時間がかかる……なんて思っていたのだけど、そんな心配はどこへやら。


 操作されていた期間のマトマやルビーさんによる村人たちとの関わり方、築いてきた信頼関係はそう簡単に崩れることなく、むしろ二人を労い、謝罪する様子まで見られた。



 私たちのせいでお母さんと勇者を失ってしまった、と。



 その言葉により、ルビーさんも気持ちが楽になったようで前よりも顔色がよくなったような気がした。


 お茶を淹れてくれるその仕草とその表情が合わ去った時の破壊力といったら……いけないとわかっているのについつい視線を向けてしまう。




「あの……私の顔何かついてました?」

「い、え! 違います! ただ綺麗だったので! って、あ……」




 視線に気づかれて咄嗟に本音が出てしまう。


 顔が赤くなって熱い……。それにルビーさんの顔も。


 いかんいかん、俺にはルミアがい……。いな、い。

 ルミアはスウェンを選んだ。だから当然俺の側にはいない。



 もう一度会いたいって、そんな気持ちはただのエゴでしか――




「――おにーちゃ! おかーちゃもいいけど、私のがいい! でしょ?」

「え? あ、それは……。あはは、マトマもかわいいと思うぞ」

「えへへ……。じゃ私お外行ってくる! みんなと剣鍛えるの楽しいから!」




 少しだけ気持ちが沈みそうになっていると、マトマが俺の正面でとびっきりのセクシーポーズを見せてきた。


 右腕を頭の後ろに送り左手を腰に当てるという、なんというか子供らしいそれ。


 で、残念ながらそれに欲情することはなかったわけだけど……なんか、深く考えたのが馬鹿に思えてちょっと気持ちが楽になった。




「――あの子なりに心配しているのだと思います。あの子は魔力にも、人の気持ちにも敏感ですから」

「……。優しい子ですね」

「ええ。私と、あの人の娘ですから。きっと村長を慕っていたのも黒い気持ちをどうにかしたい、そんな一心だったんじゃないかなって……。ふふ、そこまでの子だと思うなんて、それは流石に親馬鹿すぎますね」

「……あはは、確かにそうかもです」

「あ……。レンヤ様、やっと笑ってくださいましたね」



 大したことの会話、でもそれがすごく楽しくて……俺はいつの間にか自然と笑っていたらしい。


 思えばあの戦いのあとすぐに動き始め勇者、勇者候候補として村長の代役を務めてきた。


 俺なんかに務まるはずないなんて言い訳をする暇もなく。

 それだけ村の人たちから掛けられていた期待は大きくて、責任も強く感じていた。


 でも慣れないことをほぼ休みなしで続けていれば、当然疲れもたまる。



 だからルビーさんもマトマもそのことに気づいていたからこうしてサポートに徹してくれていたんだろうな。



「あの……。すみません。俺、ちょっと無理しすぎてたのかもしれません。まったく……こんなの全然柄じゃないってのに。というか、そもそもあのパーティーにいた時から自分を殺しすぎてたかも。……俺、本当はだらだらするのが好きで、休みは昼過ぎまで寝てたい人間なんすよ」

「え……。あ、そ、そうなんですね! いいですよね! いっぱい寝るのも私も好きです!」



 方の力を抜いてルビーさんに語り掛けるとその顔は驚いた様子を見せ、さらに赤くなった。


 ちょっと砕けた接し方すぎたかな?



「あの、もとに戻し――」

「いえ、それで! そのままで! ……。あ、その……。私も少しお外の空気吸ってきます! だからレンヤ様もちょっと休んでいてください……。ちゃ、ちゃんと休むのよ」



 ――バタン。



 強めに開閉された扉。


 うーん……。悪かったのか、よかったのか……何もわからん。

 女性って難しい。



「ま、まぁ嫌われてるわけじゃないからいいか。ふぅ……。休憩、か……。じゃあ久々にあれしますか」



 伝達係の人の安全、場合によっては交渉……というか信頼してもらうための材料として必要になると思い、俺たちの手元にあったすべての鈴、また汚染水と汚染土を浄化するためのスコップや鍬を手持ちの研磨紙で簡易的に研いではいた。


 でもちゃんとした場所で丁寧に、となると手持ちのナイフ一本のみ。


 研師としては不完全燃焼の仕事ばっかりで、実はもやもやしたところがあった。



 念のため伝達係には休養もかねて長めの大気をお願いしたし、ベロニア村の作物と汚染水は復活。


 ルビーさんの解放された力によって汚染が進んでいた、なんていうことも実は鑑定眼の効果で判明していたんだけど、それも完全になくなっている。

 それどころかルビーさんはその力に変化が表れているみたい。……ま、その内容は今の鑑定眼だと読み切ることができないんだけど、当然悪いことじゃない。



 連合に向かって最低限の行動も起こせているし……ルビーさんの言うようにちゃんと休む、というか楽しませてもらうとしよう。



 スウェンたちが持つ武器のメンテナンス係としてパーティーで働いていて、結局あんなことにはなったわけだけど、研ぐ作業ってなんだ楽しいんだよな。

 この誰の目も気にせず没頭できる感じとか、あからさまに見た目が変わっていく爽快感とか。




「砥石……。こっちにあるのは天然ものだけだからやっぱり、俺のを使うか。……もっと大きいのが欲しいところだけど……そのうちこれも作れたらいいな、っと。……よし、キッチンでも借りてやるか。あ、詰まったりしないように準備もしないと」




 砥石は主に天然岩を用いるけど、俺はそれに硬度を高める魔法などを付与してもらったものを使用している。

 こっちのほうがきめ細かい仕上げになって、切れ味が高まる上、仕上がった後のきらめきが違う。


 スキルがそのあたりの違いをなくすくらい強力だってのはわかっているけど、やっぱり本腰入れて研ぐのならいいものを使いたいんだよな。



 村で魔法を使える人は多分ルビーさん、それにマトマも頑張れば……。

 シンヤ……相棒も魔法を使えるかもだけど、昨日の夜からどっかに行ったままなんだよな。



 あのレベルで、しかもしばらくは魔族が出ないだろうって状況だから心配はいらないだろうけど。

 それに、ルビーさんが怖い笑い顔で真っ赤な首輪もつけてたし。



 ――シュッ。シュッ。シュッ。



「一先ず心配ごとはなし。もっともっと、今日はこの剣を完璧に仕上げるぞ」



 ――シュッ。シュッ。シュッ。




 本日の獲物はこちらのショートソード。

 村にあった数少ないちゃんとした武器。


 体格のいい男たちは斧やなんかを使えば戦えるけど、女性は筋力的に難しい。



 だからまずは女性でも扱いが比較的楽な剣を仕上げていく。



 特に今後狙われる可能性が高のは潜在能力の高いルビーさん。

 咄嗟に魔法を使えなくはないんだろうけど、こういったものがあったほうが本人も安心なはず。



 刀身はもちろんのこと、持ち手の部分もできるだけ細部まで研ぎ、丸みを意識。

 多少薄くなってもいいから丁寧に何度も何度も……だんだんと砥石の種類を変えながら。


 ルミアの槍をメンテンナンスしていた時に教えてもらったんだけど、がさつな男たちと比べて女性は武器の状態が気になってしまうことが多いらしい。


 場合によってはその武器の状態でスキルの効果や負担が下がってしまうこともあって、でもその反面かみ合ったときは効果絶大なんだとか。



 借金をしてまで武器を買い揃える女性冒険者が多いのはなんとなく知っていたけど……まさそれが原因と知ったときは驚いたもんだ。



 

 ――シュッ。シュッ。シュッ……。



「そう、だから仕上げまで手を抜かない……は、当然として確認も怠っちゃダメなんだよな。えっと……うん、これは大作――」



 ――わんわんわんわんわん!!




 研ぎ終わったショートソードを眺めていると、外から相棒の鳴き声が何度も何度も聞こえてきた。


 いなくなったと思ったら今度はこれか。

 シンヤの意識がないと本当に元気いっぱいなワンちゃんでしかないよな。




「――どうした相棒……」

「おにーちゃ!」

「レンヤ様!」

「わん!!」



 鳴き声につられ、ショートソードを持って外に出るとそこには慌てた様子のマトマ、ルビー、村の人たちがいて、俺に視線をくれた。



 これはただ事じゃないと、俺は元気よく吠える相棒の姿を探すように視線を右側に移した。



 すると……。



「――その剣……あなたがレンヤ、かしら? っふ、会いたかったわ。でもその前に……このワンちゃんどうにかしてくれるかしら?」



 相棒にスカートを引っ張られ困った様子の、紫色で大人な下着をつけた……大人の雰囲気を身に着けた女性の姿があった。

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