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第16話【前半別視点】それぞれの目的

「ちょっと痛いかもだけど我慢してくれよな。なあに、ほんの数秒さ」

「わう……」



 白い毛を触られながらそのモンスターは口を開けた。

 可愛らしい顔のわりとは反対に、びっしりと生え揃った歯牙は怖くさえ思える。



 でも勇者様、レンヤ様は躊躇することなくその歯牙に手を差し出す。

 その手に持っていた研磨紙で擦る。



 その様子を真剣な顔で見るマトマ……そして私はそんな二人よりも遠い場所でそのモンスターを見る。



 だってそれが本当だとして……私はどういう顔をすればいいの?



 ――ピカ。



 期待と不安の間で揺れていると、モンスターの身体が強く輝き出した。



「完了、したのはいいけど……」

「レンヤ様、おかーちゃ、どこ?」



 真っ白な世界と化したベロニア村。

 でもさっきまで見ていた記憶の世界とは違って、みんないる。


 そう、ここは現実。



 現実だから、そんなのありえないはずなのに……。



「――あな、た?」

「ごめんな。一人にしちまって」



 私の目の前には白い髪をたなびかせる最愛の人が立っていた。



「あな、たっ!」



 気づけば私の身体は駆け出していた。

 理屈なんてどうでもいい。


 もう一度あなたを抱きしめたい。あなたに抱きしめられたい。



「おいおい、もうお母さんなんだからそんな泣くなって」

「だって……だって!」

「……。本当にごめん。あの時お母さんを救ってやれなかくて、守ってやれなくて――」



 シンヤの胸に飛び込んだ。


 そうしてその胸を濡らしていると、シンヤはその温かい手が頭を撫で、謝罪を繰り返した。



 ――だから私はその口を自分の口で塞いだ。



「ん、はぁ……。許さない。けど、私の好きな人を悪く言うのはもっと、駄目……」

「ルビー……」

「それに私こそ……。あなたを怖く、憎いって思って……あいつに利用されそうになってた。本当にごめんなさい」



 唇を離すとこれまでを振り返って謝罪した。



「……。あはははははははは!!」

「な、なにがおかしいの!?」

「いーや、俺たち折角また会えたのに、謝ってばっかりだと思ってな。このままじゃ何日あってもろくな会話になんねえかも」

「だって……。だってぇ……」

「ってわけでここからは一方的に伝えさせてもらうな。勇者……というかその候補さんと、かわいいかわいい愛娘にも」



 軽い口調は変わらずに、シンヤは真剣な空気を漂わせ始めた。

 この感じ……すごく嫌な予感がする。



「聖剣。こいつの持つ力はすげえ。魔法でも不可能なことを叶えることができる……()()()といってもいいくらいの代物だ。まさかこうしてモンスターの姿ではあるものの、聖剣と混ざったことで命を繋ぎ止められるとは思わなかった。だが……完璧じゃねえ。実際今日まで勇者候補が接触してくれるまで、俺はその意識が戻らなかった。多分、こうして話す時間も、もうそんなにねえだろうな」

「そんな……」



 天から地に落とされたよう。

 もう離れたくない。離したくなんてないのに。



「だが、完全に消えちまうってことはねえはずだ。だったら俺の存在はもっと早い段階でいなくなっていた。だろ?」

「あ……」

「つまりこのことから俺が何を言いてえかって言うとだな……」



 シンヤは私の様子を見て少し安心したように息を漏らすと言葉を溜めた。



「勇者候補レンヤ。お前が本当の勇者となるためにも聖剣を、俺に通う勇者の血を媒介として正式に預ける。そんでもってその冒険に協力する代わりに、お前はお前でその奇妙なスキルをもっともっと鍛えて聖剣の真の力を見いだしてくれ。というか、まるで別物……新しい聖剣に変えてくれ。はっきり言ってこれは俺の願望丸出しの……我が儘でしかねえ。だけどよ、決して悪い話ってわけでもねえだろ」



 シンヤが、また戻ってくるかもしれない。

 夢でしかなかった生活が取り戻せるかもしれない。



「私からもお願いします! 当然レンヤ様のために尽くしますから!」

「わ、私も!!」



 よこしまな思いといわれても構わない。

 その覚悟を持って私は声を荒げた。



「その、えっと……。俺は俺で目的があって……。つまりですね、俺もあなたたちを自分のために使ってしまうかもしれないんですけど……それでも大丈夫ですか?」



 丁寧な口調。でもどこか気の抜けたそれは私たちの緊張を一気に解いた。


 シンヤもそうだったけど、勇者と呼ばれるようになる人たちってみんなこんな感じなのかしら。



「ぷっ! たははは! 構わねえ! 構わねえよ! いや、むしろ俺としても助かるっての! こっちばっかりいい思いをしちまうのは気が引けるからよ! いやぁ、ひ弱そうに見えて面白い男じゃねえか! マトマ、こいつのとこに嫁ぐなら大賛成だぞ!」

「本当!? おとーちゃ! やたあ!」

「それに、ルビーもこいつのことは信用してもいいんじゃねえか? 裏切られるのは疲れたよな?」

「あなた……」

「裏切った側の俺がそんなこと言うのはどうかと思ったりもするけどよ。今日からはもうちっと肩の力を抜いてくれ」



 そういいながらシンヤは私の肩にそっと手を置いた。


 その手は温かい、けど軽い。

 それにだんだんと薄くなっていく。



「おっと、そろそろ時間だな。悪いが、またしばらくは眠らせてもらうことにするぜ」

「ね、ねえあなた……。本当に、本当にまた戻ってきてくれるのよね?」

「ああ。だからそんな顔すんな。あれだ、ルビーはもっといろんな男と遊べ。一途なのはうれしいが、そればっかだと気づかれするかもだからよ」

「もう! こんな時になんて冗談言うのよ!」

「あはは! そう、そうやって元気にしてくれるのが一番うれしいんだよ、俺もサタナエルも。そんじゃあな! レンヤ、ルビーをマトマをよろしくたのだぜ。二人ともいい女だからって泣かすなよ」

「あなた――」



 あくまでいつも通り、軽い口調のまま最愛の人は姿を消した。


 だから私は流れていた涙を拭き、前を向いた。




 だんだんと晴れる視界。

 そしてそれと同時に苦しさが消えていった。




 聖剣の力が、今度は封印じゃなくてこの力を完璧にコントロールできるように変えてくれたみたい。




「ありがとう、あなた。そしてレンヤ様」



 光が完全に消えた。

 いつもの村に戻った。


 目の前には愛娘のマトマとレンヤ様、それにその意腕に抱かれた聖剣、シンヤの姿があった。


 それを私は見るとどうしようもなくなって、目いっぱい腕を広げた。

 そして最大限の愛情を注ぐために優しく、でも少しだけ強引に()()を抱きしめたのだった。





 ――??? ……。……。……。聖獣フェンリル。



 光が消えると、ルビーさんに抱きしめられてしまって身動きが取れなくなってしまった。


 女性にこんなことをされたのは初めてだったからぢ個をどう見ればいいのわからなくなった俺は助けを求めるように相棒を見た。



 すると、そこにはレベルだけでなくモンスター名が浮かんでいた。

 


 流石は伝説の武器と過去の勇者が融合した姿? だ。

 おとぎ話にしか出てこないようなモンスターの名前だぞ、それ。



 というか、こうして一件落着してみるとすごいことが起きたんだなって実感が湧いてしまうな。



 1等級の魔族を倒して、フェンリルが仲間になって、ルビーさん……魔王を目指す存在の切り札になるような力を持つ魔族まで仲間になって、この領域を任されるようになって……。


 つい1週間前の俺が聞いたら絶対信じないようなことばかりだ。



 でも、一番の目的にはまだ遠い。

 国に、王都に……東側に戻って……いや、本当に戻る必要はあるのか?


 スウェンに会いたいかっていえばそうではないし、ルミアにだって……会いたくないわけじゃないけど、やっぱり怖い。


 こうしてこっちで暮らしているだけのほうが絶対に楽。

 勇者として旅に出るのだってこっちからでもできなくない……。



「……」

「レンヤ様、私ようやく自分の中のもやもやがなくなりました。本当にありがとうございました」

「あ、いえ……俺は別に」



 抱きしめながら、ルミアのことを思い浮かべ、消して、思い浮かべて、消して……。

 そんな無駄な思考を繰り返していると、ルビーさんが口を開いた。


 その瞳は赤いが……マトマと同じように芯の強さを感じる。


 確認はちゃんとさせてもらいたいけど、でも……この人は乗り越えたんだろうな。



「私たちは改めてレンヤ様の剣に、鞘になりますわ。魔王を倒すため、今度はレンヤ様にその目的を果たしてもらうために。そうでないと、マトマも安心して嫁ぎにいけませんし……」



 ルビーさんは声色を艶やかなものに変えると、胸を強く押し付けてきた。



「あの人の言うようにからかってあげられませんから」

「え、えっと……ルビーさん?」

「ほら、次に何をするのか、したいのか教えてくれないともっともっといじめちゃいますよ」



 俵会感触が、罪悪感が……。



「わ、わかりました! そ、それじゃあまずはほかの村や街の様子を見に行きましょう! それでこの辺一帯の汚染水浄化! それで……新手が入ってこないよう、魔族が襲ってこないよう国に連携を申し出ます! ここを()()()()()()の本拠地として!」

お読みいただきありがとうございます。

モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。

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