12
アレが自分の手の内から飛び立つ。
本当は放したくはなかったが、アレに似たモノが二匹近づいてきているので、素直に力を緩める。
たべものか、そうでないか判断できない。
以前、アレは似たようなモノを、いや、同じだったか……。
わからないが、逃がしたことがあったので、どう行動するのか見届ける。
アレが棒を持った。
それは以前と同じだ。
だが、相手に違う点がある。
一つは、二匹いるということ。
一つは、攻撃してきているということ。
考える。
そして、結論を、出す。
自分はアレを守る。
だが、狩りはアレの役目だ、手を出しはしない。
駈けるアレの後ろを、静かに付き従う。
二匹の内、幅広の棒を持つ一匹は、何事かを喚いているが意味がわからない。
ただ、害意があるというのはわかる。
アレが棒を突き出す。
喚いていたモノは、左手に付いている円盤でそれを逸らすと、右手に持っている棒でアレに斬りかかる。
だが、避ける。
かなり余裕をもってアレが避けていたし、以前のこともある。
喚いていたモノは脅威に値しないと判断して、もう一匹の、アレによく似たモノの相手をすることにする。
たべはしない。
ただ、アレの狩りを邪魔させないように、自分が引き受けなければならないだろう。
アレは、どことなく誘導しているような動きで、木々の合間をゆらゆらと、棒を交えながら離れていく。
自分は、アレと似たモノと対峙する。
アレと似たモノは、なにか音を発しているが、やはり意味がわからない。
とりあえず、アレに追いつけないよう足を傷つけておこうと思った。
手を、伸ばす。
指の先を硬質化、尖らせて、少し足に穴を開ければ歩けなくなることを知っていた。
貫く――。
……ん?
避けられた。
大きく後退して避けられた。
もう一度。
手を、伸ばす。
……んー。
また、避けられた。
今度は、身体を半身にしてだ。
アレも持っていたような、細長い棒を突き出してくる。
狙いは、頭。
刺さる。
通り抜ける。
固定する。
抜かれる。
おそらく牙や爪に代わる攻撃手段であろう、それを無力化するために、くわえこむが、スルッと引き抜かれてしまう。
細長く、引っ掛かりも少ないので、保持しずらかった。
続いて胸にたいして浅く切りつかれる。
問題ない。
だが、捕えられない。
左胸を突かれる。
もう一度、固定する。
今度は、身体の中にある骨を噛ませる。
少し、勿体無い気もしたが、次のたべものをたべたときに回収すればいい。
そういえば、あの岩を落としたのはどちらなのだろう。
よもや、あの落石と二匹が無関係というわけではあるまい。
……再び、意識しだすと、ムカムカしてくる。
いっそ、目の前にいるモノを食べてしまおうかと思う。
そいすれば、より正確にアレに似ることが出来る。
手を、伸ばす。
逃げられた。
棒を自分の身体に刺したまま、諦めたのだろう、手を離し、次はあの枝を飛ばすモノを持って、さらに距離を取られてしまった。
問題ない。
いや、むしろ好都合か。
アレの邪魔さえされなければ、いい。
たべるのは……まあ、機会があればにしておく。
枝が飛んでくる。
どんどん、飛んでくる。
刺さってくる。
どんどん、刺さってくる。
しかし、自分には効果がないので、黙ってされるがままにしてる。
アレの方へ行こうとない限り、適当に戯れていればいい。
棒を飛ばしているモノは、なんだか焦っているようだ。
無駄に飛ばしてくる。
そして、無くなった。
飛ばそうにも、身につけていた枝が底をついたのだろう。
次はなにをするのかと眺めていると、腰から、短い棒を取り出して構える。
そして逃げる。
……え?
あ、うん。
走ってる場所が場所ならば、妨害しようと思ったが、アレとは逆方向へと駆けていく。
放っておいてもよかったが、進む先を変えてアレへと向かっていってはいけないと追う。
追う。
追う、追う。
自分は、あまり走りが速くない。
そして、棒を奪うために骨を幾つか使ってしまったので、追いつけない。
だが、ここまで追い立てれば問題はないだろう。
アレが向かった先とはかなり離れている。
踵を返し、戻る。
せめて、アレが対峙しているモノくらいはたべたいなと思いながら。
ふと、足が止まる。
無理をして走ったことで、傷ついた骨が本格的に悲鳴を上げ始めた。
体勢を保てなくなったので、残念だが、元の姿に戻る。
骨は、もう邪魔なので身体の外に吐き出す。
元の姿のほうが速く移動できるので、都合がいいといえば都合がいい。
離れたからか、アレの姿は見えない。
すぐさま岩を落とされた場所まで戻り、アレが向かった先へと急ぐ。
――倒れている。
アレが。
傷だらけの、姿で。
思考が、真っ白になる。
思考が、真っ赤になる。
思考が、出来なくなる。
この状況の原因を探す。
喚いていたモノだ。
八つ裂きにしなければならない。
即座にその命を消し去らなければ、自分は自分でなくなってしまうかもしれない。
探す。
探す。
探す。
見つからない。
ただただ、自分の中で焦燥だけが募っていく。
自分は、ピクリともしないアレの頬を一撫でし、その場を去る。
アレは、たべない。
アレを、傷つけたモノをたべてから、静かな場所へ連れて行こうと思う。
あのようなモノに襲われない場所へ。
そのためには、まず排除しなければ。
あの二匹を。
そのためには、まず探し出さなければ。
あの二匹を。
地面を、見る。
血が、滴っている。
跡を、追う。
後を、追う。
なるべく早く、アレの元へと戻れるように。
なるべく早く、アレを傷つけたモノへと繋がるために。




