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「で……幽霊騒ぎは片付いたの?」

「ううん、無理だった。あのペンダントは、彼女のものじゃないのかも……」


サラは、眉間にシワを寄せて何か考えている。


「え? だって、家族の人が彼女の物を貸してくれたんでしょ?」

「まあ、そうなんたけど……、なんだか思い入れがないみたいなんだよね。これを持ってても、全然寄ってこないし……逆に離れていくんだよね」


だめじゃん!


もしや、嫌々付けてたの? 何か理由があって?


……そんな訳ないか。気に入らなきゃ使わなければいいだけだし。これを見て、無関心を貫く理由って……。


「とにかくもう一度、彼女の家に行って来て別の物を……」

「無理」


即答だった。


「神官だよ、神官。わかってる? とっても偉い、格の高い方なの。そう簡単に、会ったりできないの」

「……」


なんだそれは。どこのVIPだ。スケジュールがみっちりつまった社長か!


「じゃあ、なんでサラに会ってくれたの?」


気になったのは、ソコ!


王宮で働いてた下っぱが会えるって何? どう言うこと?


サラは、黙りこんだ。


「……足いたい」


誤魔化したっ。


――まあ、この町中から向こうの世界に移転しても、行き帰り距離は変わらないということだ。


「バスでマンションまで帰れた?」


サラには、一応はじめてのおつかい的な要領でお金を渡していた。


この町中から私の世界に転移して、バスでマンションまで移動。マンションでサラが準備をしたら、またバスでコチラの世界のこの場所がある位置まで移動。基本、徒歩は少ない……はずなのだけど。


「町外れから、歩いて町中まで来た。遠かったー。たーちゃん、反対側の町外れにいるから移動距離が……」


サラは、恨めしそうにコチラを見てる。


仕方ない。


迷子は仕方ない。


お互い様ということでうやむやにした。はい、私は汚い大人です。サラがバスで降りる場所を間違えたことと、私が移動しまくって危険地帯に飛び込んだことは同じ……じゃないけど、そこは知らなかったから許されるということで。






――――――――――


染み一つない白い部屋、どこかアンティーク風に見える家具が並ぶ。つやつやと、磨きあげられた調度品の数々は、細かな細工がされていた。


現代の技術でさえ、ここまで繊細な作りのモノはオーダーメイドになるだろう。まさに、職人の技。


ようやく、サラは私がだらしない人間だと気づいたのか、口調にも遠慮がない。


「お菓子ばっかり食べてないで、ご飯も食べなきゃダメだよ」


私とサラは、一時的に屋敷へ戻っていた。


「わかった、わかりました。ご飯も食べます」


料理はサラの手伝いをしながら、着々とものにしている。


「よろしい。私だって、毎食お菓子で済ませたいけど我慢してるんだから」

「お・い・こ・ら」


結果――――私達は、もう二週間は一緒にいる。


だいたい、サラがすんなりと帰してくれれば今頃は就職……出来ていたかもしれない。


これは、帰ったらバイトで食い繋ぐしかないかな。


「今日は、猪が捕れたからヤキニクだよ」

「やったー!」


私がアチラで使っていた調味料を持ってきた。私がコチラに持ち込んだのは、主に食料品である。


塩、醤油、味噌、焼き肉のタレやハーブも少し。あとは、お菓子と保存食。


今は、味の濃い料理も食べられる。レモングラスなどのハーブも庭に植えて、簡単に育てられるニラも増殖中。……でも、ちょっと……畑なんだか庭なんだかよくわからない、カオス。


「じゃあ、お肉切るから運んでー」

「はいはい、小皿とタレ持ってくる。岩塩と七味も」


二人とも甘党なのに辛党、サラは私に影響された節がある。トウガラシは、基本暑い地域にあるイメージだった。だからなのか、サラはトウガラシを知らなかった。この世界の人種は、外国人みたいに肌が白くて、色素も薄い。トウガラシは、昔インドら辺から伝わったと聞いたので寒いこの地域に、スパイシーな食べ物があったらおかしいと思う。


「切った野菜も用意したから、巻いて食べてね」

「うん、太っちゃうけど我慢できないわ」


サラは小さな火鉢で肉を焼く、私は小皿を二つ用意しタレと塩をそれぞれに入れた。七味は瓶で置いておく。


猪は脂肪分が多く、肉も臭い場合があるけど、鮮度がいいと豚肉のようにジューシーで癖がない。余計な油は、網から下へと落ちて美味しそうな音がする。


「肉には赤だね」

「よくわからないけど、確かにお酒はすすむ」


私達は、狩りで獲物を取る。ドラム缶みたいな筒状の罠は猪を取るためのものだった。


あれに、果物を放り込んでおけば獲物がかかる。


猪は前にしか進めないらしく。土を掘って、ドラム缶のような物を斜めに入れたのは、獣が下り道を下りても、内部がツルツルで、大きな猪なら出て来られないように狙った為らしい。バック出来ないうえに、幅が丁度なので方向転換も難しいだろう。


獲物は三百キロぐらいの大物だった。


私がココに来て、はじめて見た罠で食べ物を取る。毛皮は売れるし、多すぎる肉はおすそ分けもするみたいだ。パック売りの肉しか知らなかったから、新鮮な体験だ。


「美味しい! 」


私は思わず叫ぶ。


米はないけど、肉の油が野菜で緩和されて、程よい旨味が口に残る。脂身は、肉が新鮮だからかほんのり甘い。


最高! 至福!


………………………………………………でも、そろそろ帰らないと。私の世界で、就職と言う現実が待ってる。


「あのさ……」


私が(はし)を止めていることに気づいたのか、サラは首を傾げる。


「もう、帰らなきゃダメなんだけど……」


サラは「えー! まだ、解決してないよ!」と駄々をこねる。


そう。なにも、解決してない。


「なんで、私の友達は駄目なの?」


幽霊騒ぎが片付いてない。


「無理なものは無理」


このセリフは何回も聞いた。


友人も連れてこられたら、問題は解決するんだけど、サラは無理だと言いはる。何か理由があるのだろう。


だから、家の一ヵ所に閉じ込めてある。


サラは「可哀想(かわいそう)」なんて同情してたけど、何か変じゃないだろうか?


可哀想なんて、考えるかな? 私は、恐怖でそれどころじゃないよ。


可哀想な幽霊だけど、同情するのは当たり前なのかな? 私は、実害がありすぎて同情出来ない。


私達は、黙々と食べ続けた。


次の日、体重増加でシャツのボタンが弾けとび、屋敷の周りをサラと走るのだった。

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