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「本当は、凄い魔法使い……って、ことはないわよね?」
サラは首を振ると「そうでもないよ」と、平然とした顔で答えた。
「じゃあ、みんな平行世界へ行けるの?」
そう聞くと、目を丸くして「そんな訳ない。だって、そこまで交流が盛んなら魔法使いがたーちゃんの世界に行ってても不思議じゃないでしょ?」と言う。
「いや、昔は行き来してたけど、禁止されたとか……」
魔女がりという歴史もあるし。
「さあ、知らないよ」
サラに聞いても、問題は解決されなかった。
その日の午後――――――――――――
私は、屋敷にある図書室に向かった。
魔女らしく、魔法書が沢山おいてあるらしい。あとは、この国の歴史が書かれた物や地図もあると聞いた。
「うっわ」
汚い。
何ヵ月も放置されて、掃除もせずに換気もしてないみたいだった。
つーっと、指で本の表面をなぞると、ホコリがワタガシのようにふわふわと舞う。少しざらつく本の表面は、水の魔法初級と書かれている。
どうせなら、文字を読める魔法と合わせて掃除もしてもらうんだった。
私は、タメ息をつきながら本を何冊か持ち出し、サラのところへ歩いていった。
「地図、歴史書はわかるけど……魔導書?」
サラは、見透かしているかのように言った。
「使えなくても知らないよ。簡単じゃないんだから」と言いながらも、すべての本に魔法をかけて綺麗にしてくれた。
一瞬で新品のようにピカピカになった本を抱えて「わかってるよ」と答えて、私は部屋へ足早に移動した。
恥ずかしい。中二病を患わせた子供を見るような目をしていたサラの死線……じゃなくて視線が痛かった。
ページをペラリ。
「……」
うん、読めるけど意味がわかんない。
私は頭を抱えた。
「えーと………………ヤモリの乾燥した粉末に、蛇の血とコウモリの羽、カルマの深い人間の体液と……もう、わかんない。わかんなくても、いいかもしれない」
本には優しい魔法薬、初級者用と書かれている。
「次は……」
私は、手に持っていた怪しげな本をポイッと投げ捨て、見なかったことにした。
「これは、なんだか辞書っぽい。適当に持ってきたんだけど、やっぱりサラに聞けば良かったかな」
多少、後悔しながら本を開くと…………………………ゆっくりと閉じた。
「こんなのばっかりか……」
本にはおどろおどろしい、悪魔のような生物が多数載っていて、見ているだけで夢に出てきそうだった。
「よし! 次っ」
気をとりなおして、次の本をつかむ。
「ん?」
その本は、ノート用だった。
ハードカバーの本みたいに、分厚いので間違って持ってきてしまったみたいだ。
「……日記……かな」
見ちゃいけないとわかっているのに、私は好奇心を抑えきれず最初のページをめくる。
《三の歴、五の日。今日は初めて日記帳を贈られた日》と、書いてある言葉を見て思い出す。
この世界の暦は、向こうと変わらないのだ。一年は三百六十五日、三の歴はたしか春ぐらいだったと思う。一月から十二月、日数も三十日でほぼ一緒。ただ、十二の歴が一番長くなる。だから、十二月は三十五日まである。
《三の歴、六の日、レオナルド様にもらったネックレスは大事に宝石箱へ入れて保管している。昨日は、素敵な誕生日パーティーだった。彼は両親に、絶対幸せにすると言ってくれた。パパは反対してたけど、彼は諦めないと約束して、指輪の代わりにネックレスをプレゼントしてくれた。指輪だと、意味深すぎてパパに見つかったら捨てられちゃうもの》
数日は、他愛ない日常の出来事が綴られている。
《三の歴、二十の日。パパなんて嫌い。あの人が相応しくないなんて。神官じゃなきゃダメだなんて、なんでそんなこと言うの? 私は、彼じゃなきゃダメなのに》
《四の歴、一の日。 今日もダメ、パパは会ってもくれない》
《四の歴、十六の日。駆け落ちしようと、私が言うと彼はダメだって言うの。皆に祝福される結婚をしよう、って。そうよね、私が短気だった。もっと気長にいけば、きっと……》
《五の歴、三十の日。不安だわ、彼なんだか様子が変だった。なにかあったのかしら》
《六の歴、十の日。日記はしばらく休み》
いきなり八月に飛んでいる。
《八の歴、一の日。最近、彼と会えない》
《八の歴、二十五。会いたい、どこにいるの?》
《九の歴、3の日。彼が来てくれた。なんだか、すごく痩せてた。どうしたのかしら? なんでもないだなんて、絶対ウソよ》
《十の歴、十の日。パパが婚約を許してくれた。最近、元気のなかった彼も喜んでくれた。とっても幸せ》
《十の歴、二十七の日。おかしい。やっぱり変よ。彼がパパの書斎から出てくるなんて……》
《十一の歴、二の日。彼を神殿で見かけた。神官の服を着てた》
《十一の歴、三の日。パパが彼を神官にしたって言うの。彼を婿にして、私を任せるのに必要だからって。……貧乏でもいいのに。彼と一緒なら、それだけで幸せなのになんで?》
《十一の歴、五の日。神官は神の言葉を聞くために厳しい修行が必要だって。そんなのウソ。パパが泊まり込みで、何日も修行したことなんてないもの》
《十二の歴、やっぱり彼の様子が変。何かに怯えるように、目が泳いでる。パパに会うと、様子がおかしくなる。手に、傷がいっぱいついてるし……………………修行のせいかな》
ページが破り取られて、後は白紙だ。
これは、サラの日記じゃない。
私は、この屋敷の持ち主の令嬢の日記を持ってきてしまったのかも。
でも、なんで彼女の日記をサラが持っていたんだろう。令嬢が知り合いだなんて聞いてないし、これの存在も教えられてない。
さっき、本を綺麗にしてもらうとき、数冊かさねてたから気づなかったのだろう。
サラは何か隠してる。




