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彼は、とても愛されていた。
彼女は、お金がなくても一緒に居られるだけで幸せだったんだ。
私は、そこまでの恋愛をしたことがないからわからない。残念ながら「友達以上に見えない」って、よく振られてました。目付きがキツいからか、可愛くないとも言われてた。友達相手にキスとか〇〇〇〇〇(ピーーーーーー)とかするんじゃないよー!
はあはあ……はっ! 思わず叫んじゃったけど、そんなわけで恋愛関係はよくわりません。可愛いは正義……。どうせ容姿はよくありません。だから、相手が悪いとも思ってませんよ。
「恋人にもらったネックレスに思い入れのない人なんているの?」
「さあ? わかんない」
サラは首を振った。
……お互い寂しい生活を送ってるね。
私達は、空き部屋に盛り塩をしながら話をしている。
「サラは、この部屋の幽霊をどうにかしたいんだよね? コレがいて、迷惑してるんでしょう?」
私は、さりげなくカマをかけてみた。
「……たーちゃんもいるし、このままでもいいかな」
やっぱり……。
私は、深々とため息をつく。サラは、平然を装っているけどボロを出してる。
でも、私はまだ口にしない。
「ところで、これって怨み言?」
空き部屋の中からは、何か小さな声が聞こえる。
緊張しているのか、サラのごくりと唾を飲み込む音が響いた。
「……お父さ……こ……お……やめて……」
誰かに懇願するように、悲痛な声がする。
サラは、私が観察しているのに気づいていないのか、悲しそうな目をしていた。眉をよせ、何かをこらえているみたいだ。
「……何か言いたいことがあるのかな? でも、私は死人の言葉なんてわからないんだよね……。友人なら別だけど……」
私がそう言ったとき、彼女は一瞬はっと目を見張ったあと、ゆっくりと首を振る。
「やっぱり、ダメ?」
サラは、ゆっくりと頷いた。
「そう……彼女の願いを聞いてあげれば、天国に行けるかもしれないんだけど」
目に涙を貯めたサラを見て、私は追及やめた。
目の前には、証拠品の数々。
この屋敷には、秘密がいっぱいあるらしい。
まず、地下室には血の後こそないものの、檻もあったし検査も言わずがな黒。ここで、沢山の血がながれている。隠し部屋も綺麗に掃除されてるけど、倉庫の荷物には要らないと思ったのか、子供の服や靴のようなボロ切れが多数あって、私の背筋を凍らせた。男の子の服なんて、なんであるんでしょう?
一つ言えることは、この屋敷で惨劇が起こった事実だけ。
恋人達になにがあったのかは、正直わからない。
――――――――――
「ねぇ、神殿って入れないの?」
私は、サラにたずねた。夜がヒマすぎて爆発しそうだ。
毎日、二人で畑を耕したり、食事を作ったり、市場に買い物に出掛けたり。退屈ではないけど、テレビもインターネットもない生活は単調で飽き飽きしていた。
「誰でも入れるよ。昼間は、お祈りに行く人もいるし」
「サラは、私が来てから一度も行ってないけど……遠慮しなくていいのに」
私が頬を膨らますと「そういうわけじゃ……」と、何故か苦い顔をしていた。
「じゃあ、行こうよ」
私は、強引にサラをつれて神殿へと足を運んだ。少し興味があったのだ。
この国の王を決めるほどの権力をもつ組織とは、一体どんな場所なんだろうか、と。
壁は白く、門はとても大きい。中は、綺麗な白一色で統一されていた。敷地には、神の像らしきモノが数体並べてある。庭には綺麗な花が植えられまるで、造園業者が作ったかのようにきちんと整備されていた。
「神殿なのに豪華だね。お金持ってそう」
などと、罰当たりなことを言う私に、サラはあっさり認めた。
「ここは王都だし、これが本殿になるから同然大きいよ。地方には、もう少し小さな神殿があるはず」
まあ、そうじゃなくて、寄付金がすごいんじゃ……って、ことだけど伝わらなくて良かったのかもしれない。
私は、また失礼なことを考えながら前へと歩く。
広い部屋の奥にあったのは、巨大な神様の石像だった。女の人が私達を見下ろしているような構図で、右手に炎、左手に天秤を持っていた。
「あの天秤で魂の重さを量るんだよ。罪が多いほど重く、少ないほど軽い。……けど、魔力がないものは神の祝福を受けられなかった人だから生まれながら罪人なの」
サラは、眉を寄せて言った。
私は、その言葉に1ヶ月ほど前のことを思い出していた。
棒で区切られた地区の人達。あの憎悪の視線を思い出し震える。
「大丈夫?」
気づくと、サラがコチラを見て心配そうな顔をしていた。
「うーん、ちょっと寒かったのかも。ほら、季節の変わり目には風邪を引きやすいから」
私は、笑ってはぐらかした。
思い出してみれば、この世界に来てから良いことは少ない。怖いことだらけだ。
でも、時間の流れがゆったりしてて落ち着くし、サラにしてもスレてない……というか、私より遥かに純朴だ。よく言えば素直、物事を真っ直ぐに受け取る。悪く言えば、すぐ騙されそう。たぶん、鈍いと思う。
「……で、お祈りって何すればいいの?」
「え?」
サラが目を丸くしている。
「ああー、お布施とか? 拝むとか?」
「う、うん」
私は、仏教と同じように手を合わせて一礼した。
サラは、手を合わせながら呪文のようなものを口走る。
「え?」
私は、サラの方に首を向けたまま固まった。
「願い事をしたんだけど……聞こえてた?」
サラが首を傾げる。
「う、ううん。声が小さくて、何を言ったのかはわからなかった」
私が首を左右に振ると、彼女はホッとしたように笑った。
私の凍りついた脳は、いちおう正常に起動し始める。
「よかったー、願い事は聞かれたら叶わないから」
笑顔のサラに笑いかけながら、頭の中に巡るのはさっきの言葉。
『報いを受けますように』
その声は呪詛のようだった。




