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「どういうこと? 量ったの?」
アランさんが聞くと、サラは首を振る。
「量らなくてもわかるの?」
なら、なぜ測定する機具があるのか……私は首を傾げた。
私の問いに、サラは黙り込む。けど、それをアランさんは許さない。
「訳ありね? そうなんでしょう?」
あなたは都合が悪くなると、すぐに黙り込むのよね、と付き合いの長い彼女は言った。
アランさんは、紅茶もどきを上品に飲むと笑顔で言った。
「吐きなさい。じゃなきゃ、ずっと木苺クッキーも卵のタルトも果実たっぷりのパイもなしね。せっかく南の地域からきた商人に、甘い黄色の果実を売ってもらったから干してあるのに。あの濃厚な味が食べられないなんて可哀想だわ」
彼女は、そう言って台所の方角をチラリと見た。確かに、黄色の物体が縄で吊るされてたと思う。バナナみたいな、いや、バナナかもしれない。少し青かったから、熟すまで待っているのだろう。野菜や果物は実ってた状態と同じように保存するのがいいらしいし、だからバナナスタンドというキッチングッズがあるのだろう。あれも、吊るして保存出来るし。
自分のことだけど、別に魔力がなくても死ぬわけじゃない。
私は、サラとアランさんのやり取りをボーッと見ていた。他人事のような顔をして。
「あ、あんまり魔力がないから、量るだけ無駄かなって……」
「日常生活に困らなきゃいいけど、自分の力量を知るのは無断じゃないわよ」
気のせいかサラが焦っているように見える。まあ、魔法が使えたら便利だけど何かあるのだろうか? 気になる。
「……取り敢えず、量るわよ。話はそれから」
アランさんが言うと、サラはそっぽを向いた。
それからは、まあアランに促されて量る訳になったのだけど……
「いや、いいんだけどさ。別に……魔法がなくても死ぬわけじゃないし」
なんて、言ったところで説得力はない。
だけど、サラは顔を色が悪いしアランさんは黙りこんでる。
「……死ぬわ」
彼女はポツリと呟いた。
「あなたの国じゃ違うのかもしれないけど、この国じゃ魔力がなきゃ生きていけないのよ。町の端に、木で区切られた地区があるでしょう? 知らない?」
アランは、真剣な顔をして言った。嘘にも冗談にも見えない。
「知って……る」
彼女は、タメ息をついて席を立った。
「あそこには、あなたみたいな加護なしがうじゃうじゃいるの」
魔力が生まれながらのモノならば、この世界の住人じゃない私は加護がなくても仕方ない。
「なにか、不都合でもあるんですか?」
私がそう言うと、アランさんは目を見開いた。
「サラ! あんた、何にも教えてないの!?」
その非難するような声に、サラは身を小さくした。私は焦った。何か、事情があるのだろうと、無理に聞かなかったのは、私も悪い。
「人生を左右するのよ! 選択の自由がない状況が辛いのは、あなたもよく知ってるでしょう? ただの知り合いだとしても、連れ歩くなら最初から忠告なり相談なり出来たじゃないの!」
アランさんは烈火の如く怒った。
「ごめんなさい」
サラは小さな声で謝った。
見ていてわかったことだけど、アランさんとサラの関係は親子に近い。叱る姿がお母さんなのだ。悪いことをした子供を頭ごなしに怒るんじゃなくて、何がいけないのかをきちんと説明している。
「本人に謝りなさい」
アランさんの声に、サラはクルリとコチラを向いた。隣に座っている私としては、怒られてる姿を見ていたので怒る気は失せた。
「ごめん」
申し訳なさそうな声を聞きながら、私は言った。
「なにが?」
「つまり――この国の加護なしは、不吉だから村八分にされていると」
「ムラハチブ?」
「あ、いや、なんでもない」
不思議そうなサラを見て苦笑いする。
魔力がなければ、やれることが少ない。火をおこすのも、水を汲むのも全て手作業の彼らを、総じて加護なしと呼ぶそうだ。
「就職に困るとは思うけど、隔離したりする必要あるの?」
まあ、仕事は遅くなるぶん給料が低くなるのは仕方ない。でも、生活に困るほど……というのはどうなのだろう? あの地区の人は、ガリガリになってたし、盗みもした……盗み?
「あの地区は、犯罪者の巣窟よ。生活に困って、殺しをする人もいる。どんな事情があろうと、犯罪は許されない。罪のない人もいるけど、この国の法によってあそこからは抜け出せない」
生活の為に罪を重ねることが当たり前のように行われている。一生をあそこで育ち、そのまま死んでいく。
「神官達が定めた法に逆らえない。加護がもらえなくなるわ。あの地区には、犯罪者も隔離されているの。たとえ魔力があっても、あそこから抜け出るには犯罪者じゃない、という証拠がいるの。魔力の高い赤ん坊だけ、神官達に連れていかれることもあるけど、それはほんの一部でしかない」
魔力がないだけで、罪人と一緒ですか……。実質、島流し? 鬼だね。
「気を付けて。魔力がないと知れたら、どんな目にあっても助けられないわ。神官は、あなたを拘束して加護なしの地区に放り込むでしょう」
え。
ポカンと口を開ける私を、サラは気の毒そうに眺めている。
「大丈夫、なにかあったら送るから」
そう言われて、今すぐお願いします、と言いたくなったけど口をつぐんだ。サラがアランさんに、私のことをキチンと話してないからだ。
アランさんは台所に行くと、瓶を一つ取ってきた。あの呪われそうなスペースから取ってきたらしく、中身は内蔵のようなものがつまっていた。
「これは人間の中身」
臓器ですね、わかります。
「裏では、人間さえ売られているのよ。加護なしの血は、浴びると肌を美しく保つという馬鹿らしい噂まである。本当に用心するのよ」
アランは、更なる釘を刺した。私は、その雰囲気に飲まれて首を縦に振った。
魔力なくても大丈夫……じゃない! 死ぬ、確実に死ぬ。
でも、アランさんはいい人そうだ。普通は、偏見があるのだと思うけど、彼女は本気で心配してくれているように感じた。加護なしという、この国では軽い存在の私に釘まで刺した。あの人が悪い人なら、私が騙されやすかっただけのこと。まあ、サラがいるから気楽でいられる訳だけど。
「で、結局どう気を付ければいいのでしょうか?」
私は、アランさんに相談した。




