15
「じゃあ、私は下手な道具にも触れず、街中も歩ける状態じゃないうえに、見つかって奴隷にされようが売られようが殺されようが誰も助けてもらえないでOK?」
私がサラに聞くと、彼女は軽く首を傾げた。
「だいたい、あってるわね」
アランさんが頷く。
「だから、山奥でひっそり生きるのがいい?」
サラが次は頷く。それに、アランさんは眉を潜めた。
「……まあ徹底しなくても買い物ぐらいは大丈夫。だけど、さすがに町中に定住したらバレるわね。よくて、娼館に売られるぐらいかしら」
彼女は、そう言って肩をすくめた。
良くないよ、全く良くない。
「最悪は?」
そう聞くと「どう考えても死ぬことでしょ」と、アランさんはサラリと言う。なるほど………………じゃ、ないっ!
「じゃあ、あの加護がない人はどうやって生活してるの!?」そして、私はどうすればいいのよ!
その質問に、アランさんは「知らない」と首をふり、サラは口を開きかけ閉じる。
予測だけど、一人よりも二人……加護のない人達がお互いに助け合い生きていたら、ある程度の問題は解決すると思う。でも、私は一人で危険地帯にいるわけだ。それに、私はガリガリでもないし、サラによって衣食住が充足している。だから、きっと彼らには受け入れられない。
……これは、本格的に危ない。そう理解しつつも、現実問題なにも酷い目にあってないので甘く考えてしまう。
「まあ、どうしてもと言うならサラに幽霊をどうにかしてもらいましょうか」
私は、にっこり笑ってサラを見た。彼女は、涙目で首を左右に降っていた。
――――――――――
ふわりと浮かぶのは、黒い石の丸い玉。黒曜石よりも黒く見えるのは、研磨の技術が進んでなくて表面がツルツルじゃないからなのか、それとも中に青黒い何かがつまっているからなのかは知らない。
本当、どうかしてる。サラの為に残るだなんて。この世界には、危険がいっぱいなのに。
私は、怒りを静めようと努力しながら、なんとか笑顔を維持。我慢だ我慢。
正直、サラには怒っている。アランさんの家を出て、怒鳴り散らさなかったのが奇跡に近い。でも、理由があるから仕方ない……のかな?
「たーちゃん、集中」
その言葉に前を向く。
目の前には黒い玉。私には、全く魔力がない。だから、この玉の魔力を使ってしか魔法を使えないらしい。うーん、ファンタジー。
今は、特訓中だ。
「もう少し集中して、もっと力を込めるの」
サラの声に、私は目をしっかりと玉に固定したまま、じっと見つめ続ける。
「………………………………んんん!」
息を詰め、踏ん張りながら、目を見開く。
すると、フワッと玉が黒く光った。
「やった! 出来たよ!」祝! 初魔法!
喜んで、万歳のポーズで固まっていると、サラが顔を引き吊らせて「よかったね……」と呟いた。
「どうかした?」と聞くと、また小さく「何でもない」と言っていた。訳がわからない。「私も集中したら、あんな顔なのか」と項垂れているサラに「よくわかんないけど、元気だして」と言ったら涙目になった。
なぜか、イラッとした。
――――――
あくまで、魔法は『加護なし』じゃない、と言う証明でしかない。
「気をつけてね。その黒い玉は、私と繋がってるから落としたり、なくしたりしないでよ」と、サラは忠告した。
この魔法は、禁忌に当たるらしい。簡単に、本当の名前を取られるから、だと言う。この玉は、サラの魔力の結晶で、これを砕かれると死ぬ、とか、記憶やサラの生きてきた証が刻まれている、とか。色々、物騒なことを聞いた。
「魂みたいだね」
私はサラに言う。
「タマシイって何?」
彼女は、きょとんとしていた。
「幽霊みたいなものだよ。ただし、幽霊は触れないけどね」
私が言うと、サラは首を眉間にシワを寄せる。
「どういうこと?」
考え込むサラに、説明しようと思ったけど……なんと、言ったらいいかな。
彼女にとって、それが魂が個体で触れるとしたら、触れられなくて目に見えない形、というのは理解できないかもしれない。でも、そういうモノだし。
簡単に説明すると、サラはますます眉間に深いシワを刻んだ。
「魂は、死んだ後どうなるの?」
彼女は、こちらに怪訝な目を向けた。
「知らないよ! そもそも、目で見えないし」
当たり前のことを告げる。
彼女は、大袈裟に見えるほど唖然として、ぶつぶつと呟き始めた。
「魔力? それしか、違いがないし。でも………………」
サラが言うには、あの玉は魔力でもあるそうで、死ぬと溶けて無くなるそうだ。自然に帰ると言われているらしい。
あらあら? じゃあ、幽霊なんて残らないんじゃ……。
「サラは幽霊みたいな存在は知らないんだよね? この世界の人の魂は、死んで自然に帰るんだもの」
そう言うと、初めて気づいた、というような顔をして、私の方へ近寄ってきた。やめて、なんだか怖い。
「そうだよ! 死ぬと自然に帰って、また空中を漂うマナになるの! 私達は、それを吸うことで自然と魔力が回復する! だから、あんな存在は聞いたことがない! ……と、いうことは……………………………………幻?」
「そんな訳ないでしょ!」
サラは、真剣な表情をしていたけど、私がツッコミという名の手刀を入れると、涙目になった。
「それは、必ず溶けてなくなるの?」
私が聞くと、サラは頷いた。
「じゃあ、あの幽霊は私の世界の?」
「それはない」
私の質問を、スパッとサラが両断する。
「だよね。だとすると、あれは本物の令嬢なのかな?」
「ううん、あんな魔法はないよ。それに、身体が光みたいに透けて見えた。あれは、人間には見えない」
………………それって、アレだな。まるで、生きてるのに死んでるみたい。




