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帰りたい、けどサラも気になるし、少し遊ぶだけならファンタジーな世界も嫌いじゃないし、色々と謎が増えて……正直、答えがほしい。


今日は、サラの知り合いの所に連れていかれた。


まあ、市場に近い小さな家は、大きな屋敷にいるよりは安全だし、外の様子も見られて気晴らしにもなる。なにより、異世界の文化が自分の目で見られて面白い。


「お邪魔します」


私が挨拶をする横で、サラはズカズカ自分の家のように入り込み「クッキー取りに来た」と言った。目的それか。


「はいはい、ちょっと待ってね。今焼けるから」


部屋の奥から声がする。私が見に行くと、ピザを焼く石窯に似たオーブンで調理していた。目が離せないとか、仕上げにはいった、とサラの知り合いが言っている。


こじんまりとした家の中には、花が飾られ、綺麗に整理整頓されているけど……台所だけは、なにか別世界だ。


暖簾(のれん)よりも長く白い布が二枚重なった小さなスペースからは、血と薬のようなものが混ぜられたような複雑な匂いがする。偶然、覗いてしまった中からは、小さな瓶がいくつも置かれていた。中には、理科室のホルマリンも真っ青な品々が並べられている。


あれ……なんだろう。コノヒト、コワイ。


台所とダイニングが別けられていてよかったけど、調理スペース以外が殺人鬼かマッドサイエンティストの実験室である。


こんな場所で作られたクッキーを食べられるか? と、聞かれたら普通は否と答えるかもしれない。


「さあ、どうぞ」


お皿いっぱいの湯気をたてる出来立てのクッキーは、丸くて狐色に染まりよい匂いを振り撒いている。


サラは無言で何かを手渡し、クッキーを皿ごと抱え込んだ。知り合いは、クッキーを手渡すと私の方に向き直る。


「あなたは、サラの友達?」


薄茶色の髪と目をした華奢な美人に聞かれて、完全に意識がサラに、もといクッキーに持っていかれていた私は、緊張のあまりに固まった。


「サラの……姉妹じゃないわよね?」


大人な雰囲気のお姉さんは、私を値踏みするように目をすがめた。あくまで口元に笑みを浮かべたまま。


私は、怪しい趣味の人に目をつけられ、怒らせたら実験材料にされるのか、と思うと気が気じゃない。


私は、サラに助けを求めようと視線を動かし、思わず声が出た。


「ない……」


お姉さんが「そうよね、サラに姉妹はいないはずだもの」と納得したように頷く声を聞き流しながら、目元は一点に集中する。


「ちょっと! もうないじゃない! どんだけ飢えてんのよ、私のお菓子全部食べたのにっ」


つい声が恨みがましくなるのは当然で、元の世界から持ってきていたお菓子の大半を家賃として持っていかれた私は、今すごく甘いものが欲しくてたまらない。なのに、サラは一人で食べてしまった。ひどい、ひどすぎる。


思わず涙目になる私に、お姉さんもドン引きしていることだろう。でも、そんな些細なプライドはドブに捨てる主義だ。


サラの馬鹿ー!


私は、心で叫んだ。大人げを廃棄して。


サラは、なんでもない顔をしながら言った。だって、これは私のだもん、と。


子供は欲望に正直だ。




私達のやり取りが一段落した頃――


私達、三人はまったりとお茶を飲んでいた。


これは、目の前で葉と湯を入れて、無害そうなモノだけで作られたのを確認済みなので問題ない。


「えーと、アラン・アリー・アル=ワドゥード? さん。………合ってますか?」


あまりにも長いので忘れてしまいそうだ。そしてアが区切りの前につくのは、ここでは普通なのだろうか。


「アランでいいわ」


彼女は優雅に微笑んだ。因みにワドゥードは愛情という意味だと言う。名前に愛情とは、よくわからない法則だ。


「そう言えば、サラは『サラ』しか知らないんだけど……」


私が訴えるような目で言うと、彼女は「サラ・アリー・アル=ムイード……」と答えた。


「意味は?」と、尋ねると最近お得意のだんまりだ。アランがにこやかに教えてくれた。


「再生ですか」


サラは、なぜか焦っている。


「私の名前には、愛を与えるという意味があるけど、これはご先祖様にそういう呼ばれ方をしていた人がいた、ということよ。それにしても、こんな初歩的なことも知らないなんて……どこの国から来たの?」


アランさんは、見た目だけじゃなく私の質問から外国人だと思い当たったらしい。


「かなり遠いので知らないと思います」


私は、曖昧に笑って誤魔化した。


話ははずみ、話は職業の話題へと移行した。というか、私が無職なんです、と愚痴った。なにか仕事を紹介してもらえないか、という期待を込めて。


「私は魔術師で、一応この子の師匠……みたいなものかな。まあ、独学で学ぶことも多いから、全てを教えられた訳ではないけど」


アランは、ポンポンとサラの頭を叩いた。


「薬草の調合は師匠に教えてもらったけど、空間魔法は書物で調べた」


サラが言うには、魔術というのは誰かに教えられるモノじゃなく、書物で読んだり見て盗むモノらしい。ありえない、昔かたぎの職人ですか?


魔術というのは、それぞれの魔法を合わせて作るものだから、個人の技術を他人に教えることは普通ならしない。でも、サラには師匠がいる。矛盾してないかな。


「サラはいいのよ。私の大事な妹だからね」と、アランさんは言っている。


それを半眼で見ていたサラは「お母さんの間違いじゃ……」と口を滑らそうとして、アランさんから流れてくる冷気に口を閉じた。


「あなたは、魔術師になりたいの?」


私が熱心に話を聞いていたせいか、アランさんはこんな話題を持ちかけてきた。いや、なりたいような、別になくても困らないような、つまりどっちでもいい。


「んー、じゃあ、とりあえず魔力を量ってみましょう」と、計測器なるものを取り出された。


無職だから魔術師になりたいと、そう直訳されても仕方ないような態度をしていた私が悪い……のだけど、サラは渋い顔をして首を振った。なんだろう。魔術師舐めんな、とかいうこと?


「魔術師になれるほどの魔力はないよ」


サラはそう言った。

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