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私は、机の上に日記を置いた。


ダイニングテーブルには、私と彼女の分の紅茶が湯気を立てている。


サラも、私がどこまで知っているのか、大体の予測がついたらしい。目を見張り、コチラを見た。


むしろ、全て知ってるんだぞ、という態度をとって情報を引き出したい、と思いもしたけど失敗する確率が高い。だから、誘導したのだ。日記の内容は知ってると。


まあ、いいや。なるようになーあれ。


「私は、何も知らない」


そう言って、サラは少しクシャクシャの紙を取り出した。ノートの切れ端のようだ。


「レオナルド……今行くからね?」


それだけだった。


いや、紙に染みがついている。ミミズが這うような、変な黄色っぽい跡。


わからない、まだよくわからない。


「少なくとも、令嬢をどうこうしたい訳じゃないんだね?」


サラが真剣な表情でコクりと頷いた。


私は、紙を折り畳み返しながら、回想していた。


日記を読んだのに、嘘の情報を流し、令嬢の婚約者を悪者にしたてあげたのは、何かを隠したかったのかもしれない。


ただ、幽霊は本気で怖がっていたように見えたから、私を喚んだのは心細さから……かも。


可笑しいと思った。


幽霊をどうにかしてほしいクセに、友人を呼ばせないし、私を帰らせない。日記を見たときから、可笑しいな、とは思っていたんだ。


だって、日記を隠すこと事態がおかしいじゃない。この事件に関わってます、と言わんばかりだ。


「日記を隠してた理由は?」


私は、なるべく優しく問いかける。


「……」


彼女は黙秘した。言いたくないのかもしれない。


「……で? 私を呼んだのはなぜ?」


私は、自分の中の疑問を吐き出した。


「……」


黙秘。この質問もアウト。空気が非常に重い。


「じゃあ、どうしたらいい? 何をしてほしい?」


サラは左右にブンブンと勢いよく首を振った。


「何もしてほしくないの?」


私が問いかけると、彼女は首を縦に振る。


「わかった」


ただ居てほしいだけなのかもしれないと、私はこのとき推測した。







――――――――――


選択肢の一つとして、異世界への移住はありかもしれない。


でも、それはあくまで私が自分で望んだ場合だと思う。いくら、生活に疲れはてていたとしてもだ。


「ちょっと、聞きたかったんだけど……」


サラとは、なんとなくぎこちない日々が続いていた。1ヶ月半も、この世界にいる身としては不安がいっぱいだ、あちらで生活出来ないなら、コチラで職を探そうと考え始めてる。居候は将来が不安。


「あの……棒でしきられたところは、治安が悪いんだよね?」


前に、私が迷いこんだ場所だ。私達は、ハクビシンのような獲物を捕らえて持ってきた。肉は頂いて、毛皮は売る。尻尾はマフラーみたいに、冬は首に巻くのが定番らしい。これも、色や大きさによって値段が変わる。


「うん、だから入っちゃダメだよ」


サラは、さりげなく注意してきた。前回のことを思い出したのだろう。


毛皮を売ったり、手作りらしい薬を売ったりして、代わりに食料品を買っていた。私は、ただ見ているだけだ。口は出す。


市場の外れだからか、人影はさほどなかった。


「ドロボウだ! 捕まえてくれ!」


男性が声を上げている。


私達の横を、小さな子供がすり抜けて走っていった。手に赤いものを沢山持って。


「加護なしだ」


ざわざわと、人が噂している。


サラの様子を伺うと、眉間にシワを寄せて、少年が去った方向を見つめている。


「捕まえたぞ」


という声が聞こえたとたん、彼女は走り出した。


「え」


私は、ワンテンポ遅れて、なぜ彼女が走り出したのか、首をかしげながら背中を追う。


私より走るのが早く、一度見失ったけどすぐにみつかった。


「神殿に突き出してやる」


少年はひどく痩せた体を、力なくぶら下げたまま服を捕まれ引きずられていた。


追い付いた私は、息を上げながらサラに呼び掛けようとしてやめた。彼女が険しい顔をしていたからだ。


「風よ」


サラが小さく呟くと、少年の服が千切れて彼は地面に落ちた。


まるでチャンスを狙っていたかのように、少年は息を吹き返し体勢を低くして走り出す。大人の手をスルスルと上手いぐあいにかわして、棒の向こう側へと飛び込んでいった。短い間の出来事だった。


私は、冷や汗を流しながら突っ立っていた。明らかに、さっきの行動はまずいだろう。下手をしたら共犯者だ。


「サラ」


私が呼びかけると、彼女はハッと我にかえったように踵を返し、私の手を掴んだ。


場所がかなり離れてから、サラは手を離した。


誰も魔法が使われたことに、気づいていないようで安心した。まだ、胸はドキドキしてるけど。


「サラ」


あれは何? と、聞く前に謝られた。


「ごめん」


私は、ためた息を吐いた。


事情はわからないけど、巻き込まれたのだから話してほしいと彼女を見つめる。犯罪の片棒を担いだサラと行動を供にしているのだ。少しぐらい聞く権利がほしい。


「で、どうなの? 知り合い?」


突っ込んで聞いた私に、サラは首を左右に振る。


「知り合いじゃないのに……?」


目で訴えると、彼女は首を顔を背けた。


「同じだから」と、答えたのは彼女がまた歩き出してからだった。

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