出会い
男は復元師とやらがいる場所を教えてくれた。
「で、突き当りの道を右に曲がったら、廃墟に近いビルがある。その三階がレーゼンス復元工房だ」
「えーっと、まずはこの道を左に曲がって、その次は……なんでしたっけ?」
一気に説明されたため、何も覚えられなかった。いや、そもそも目的地は言うほど近くないようだ。記憶喪失の人間に、やれ右だ左だと言うのはハードルが高すぎる。だが、道順を確認するフェイリアに、男はやや迷惑そうに眉を寄せた。
「あの、よかったら……」
下手に出て助けを得ようとするフェイリアだったが、彼はすんなりと受け入れてくれた。
「分かった。案内しよう」
そこから、男に連れられ、街を歩いた。思ったよりも都会らしい。かなり多くの人間が行き来して、店の呼び込みの声もそこら中から聞こえてくる。そんな活気のある街だった。
「凄く賑やかですねぇ。さっきの場所は廃墟ばかりだったのに」
フェイリアの感想に、男は前を見たまま答えてくれた。
「終末戦争の頃から放置されている区域だからだろう。あの辺りをうろつくのは、訳ありで行き場のない人間くらいだ」
「終末戦争?」
首を傾げるフェイリアに、男は一瞥するように振り返ったが、すぐに前を見て歩き出してしまった。よく分からないが、大きな戦争があったらしい。言われてみれば、先程の廃墟群はコンクリートのビルだったが、この辺りは木製の建物が多いように思われた。
「かなり雰囲気も違いますね」
前を行く男はあまり喋りたくないようだが、フェイリアは純粋な感想をつい口にしてしまう。ただ、男も反応がないわけではない。
「再現物もあまり使われていないからな。もう少し行けば、先程の廃墟に近い景色も目にするだろう」
よく分からなかったが、足を進めると彼の言う通り、少しずつビルが見え始めた。先程に比べれば、綺麗な建造物だが、やはり薄汚れた印象がある。
「ここだ」
男が立ち止まった場所。そこは五階建てのビルがあった。建物の名前を現しているのか、扉の前にあるプレートには「等々力ビル」と書かれているが、フェイリアに残された記憶では認識できない言語だ。
「階段で三階まで上がれ。入口の傍に昇降機らしい扉があるが、ただのダミーだから注意するように。では、幸運を祈る」
そう言って、男は立ち去ろうとしたが、フェイリアは引き止めた。
「待ってください。お名前だけでも教えていただけないでしょうか……?」
その必要ないだろう、と男の顔は言っているが、小さく息を吐いてから、渋々と言った調子で名前を教えてくれた。
「レオンだ。レオン・ヴァルハイト」
「レオンさんですね! 覚えておきますので、今度会ったときはお礼させてください!」
フェイリアはたっぷり記憶を詰め込めるだろう頭に、その名を刻み込むが、当のレオンはどこか不満そうな顔だった。
「忠告しておくが、俺の名は復元師の前で出さない方がいい」
「どうしてですか??」
「嫌な顔をされるからだ」
「嫌な顔、ですか?」
意味が分からなかったが、今度こそレオンは立ち去ってしまった。フェイリアは一人でビルに入り、階段で三階へ向かうと、すぐ目の前に鉄の扉が現れた。扉に設置されたフックにかけられた看板には「レーゼンス復元工房」と書かれている。間違いないようだ。
「すみませーん!」
フェイリアが扉を叩きながら声をかけると、中から「どうぞ」と短い声があった。扉を開けると、そこには二人の女の姿が。雑多な物に溢れる向こうで、背筋を伸ばして座る黒髪の女が言った。
「ようこそ、レーゼンス復元工房に。復元したいものは、失われた物ですか。それとも、貴方の大切だった人ですか?」




