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素材が足りない!

 翌日、リナは復元個体のクリエイトに取り掛かるのだが、早々に頭を抱えて嘆くのだった。



「素材が足りない!!」



 レーゼンス復元工房と同じ階にある素材置き場から悲鳴のような声が聞こえたため、朝の掃除を始めていたフェイリアは手を止め、ハルカに聞いた。



「先生、どうかしたんでしょうか?」



 あの騒ぎようなら、とんでもないことが起きたのでは、とフェイリアは心配だったが、ハルカは慣れているのか、平然とした態度で答える。



「最近、あまり依頼がなかったせいで、素材の管理が不十分だったのでしょう」



 同じように掃除の手を止めたハルカが、フェイリアを見た。



「これから忙しくなりますよ、フェイフェイ」


「フェイフェイ……??」



 急に親しみを込められ、戸惑うフェイリアだったが、工房の扉が開かれ、リナが姿を現した。



「ハルカ、今すぐ素材を集めてきて!」


「承知しました、先生。何が足りないんですか?」


「えーっと……」



 リナは手元のメモ用紙を見ながら言う。



「電ポリとエラスト、それから自己修復ナノセンサーも足りない!!」



 ハルカは黙り込む。素材の入手経路を考えているようだが、すぐに結論が出たらしい。



「電ポリと自己修復ナノセンサーは入手が難しいですね。下手したら、明日……いえ、明後日になるかもしれません」


「そんなぁ……!!」



 リナは子供のように、ハルカのメイド服にしがみつく。



「ミーアには、五日後に進捗状況を見せるって言っちゃったの。ここで遅れるなんて言ったら、悪い口コミが広がっちゃうじゃない。ハルカ、何とかしてよー!!」


「そうですね……」



 ハルカは、やはり子供をあやすように、リナの頭を撫でながら考える。



「では、手分けして素材集めを行いましょう」


「手分け??」



 目を丸くして、ハルカを見上げるリナに、彼女は頷く。



「はい。今は復元個体のクリエイトに対して、何の役にも立っていない雑用が一人います。それに、素材集めの手伝いを一部任せてみるのはいかがでしょうか」


「雑用……。そんなのいたっけ?」



 ハルカはその質問に答えるように、フェイリアの方を見た。



「あ、忘れてた!!」



 甘える子供のようだったリナは叫ぶと、素早くハルカから離れ、尊大な復元師であることを主張するように、手を腰に当ててから言った。



「アンタ、居候しているからには、ただでご飯は食べさせないわ。私の仕事、手伝ってちょうだい」


「もちろんです、先生! 僕にできることなら……いえ、できないことでも何でもやります!!」



 先日、リナの仕事に同行したフェイリアは、復元師の仕事に強い興味を抱き、協力する機会を常に窺っていたのだ。絶好のチャンスだ、と雑用を買って出るフェイリアに、リナの方が尻込みするようである。



「あ、ありがとう。じゃあ、エラストを集めてきてもらおうかしら。ハルカ、それで大丈夫?」


 話を振られたハルカは頷く。


「はい。エラストならこの辺りでも入手可能なので、フェイリアに任せても問題ないかと」



 呼び方が戻っている。さっきは、なぜフェイフェイなどと妙な呼び方だったのだろう、と疑問が出てきたが、ハルカは質問の余地すら与えなかった。



「では、時間が惜しいので、私はさっそく電ポリと自己修復ナノセンサーの入手のため、出かけてきます。それでは」



 リナですら、言葉を発する間もなく、ハルカを見送るしかなかったようだ。残された二人は唖然として立ち尽くしたが、リナは小さく息を吐いた後、作業に戻るつもりが、立ち去ろうとしてしまう。



「先生、待ってください。あの、エラストってなんですか??」


「ああ、ごめん。焦ってて、説明を忘れていたわ。誘電性エラストマーのこと。人工筋肉を作るために必要な素材のことね」


「さっき、ハルカさんがこの辺りでも手に入るって言ってましたけど……どこにあるんですか??」


「貴方が目を覚ましたって言う、廃墟群があったでしょ? その奥に、瓦礫の山があるの。そこに、機械人形(オートマタ)の残骸があるから、荷台に積めるだけ積んできて。残骸さえあれば、こっちで素材を取り出せるから」



 確か荷台はビルの前に置いてあったが、分からないことはまだある。



「機械人形(オートマタ)っていうのは、なんですか??」


「終末戦争のときに使われていた、機械仕掛けの人型兵器ね」


「それ、危ないやつですよね??」



 フェイリアの顔に怯えが滲み出る。兵器と聞いて、危険な仕事だと感じたのだが、リナは否定した。



「大丈夫。大昔に壊れた残骸でしかないから。運が良いことに、あの辺はパラサルクス も出ないのに、素材になるものがたくさん落ちているのよね」


「パラサルクスっていうのは??」


「うーん……分かりやすく言うとモンスターかな?」


「モンスターって、化物が出るんですか!?」


「だから、この辺りは出ないから大丈夫って言ったでしょ。頼んだわよ!」



 もう話すことはない、と判断したのか、リナは工房の隅にあるパーテーションの向こうに消えてしまった。ちなみに、その奥には寝台があり、クリエイトの途中である復元個体が置かれている。そのため、パーテーションには「緊急時以外は声かけ禁止」という札がかけられた、工房の聖域とも言える場所なのだ。



「……やるしかない、か」



 不安ではある。だが、役に立つチャンスだと思ったフェイリアは、工房を飛び出すのだった。

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