ディア と ゴブリン と 合理的ストライク
「どうするのディア」
カママに問われて、ディアはじーっと廊下に詰まったゴブリンを見る。
恥ずかしそうな、申し訳なさそうな顔で顔を逸らすゴブリン。
「……微妙に可哀想な気がしてきた……」
「でも倒せば黒いモヤに変わるのは同じじゃない?」
「ドライすぎない!?」
ディアの言葉に、カママが思わずツッコミを入れる。
そのツッコミに対して、ディアは肩を竦めるだけだ。
「このまま倒してモヤになって消えるまで待ちたいところですが、ここは領域じゃないですからね」
「シロナさんもわりと容赦ない意見を……」
うるうるした目で見下ろされると、カママとしてはさすがにちょっと思うところが湧いてくる。
「まぁでも、シロナさんの言う通りかも。それを思えばこのまま倒すのは良くないかもね。奥に祭壇があるなら、せめてその近くまでは言いたいけど……」
じーっとゴブリンを観察していたディアがそう口にすると、ゴブリンの表情が少し輝いた。延命できたことに喜んでいるのだろうか。
カママがゴブリンを見ながらそんなことを思っていると、ディアがおもむろに告げた。
「とりあえずタックルでもしよう」
「とりあえずでするコト!?」
「いやだって、超人化してない以上、倒してどかせないなら押してどかすしかないし?」
「いやまぁそうかもしれないけど」
ディアの言っていることは間違っていない。
(なんだろう、ちょっとゴブリンが可哀想と思ってしまう……)
カママは何とも言えない顔をする。
その表情を横から見たシロナは、カママ以上に何とも言えない顔をしていた。
背後の二人の様子はあまり気にせず、ディアは軽く構える。
「思いっきりぶつかるから、アナタは思い切り後ろに飛んで」
言葉が通じたのか、ゴブリンはコクコクうなずく。
それを確認するなり、ディアは思い切りゴブリンにタックルを決める。
「太ってるのに意外とお腹固い! タックルすると痛い!」
「ゴブ……」
何やらゴブリンは申し訳なさそうな顔をしている。
「まぁいいや。もう一発!」
「ゴブゥ……!」
よっしゃ来い! とばかりに表情をキリっとさせるゴブリン。
その様子を見てますますカママは微妙な顔をして、そのカママの顔を見たシロナがさらに微妙な顔をする。
何度かディアによるタックルが繰り返され、ゴブリンが必死に抜け出そうとする。
繰り返される中でどこか友情のようなものすら芽生えたように錯覚し、その光景にカママが楽しそうにしていた。
カママが楽しそうにすればするほど、シロナの顔は曇っていったが。
そして――
「よいっ……っしょぉぉ――……!!」
「ゴッ……ッブゥゥゥゥ――……!!」
――ついに、デブゴブリンの身体は細い廊下の入り口から解放され、部屋の方へと吹き飛んだ。
そのままゴロゴロとゴブリンは転がる。
「やったじゃん!」
――カママがそう喜んだ直後、ディアは無言で地面を蹴った。
「え?」
廊下の先。
広まった空間には、想定通りの祭壇があり、その祭壇を中心にダンジョン領域が空間内に広まっていた。
それを知覚すると同時に、ディアは剣を抜く。
ゴロゴロ転がり、仰向けの状態で止まって安堵し大きな口を開けたデブゴブリン。
その口の中に、ディアは問答無用でマナで強化した剣を突き込んだ。
これが配信されていようものなら、コメント欄が阿鼻叫喚になりそうな光景だ。
「え?」
実際、騒ぎはしないがカママは呆然としている。
それに対して、想定通りだったシロナは、デスヨネーという顔をして嘆息した。
「…………」
無言で剣を引き抜くディア。
それで仕留め切れてなかったのを確認するなり、次は喉仏を砕くように首へと剣を突き立てる。
それで、ゴブリンは完全に絶命した。
剣を引き抜くと、無造作に振るって血を払い、鞘に戻す。
それから、デブゴブリンの死体に触れると、自身のSAIへと収納する。
「あ、あのー……ディアさん? そのゴブリンとの友情が芽生えかけてませんでした……?」
恐る恐るカママが訊ねると、ディアはあっけらかんとした表情で肩を竦めた。
「芽生え掛けてたかもしれないけど、どうせ戦わないといけない相手だし、面倒になる前に倒しちゃった方が良くない? ふつうに強そうなゴブだったし。こんな狭い場所でパワー型に暴れられたら勝ち目なさそうだし?」
「え、えぇ……」
納得いかなそうなカママの肩をシロナが叩く。
「カママさん」
「シ、シロナさぁん……」
縋るような目をするカママだったが、シロナは真面目な顔で首を横に振る。
「いいですか。
ディアさんは、とても愛らしいコカトリスのヒナを、さんざん愛でて可愛がり、ほわほわの毛玉みたいだと戯れて、コメント欄を可愛いで埋め尽くす光景を作り出したあとで、『じゃあそろそろ食べるから殺すね』と、コメント欄を阿鼻叫喚にした人ですよ?」
「ぐあー……!! そうだった……!!」
「えー……ゴブリンもコカヒナスも、わたしが叱られる謂われなくなーい?
それを言ったら涼ちゃんだって、ネギ魔導の寝顔を撮影してリスナーを和ませたあと、容赦なく討伐したりしてるじゃん!」
「なんの言い訳にもなってないだろ!」
思わずカママがツッコミを入れると、ディアは口を尖らせる。
「まぁディアさんも涼さんも、愛でる時と目的を達する時とのオン・オフがえげつないってだけだと思います。目的の為なら、一秒前まで撫で回していたモンスターも容赦なく斬れるタイプなんですよ、二人とも」
「ノリの割には精神構造が合理に寄りすぎてない二人とも!?」
「はいはい。ともかくカママ落ち着いて。この祭壇に捧げられている像に触ると、ボス部屋に飛ぶだろうか」
ディアがそう告げれば、さすがにカママも気持ちを切り替えざるをえない。
「はぁ……。そのボス部屋、ワタシが相棒を振り回せる広さであるコトを祈るよ」
そうして三人は、小ボスに挑むべく祭壇に飾られている像に触れるのだった。
・
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受付の美人さんと話をしたものの、イマイチ要領を得なかった為、香は小さく嘆息しながら戻ってくる。
「とりあえず、湊たちに連絡を入れてオレらはここで待機だな」
香の言葉に、涼と静音はうなずく。
「ヘタに動いて先行組の思惑をおじゃんにしちゃうのが一番最悪だしね」
「だな」
みんなで受付の裏のエントランスに移動する。
「……あれが、湊の言ってた隠し通路か……」
Linkerで多少やりとりをしていたので、香も聞き及んではいた。
「隠し通路?」
「ここに女神像が飾ってあったらしいんですけど……なんか胸だけシリコン製で、調べたら内側にスイッチがあったとか」
「……それ、よく湊は気づいたね」
「まぁな。この建物には無数のそういうギミックがあるっていうところまでは掴んだっぽい。そして、そのギミックの先にある祭壇部屋みたいなところに、小ダンジョンみたいのがあるんだと」
香の説明に、涼は顔を顰める。
隠し通路がいくつ存在しているのか知らないが、その全てを今から探して回るのはあまりにも難題だ。
「義妹は、それを全て攻略して回る気でいるのですか?」
「どうだろうな。今はそれしか攻略法が思いつかないってだけだと思います」
「そうですか……」
静音が小さくうなずき、息を吐く。
「ついでになんか小ダンジョンのボス倒すとタロットカードを模したコインが手に入るとか」
「最低22枚あるのか。集めるのはダルそう」
「さすがに悠長ですね……」
「だよな」
涼も静音もさすがに付き合いたくないという顔をする。
実際、香も同感だ。
「まぁでも、何とかなるとは思うんだよな。
ピストル大名の運転で、リンさんや生徒会長、鳴鐘さんもこっちに向かってるようだし」
「ピストル大名さん来るの?」
涼の言葉に、香がうなずく。
「戦力としては助かりますね」
「でも、事態解決の決定打としては……」
「そうでもないだろ」
戦力増加を喜びつつも、気長に戦う必要がある状況に涼と静音がややうんざりとした表情を浮かべた。
だが、香はそうは思わないらしい。
「湊――というか白凪さんか。あるいは出たがり部長さん辺りと合流する必要はあるんだけどな。
まぁ、なんだ……その上でピストル大名が来てくれるんなら、RTA的な攻略ができるかも知れないぜ?」
「香?」
不敵な笑みを浮かべる香に、涼は胡散臭げに半眼を向ける。
静音はというと、香が何をしようとしているのか気がついて、こめかみに指を当てた。
「意外と脳筋ですか?」
「はっはっは。暴力を振るっても怒られない大義名分があるなら、暴力で解決するのが一番手っ取り早いってだけですよ」
長年の付き合いから嫌な予感しかしない香の笑みに、涼はこれみよがしに嘆息するのだった。
《Idle Talk》
本編と全然関係ないんだけど、今回の話を書いてる時――
『合理的ストライク 青
インスタント
キッカー白②
この呪文を唱える際、タップ状態のクリーチャーを対象とするのであれば、キッカーコストを②少なくプレイしてもよい。
クリーチャーを1つ対象とする。それをタップする。
キッカーコストが支払われていた場合、それを破壊する』
――みたいなテキストがずっと作者の脳内でチラついていた。




