ディア と カママ と 嘆きのゴブリン
ツボミと出庭がカママと合流した少し後、警備室にディアと白凪も合流した。
それからカママへの情報共有を兼ねた情報交換。それらを終えた上で、これからどう動くかを考える。
「あー……アタシ、ディアやシロナさんと一緒に攻略の方に行っていいです?」
「確かにカママちゃんの武器は鎌だもんね。事務所の廊下とかで振り回すのは大変かー」
リンはそう納得しかけるが、それにディアがストップを掛けた。
「でも隠し通路とか階段は結構狭いし、状況によっとはその状態でバトルやるけど、いける?」
「それを言われると……」
「ですがディアさん。Vゴブリンの時のようなボス部屋で戦うのであれば、カママさんはかなり心強い戦力にはなりますよ」
「それはそうだけど……」
シチュエーションが特殊すぎて、パーティの組み方すら難しい。
色々と話し合った結果、順調に回っている今の状況をムリして崩す必要はないだろうという判断になった。
「よし。なら変に入れ替えず、このまま行こう。
私とツボミくんのチーム。鰐浜くんとディアくんのチーム。
カママくんは、好きな方に入ってくれて構わない」
それについて、他の面々も異論はなかった。
「私たちと共に、避難誘導をしながら隠し部屋や小ダンジョンを探すのか。
鰐浜くんたちと共に、隠し部屋や小ダンジョンを探索し、この事件の原因だろうコアを探すか。
キミが自由に判断して、好きな方に協力してくれたまえ」
「うーん、急にそう言われても……」
事情を理解し、状況を把握した上で、カママは首を捻る。
どちらも重要な役割だと思う。
その上で、やはり自分が貢献できそうなのがどちらのかと考えると――
「やっぱアタシの戦い方を思うと、ディアたちのチーム向きだと思います。
なので、そちらにつきたいと思いますが、いいですか部長?」
「もちろんだとも。キミに選べと言ったのは私だしね。そちらのチームも良いかな?」
それにディアもシロナも異は唱えなかった。
「よし。チーム分けが終わったなら早速動こうか。
私とツボミくんは、一度経理部の切垣部長のところに顔を出す。
彼女も探索者資格を持っているし、あそこにも何人か探索者資格持ちはいたはずだ」
なるほど――と三人娘がうなずいたが、シロナはそうでもないようだ。
「むしろ、うちのオフィスに顔は出さないのですか?」
「必要ないだろ。あの放送を聞けば、資格の有無関係なく、探索者として必要な形で動けるはずだよ。なにせ、啓蒙動画とか別の事務所と協力して作ってるくらいだしね。D企画部は!」
わははははは――と笑う部長に、まぁそれもそうか……とシロナも納得したようにうなずいた。
「それじゃあお互いに納得したところで動き出すとしますか」
「よし。それじゃあみんな、あとでちゃんと無事に会おう!」
ツボミの言葉に、五人は「おー!」と返事をして、それぞれに動き出す。
部長とツボミが警備室を去ったあとで、シロナが警備員に声を掛ける。
「すみません。話は聞いているかと思いますが、ここのスイッチ……押させて頂いても?」
「ええ、はい」
了解を得たのを確認すると、シロナがディアへとうなずいた。
それを見、ディアがスイッチを押すと、スイッチごと壁が動いて、階段が姿を現す。
今度は上り階段のようだ。
「本当にこういう仕掛けが色々とされてるんだ……」
「これ大丈夫なんですかね、消防法とか……」
初見のカママと警備員は驚いている。
「行こう、カママ。警備員さんには申し訳ないんですけど、変な人がここに入ってこないように気をつけておいてください」
「了解です。皆さんもお気を付けて」
そうして――ディア、シロナ、カママは隠し階段を上がっていく。
最初の隠し通路同様にややカビっぽく、同時にトイレを思わせる空気というか臭いがする。
「……位置的に、二階の男子トイレと女子トイレの隙間、でしょうか?」
「あー! 確かに二階のトイレって言われてみると変な構造というか、妙に男女間が空いてますよね。壁が分厚いというには大きく取られすぎてるというか……」
「アタシたちが知らないだけで、実はゴブリンたちがここから覗いてたとかだったらやだなぁ……」
そんなやりとりをしながら歩いていると、その狭い廊下はすぐに突き当たりになった。
「これで終わり――」
「――なワケないよね」
三人で周囲を見回すと、廊下の中程で明らかに灯り用とは違うだろうスイッチを見つけ、それに触れる。
すると、突き当たりの天井から、梯子がゆっくりと降りてくる。
「メンテナンスしてないのにこの機能がちゃんと動いているのも不思議だよねぇ……」
降りてくる梯子を見ながらカママがしみじみ呟くと、それにシロナが推測混じりに答えた。
「案外、長期間放置されるの前提のメンテナンスフリー的な構造になっているのかもしれませんね」
「無駄に工夫を凝らされた無駄のない無駄な構造だよね」
その推測に対して、ディアがバッサリと斬るとカママもシロナも苦笑した。
本当に――設計者は何を考えてこんな建物を作ったのだろうか。
「よし、降りきったかな。わたし、カママ、シロナさんの順でいい?」
二人がうなずくのを確認したディアは梯子に手を掛ける。
昇りきった先は一畳ほどの小さなスペースだった。
周囲を見回すと、分かりづらいが壁の一つが扉になっている。
「二人ともストップ。上、結構狭い。
扉見つけたから、開けてみるね」
「気をつけなよ~」
「十分警戒を」
「わかってる~」
扉を開けると、小さなL字型の廊下になっているようだった。
「とりあえず大丈夫そう。二人とも上がってきていいよ」
ディアはそう声を掛け、廊下へと出る。
「ほんとに狭いな……」
カママがそう呟きながらディアの方へ数歩進む。
「確かに扉が開いてなかったら三人は厳しそうですね」
その扉の廊下も、すれ違うのはまず無理なほどの狭さだ。
「ディアさん。廊下を進むなら剣を抜いておいた方がいいかと。この狭さだと咄嗟に抜くのは難しいですよ」
「うん」
シロナに言われた通りに剣を抜く。
「超人化した感じはないけど大丈夫?」
「今回の事務所探索は、超人化できたらラッキーくらいに思ってた方がいいよ、カママ」
「そうですね。領域がマーブル状に広がってるようなので、同じ廊下でも超人化する場所としない場所があったりしますから」
「……うへー……長モノ使いのアタシにはきっつい条件だなぁ……」
取り回しの問題もそうだが、重量の問題もあるのだろう。
それを思うと、確かにカママには大変そうだ。
「まぁ足は引っ張らないようにがんばるよ。この陣形のまま行くんでしょ?」
「うん。行こう」
ディアを先頭に殿をシロナ。間にカママを置いた並び順のまま、廊下を進み始める。
L字の角を右に曲がる。しばらくすると、また右だ。
「廊下とオフィスの隙間を進んでる感じかな?」
「確かに妙に壁が分厚い場所とかありましたもんね」
「改めて自分らの事務所がこれって怖くない?」
もはや三人は苦笑すら漏れず、真顔になる。
事件が終わったら、社長には事務所移転を検討して貰いたいところだ。
またしばらく歩いて、今度は左に曲がる角がある。
そこを曲がって――
「…………」
――ディアは、即座に足を止めて沈黙した。
「ディア? どうしたの?」
「あー……」
困ったような顔をしながら、ディアは出来るだけ壁際に身体を寄せて、とりあえず見て欲しいと、二人に示す。
カママとシロナは顔を見合わせて、狭い廊下を上手い具合に譲り合うと二人で同時に、ディアが示すものを見た。
「あー……」
「あー……」
二人は、先ほどのディアと全く同じ顔をして、意味の無い音を口から漏らす。
そこに居たのは、一匹のゴブリンだ。
でっぷりと太ったゴブリンが、廊下につっかえている。お腹の左右が完全に廊下の壁に併せて平らになっているのを思うに、完全にみっちりとハマっているのだろう。
そんなゴブリンが、ディアたちを見ながら申し訳なさそうな、あるいはこの世の終わりを思わせる諦観の顔をしている。
「……いつからこうなってるの?」
カママの素朴な疑問に、ゴブリンが恥ずかしそうに視線を逸らす。
その様子からして――もしかしたら、事務所がこの状況に気づくより前からハマっていた可能性がありそうだ。
まぁそれはそれとして――
「それで、ディアさん、カママさん。このゴブリン……どうします?」
――シロナの素朴な疑問に、ディアもカママも頭を抱えるのだった。
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夕暮れというには遅くなった黄昏時。
その黄昏すらも夜の帳が飲み込まんとする頃合いに、彼ら三人は事務所の入り口に到着した。
「……で、香。どう動けばいいの?」
「とりあえず連絡入れてからの返事待ちだな。すでに状況が動いている以上、後発組が勝手に動くと先発組の思惑を崩しかねない」
「妥当なところですね。まずはそこの受付で、話でも聞いてみましょうか」
【Idle Talk】
ディアたちが現れるまで、デブゴブリンは己の運命を嘆き世を儚んでいた。
ディアたちが現れてから、デブゴブリンは己の羞恥を嘆き世を儚んでいる。




