第3話 冬山1号地区分室A1 くまウィークの様子
分室は 地下2階・地上2階の4階建ての建物である。
「自然環境にやさしく」がモットーの組織なので、
雪が積もっても、融雪剤は使わない。
なので、町とは 地下道でつながっている。
建設そのものが 環境破壊ではないか!というご意見もあったが、
そこは「環境アセスメント実施の上 モゴモゴ」という官僚答弁で乗り切った。
実のところ 谷の側面を一部けずり、そこに完成した巨大円筒をならべ
埋め戻したようなトンネル道なのだ。
崖崩れや堤防決壊防止のためにのり面を固める代わりに、トンネルとなる円筒をはめ込んだと思えば、環境負荷も許容範囲と言ってもいいのではないかな・・?
この巨大円筒トンネルというのは、海底トンネルの沈埋函工法の応用系とイメージしてもらえれば・・
◇
なので、雪が積もっても 雪かきはしない。
積雪期になると、地上1階部分は雪に埋もれる。
なので メイン会議室と作業場は地上2階にある。
2階部分の広いベランダが、冬場の出入り口にもなるし、
ドローンの発着場でもある。
ドローン発着場が なぜ 屋上ではなく2階のベランダにあるかと言えば
屋上に屋根をつけるのも大変だし、
いわゆルーフタイプなら 積雪に耐えられるか疑問。
それに、ドローンに器具を装着する作業場から 発着場まで階段まで上がったり下りたりすのも大変だ。。
だから2階で作業して そのままベランダにもっていく。
ベランダ部分はの屋根は 3階部分の床面でもある。
つまり 戸建て住宅のベランダと違って、市営住宅によくある、窓無しの小部屋みたいなベランダだ。
実際には 市営住宅のベランダのように細かく区切られてはいないから 結構な広さはある。
ただ しっかりとした屋根もあり、奥行きもあり、側壁もあり、
さらにベランダといいつつ 外壁の代わりにガラス戸が付いているので、
実は 格納庫兼用の発着場だ。
しかもガラス戸なので 日中は採光が良い作業場として使える。
冬場は ベランダ室が冷たい空気を遮って、作業室への断熱効果を発揮するし、
夏場も ベランダの屋根が 室内への直射日光を遮り 部屋の冷房費用が安くつく
そしてなによりも 雪国なので、屋上には雪が積もると建物が壊れる危険性が!
というわけで 平面の屋上はなく 3階の屋根は 雪が滑り落ちやすい形状で
しかも一部電熱仕様で雪が積もらないように工夫してある。
◇
というわけで、くまウィーク初日の朝、朝礼のあと、ドローンは一斉にとびたった。
ドローンたちは 成獣に埋め込まれたタグが発信している電波を基に
冬眠している熊たちのもとへ飛んでいく。
さらに 飛行中に熱探知を行い、未確認生体の位置情報も、分室へと送ってくる。
同時に 地上の映像も搭載カメラから位置情報付きで送信
故に 分室の屋根の周りは、アンテナだらけである。
このアンテナは風雪の影響を受けにくい 特殊素材・特殊形状の
「雪害対策タイプ」である。
◇
「西1~5号異状なし 順調に飛行中」
「東1~5号向かい風につき 速度低下」
ドローンから送られてくる情報を読み上げるスタッフ達
「北緯xx東経xx 遭難者発見!」
「はぁ~?」ぼやく室長
「映像確認 遭難者に接近して 音声通話をこころみよ」班長が指示する
◇
「こちら動物管理局所属ドローン あなたは助けを必要としているか?」
自動応答システムのように話しかけるドローン
「腹が減って動けない 助けてくれ」
「氏名・年齢・性別・救助保険番号を述べよ」
「山川谷男55歳 動物の殺戮者め!」
突然男が起き上がり ペイント弾を発射した。
すかさずドローンは防護膜を展開してペンキが本体にかかるのを防ぐ
「くそっ!」男は 走って逃げようとするが
ドローンは 対人用昏倒薬品弾を発射して 男を昏倒させた。
「まったく 今年も愛護テロか」忌々し気に吐き捨てる室長
「回収ドローン到着まであと5分」保安オペレーター
◇ ◇
動物愛護ムーブに乗った一般市民は、害獣全頭管理法が成立後、
自分が引き取った動物が他者に危害や損害を加えた時に、自分が飼育者として因果応報の報復を受けねばならない知って 一斉に沈黙した。
他人がクマに殺されても「クマは悪くない 殺された人間が悪い」と言い放っていた人達は、
「では その悪くないクマがこれ以上人間に危害を加えないようにあなたが全責任を負いなさい。
悪くないクマが成した危害行為と同じだけの報復行為を クマの身代わりにあなたが受けなさい」と 法で定められたら、一気にわが身かわいさの自己保身にはしって沈黙したのであった。
◇
その一方で 闘争好き反社気質の人間は、クマを守るための義勇兵として 動物管理局に襲撃をかけてきたのだが・・
「害獣全頭管理の根底にあるのは 集団的自衛権の行使である。
これは自然法の一種である」というA国の宣言に基づき
ドローン搭載の対人用麻酔弾で反撃され撃沈
管理局発足後3年もたてば 管理局への襲撃もなくなった。
◇
ところが 昨年より新たに出撃したのが、勘違い系ドローン狙撃犯。
ペイントボールの延長のような感覚で 動物管理局のくまウィークにあわせて 出動中のドローンに向かってペイント弾を発射してくるのである。
サバイバルゲーム(サバゲー)というのは、エアガン・ゴーグル・軍手をつけて 専用フィールド(屋内)で遊ぶらしいのだが
ペイントボールは 野外にフィールドを設定して、そこで水洗い可能な染料の入ったペイント弾で撃ち合うスポーツ(という名の遊び)である。
A国では、サバゲーがメインで、ペイントボールが普及していなかった。
これはたぶん 「野外で撃ち合う」ことへの規制が厳しいことが原因ではないかと思われる。
ところが 「全頭管理局がドローンを使ったクマの狙撃をするなら
ぼくらが野外でペイント弾を撃ってもいいじゃん」
「クマを守る正義の戦士 悪のドローンを打ち倒せ」
などという勘違い系が出てきたのだ。
この者達は嬉々として、クマ生息地に潜み、クマウィークに出動するドローンを攻撃してきた。
◇ ◇
「まったく 狙撃じゃない。あくまでも 麻酔弾による一時保護だ
(引き取り手のないクマは殺処分されるとしても)」ドローン捜査班
「その(~)部分があるから、『一時保護』宣伝をやりにくいんだよなぁ」(広報班)
「とりあえず 『器物破損罪を適用するとともに、ドローンの修理もしくは買い替え費用は全額請求する』ことについては、各方面から了承を得たから」政策対策班
「問題は そのことを広報したら、逆に ゲーマーの興味を引きかねないので、『ドローンへのペイント攻撃は犯罪です!』キャンペーンの実施については、ドローン襲撃状況を見て判断ということで
3年間は観察期間と決まったことなんだよねー。
その間 僕たちメンテナンス班は 大変だよ」とぼやく班長
「去年は まったくの不意打ちで、10台のドローンが使用不能に陥った。
その反省をもとに 今年はペイント防護膜の自動発射装置を取り付けたんだけど、今回は うまくいったようだ。
実際のところは 実物を点検してみないと確定はできないけど」
メンテナンス班員
「そもそも 一昨年 本物の遭難者を うちが発見して救助したことを派手に報道されたのがきっかけで、昨年は サバゲー感覚の狙撃犯が発生したというのだから・・」ぼやくメンテ班長
「まったく 抜け駆け主義の拝金記者めが。
英雄気取りですっぱ抜きやがって。
なにが 動物愛護局のイメージアップを狙って 広報しましただ!」
忌々し気に吐き捨てる室長
「おかげで くまウィークの活動そのものがすっぱぬかれちまったよ。><」室長補佐
「いっそのこと 遭難者を装って、うちのドローンを攻撃する人間が今年も発生したので、今後は 活動中に遭難者を見つけても一切救助しないと広報しますか?」広報部長
「今回の件を理由にして、活動中に倒れている人を発見した場合は
緯度・経度のみ自衛隊に通報するが それ以外のことはしない。
さらに うちが通報したということもマル秘扱いにすると確約するよう 関係機関に根回しを開始するよ」室長
「本物の遭難者を見捨てるみたいで 胸が痛むがしかたがない」と室長は 暗い顔をした。
「十分な予算と 3年の猶予があれば、全頭管理局が遭難者発見パトロールも行えるだけの ドローン隊を整備できますけどね」メンテ班長
「もともと その方向で 知事とも話し合っていたのに、あの抜け駆け記者めが><」と憤慨したのは事務局長だった。
◇
モニター機器をにらみながらも、このように雑談しているうちに、
狙撃犯回収ドローン2機が現場に到着した。
2機のドローンは、問題の狙撃犯を釣り上げて、防衛庁所属のテロ対策室まで運んで行った。
それに関する今後の事務的折衝に当たるのも 事務局長の仕事のうちである。
ちなみに 狙撃犯の肉体と命には損傷はない。
なにしろ 病院で使われている一般的医薬品で 気を失わせただけであるから。
その医薬品の使用分は、医療現場における全額自己負担額(それは 購入原価よりも高い)で 狙撃者に対して請求と同時に、狙撃犯の銀行口座から自動的に即時引き落としされる。
キャッシュレス社会というのは、賠償金にしろ制裁金にしろ 国家が徴収すると決めた代金は 即時対象者の口座からひきおとされるという 恐るべき社会でもあるのだ。
”だって そういうのは 法律で決めちゃえばすぐ実現できちゃうもんね♪
世論操作も 議員の票を買うのも 自由自在”(影の声)




