急募の理由
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その日は松下さんから、そのことに関する新しい情報は聞けず。また数日が経った。
悠希も、ただの冗談話だったと思っていたとき。あのときの話の出処がわかった。
マーケティング部の木村絢子さんという方が、複葉機のプラモデルを作ってくれる人を探しているというのだ。
ただ、これは仕事ではなく、個人的な頼みのようなのだ。
「なんでです?」
だからこそ、そこは聞いてみた。
「さぁ? そこまでは聞いてない」
松下さんは、その大事なところが抜け落ちていることは、あっけらかんと応える。
「そんなに気になるんなら、自分で聞いてみれば?」
そんな悠希のプラモデルに対する興味心を、松下さんはくすぐった。
これは絶対に、松下さんは確信犯だと、悠希は思った。
正直言って、複葉機はおろか、飛行機のプラモデルは作ったことがないし、その作り方も知らない。
それは飛行機 = ラジコンのイメージが強いからだ。
飛行機は難しい。そして、もしも飛行機にハマったりして、そこからラジコンの世界に行ったりしたら、それこそお金が掛かり過ぎて破産する。そんな妄想的な不安が悠希にはあった。
そんな悠希の前に、木村絢子さんから現れる。
その前に聞いた話では、木村さんは、松下さんより20歳上の人で。それよりも驚いたのは、マーケティング部の部長が、この木村さんだったからだ。
「小日向さんて、どなたかしら」
颯爽と現れた木村さんは、開口一番に悠希を名指しする。
「えっ!? はい。あたしです」
いきなり自分の名前を言われて、悠希は慌てて立ち上がる。
「ごめんなさい。ちょっといいかしら」
そう。優しい口調で声を掛けられる。
「あっ。はい」
どうしていいかわからないまま、悠希は返事をする。
「ここではなんなので、ちょっと部屋の外で」
そう木村さんに言われて、総務部の部屋の外に連れ出された。
「ごめんなさい。私も時間がないので、手短に話すわね」
「はい」
「お願い! あなたに複葉機のプラモデルを作ってもらえないかしら」
そう言って木村さんは、悠希に深々と頭を下げた。
「いや。そんな。頭を上げてください。それで、理由は?」
「理由は、今は介護施設のベッドで寝たきりになっている祖父に、安心して天国に行ってほしいからよ」
「失礼ですが、そんなにお身体がお悪いんですか?」
これが失礼なこととわかってはいても、悠希はあえてそのことを聞いた。
「私の年齢の祖父だからね。今年で、もう100歳よ」
「でも、単にプラモデルを作るのであれば、別にあたしでなくてもかまわないと思うのですが……」
それは悠希が聞いた、核心だった。
「それは……。本当に、大空を飛んでいるように作ってほしいのよ」
木村さんは、それが心からの願いであるかのようように言った。




