サラリーマン山田
◇◇◇
「…わたくしは、
サラリーマン系VTuberの、山田ひかるです!」
スクリーン内に映り込んだのは、
スーツを着て、
目の下にクマがあり、
ネクタイが少し曲がっている、冴えない男。
身を乗り出し、手をおでこに当て、
こちらを覗き込むように、挨拶した。
「……?」
呆然とする僕達をよそに、
彼はデスクに腰掛け、
カップに注がれたコーヒーを、
デスクの僅かな隙間に置いた。
コンビニのおにぎりのビニールを
丁寧に剥いている。
「おにぎりとコーヒーって、組み合わせ悪いよねー。
皆は、何の具がスキー?
僕はねー、ツナマヨかな!
…て、あはっ!王道すぎる?」
(な、何を見させられているんだ?)
突如として始まった、
サラリーマンの昼休憩の映像を、
モニターの視点で見せられている。
「コンビニに行ったらね!すごく混んでてさー、
でもでも、セルフレジは空いてて、
並ばずにお会計できちゃった!
皆んなはセルフレジって使う?」
コンビニで起きた出来事を、
取り繕ったかのような笑顔で語る男。
(この人、VTuberじゃなくない?)
今更だけど、彼は3Dのアバターよりも
非常にヌルヌルと動く、ただの人間だ。
「……くだらない。」
突如として、口角が下がり、
ビニールを剥く手が止まった。
「…くだらない。しょうもない。どうでもいい。
君たちはそんな内容、
コンテンツしか生み出せない。」
「僕を見て、VTuberじゃないと思った人も多いだろう…ただの人だと。だけど、君たちは無意識のうちに、VTuberの優位性を無くしてしまっている。」
思い当たる節があり、耳を塞ぎたくなってしまう。
「君たちは、ヴァーチャルのキャラクターなんだろう?僕と違って!…なのに、何で、見たくもない現実を見せるんだ…。」
その男は、こめかみに手を当て、肩を震わせている。
「……僕はね。VTuberという存在、言葉や概念が生まれ、普及し始めた頃…夢や希望に溢れていた。だけど、時代が進めば、ゲームや雑談が主流になり…」
「キャラクター性のない、ただの人間が、キャラクターを身に纏って、配信業を行っている。…僕には、そう思えて仕方がない…」
(……確かに、そうかもしれない。)
シェパード・ラインハルト…俺様キャラは、僕の理想だった。強引に見えて繊細で、傲慢に見えて周りがよく見えている…。
(僕は、そんなキャラクターになりたかったんだ。)
「皆んなも、そう思うだろう?!」
皆んな…僕達に呼びかけているのだろう。
ここに集まっているのは、VTuberなんだから。
【そうだそうだ!】【いいぞ山田!】【888888】
【よく言った!】【新衣装は、ただの着せ替え遊び】
【スタジオとか言うなー!】【リアルを晒すなー!】
突如として、巨大なスクリーンを埋め尽くすほどの、目で追いきれない程の文字が、右から左へと流れていく。




