見る側、見られる側
扉の先は、再び暗闇だった。
「ま、またか?」
しかし、完全な闇ではなく、
正面には、巨大なスクリーンが設置してある。
その白んだ明かりが、
その場を薄く照らしていた。
「…なんか、巨大な映画館って感じ」
何かが放映されるのだろうか。
なら、早く席に着かないと。
『「 ラインハルト様
映画館では お静かに です
スクリーンを よく見てください 」』
ジェーミニが、
思わず声が漏れた僕を注意した。
その巨大なスクリーンに視線を向けると—
“上映中のおしゃべり”
“座席の移動”
“盗撮・録音行為禁止”
などの注意事項が、
大きな文字で書かれていた。
(盗撮なんて、
出来るわけないだろ!…こんな状況で)
心の中でそう叫んだ。
『「 ラインハルト様
cの285番に 進んでください 」』
(cの…285?
どんだけでかい映画館なんだ?)
その声に従い、
言われた座席に向かって、歩き出した。
◇◇◇
「……ふぅ」
やっとの思いで席に着き、一呼吸おく。
—不意に石鹸のいい匂いがし、辺りを見回す。
匂いの先は、僕が座る左隣の席。
そこには、黒髪で、白いベレー帽を被り
制服を着た女の子がいた。
緊張しているのか、両手を膝の上に置き、
身をすくめている。
(そういえば、僕以外の人もいるんだったな。)
他の席にも誰かいることは、
確認していたけど…
視界の端で捉える程度で、
はっきりと見るのは初めてだ。
(ということは…)
視界を反対側に移すと、薄青い髪色の
優しそうな雰囲気の青年が座っていた。
僕の席側に、立派な鞘に入った剣を立てかけている。
(…何かのコスプレかな?)
そう呑気に考えていると…
バンッ—
突然、その空間が真っ暗になった。
「ヒィッ—」
隣の席から、怯えた声が聞こえてきた。
「もうやだ!帰りたい!」
「…なに?私達を怖がらせたいの?!」
「小生、暗闇は苦手で候。」
—あちこちから、
悲鳴のような
虚勢を張っているような…
様々な声が上がった。
その声は、映画館特有の防音性によって
とてもクリアに僕の鼓膜に届いた。
その暗闇は、
封筒を開けた後に体験した、
体が動かせない、完全な闇を思い出される。
僕は自分の手を丸め、
強張る体を安心させた。
ジー…
突然、巨大なスクリーンが機械的な音を鳴らすと、
次第に、その場は静かになった。
バン!
そして、そのスクリーンが映したのは、
薄い紙や、ファイルが乱雑に置かれた、
サラリーマンの、デスクの上のような映像。
カツッ—
カツッ—
何かが向かってくる音が、
巨大な映画館全体を包んだ。




