第10話「あの日見つけた憧れの花」
ひんやりとした冷たさが身体全体に広がっていく。
私は怪物の身体に沈んでいた。
もうおしまいだ。
薄れる意識の中で、私は昔のことを思い出していた。
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それは、私が魔法少女に出会ってから、まだスカートを履く勇気が持てない時だった。
いつものように赤ジャージを着せられ、噴煙舞い上がる活火山での修行に連れてこられた私は、岩場で足を滑らせた。
鼻をくすぐる草の匂いで目を覚ますと、目の前は草原が広がっていた。ジャージが湿ってひんやりする。
首だけを動かして岩場を見上げると、空に吸い込まれそうなほど高かった。登れそうにない。
また、父親に怒られる。
怖いなぁと思うと同時に、これで修行しなくてもすむぞと思っていた。
修行は年々嫌になっていた。
真っ赤なジャージは気分が上がらない。
魔法少女みたいな服だったらもっと頑張れそうなのに。
そんなことを考えていた。
湿ったジャージが身体の熱を奪っていく。私はカラスが空を飛んでいるのを眺めていた。
ふと、1羽のカラスが崖の途中に姿を消した。
そこにも草が生えているらしく、一輪のピンクの花が顔を出したのが目に止まった。形からして百合だろうか。カラスが動く度に細い茎が揺れている。
なんて、強い花なんだろう。
可愛い色なのに、こんな崖の斜面で力強く咲いている。
父親が助けに来るまで、私はその花を眺めていた。
私もあの花のように可愛く、強くなりたい……。
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「爆裂キュートパンチ」
声がして目を開けた。怪物ごしに、真っ赤な影が私を見つめている。
「マグマ、レッド?」
なぜ、彼がここにいるのだろう。もしかして近くに怪獣が出たのだろうか。魔力がこもっていない攻撃は怪物に効かないはずだ。
「爆裂キュートパンチ」
いや、攻撃が効いている。マグマレッドがパンチをする度に、赤い光が弾け、視界が開けていく。彼のパンチが怪物の身体をえぐっているのだ。
「なんで?」
「こんなところにいたら魔法少女にはなれないぞ」
怪物にパンチしながらマグマレッドが言う。
「キミは魔法少女になるんだろ」
「でも、翼が無くなった。私は、もう」
声が震えて言葉にすることが出来なかった。
次から次へと涙が零れてくる。
「何を言っているんだ」
涙を拭こうとした手をマグマレッドに掴まれた。
「君はパニエを履いているじゃないか」
はっとした。
そうだ。私はまだパニエを履いている。
スカートを見る。汚れてはいるけど、それでもこのピンクのスカートは可愛い。
目の前で光が弾けた気がした。私は負けない。まだこんなにも可愛いスカートを履いているのだから。
「ありがとう、マグマレッド。目が覚めたよ」
私は魔法少女になるんだ。私はマグマレッドの手を握りかえした。
「その意気だ」
怪物の身体から引き上げられる。
「えっ」
私は言葉を失った。
「さぁ、魔法少女を目指す少年よ。一緒にこの怪物を倒そう」
ベルトに手を当てマグマレッドが胸を張る。
堂々としている彼の腰元で、真っ赤なパニエが揺れていた。




