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第9話「おごるな危険」

 空を飛ぶのは楽しかった。


「あっ、魔法少女だ」


 こども園だろうか? 地上から私を指さして子どもたちが騒いでいた。

 誇らしい気持ちでいっぱいだ。今なら何でも出来ると思う。


 空を飛ぶのにも慣れてきて、遠くから感じる力もだんだん強くなっていた。


 街を過ぎ、地上は木々が増えている。人が少なくなり、カラスの声が不気味に響いていた。


 なんだか胸騒ぎがした時、視界の隅で木が倒れるのが見えた。

 なにか大きなものが動いている。怪物だ!


 通報しようかと思ったが、やめた。

 私は今、魔法少女だ。怪物だって倒せる、いや倒せないとダメなんだ。


 私は手に持っていた風呂敷をリュックに詰めると、怪物の元に向かった。




 なめくじのようなその怪物は、ねちょりねちょりと木をなぎ倒しながら歩いていた。

 なぎ倒された木は怪物に吸い込まれていく。


「そこまでだ」


 私は怪物に向かって叫んだ。


「私が来たからにはもう好きにはさせないよ」


 身体が痺れた。今の私は完璧な魔法少女だ。

 なんてかっこいいんだろう。


 怪物はゆっくりとぬめる体を捻ってこっちを向いた。

 触覚のようなものが私の方を見る。茶色い体液がどろりと怪物の体から滴り落ちた。


 うえー、気持ち悪い。


 今朝のジャングルジムと違って、柔らかい体が刃で切れるかは分からない。

 近接戦は危険だろう。


「リボンブレード」


 私は背中に手を回し、背中とリュックの隙間から編上げのリボンを解いた。

 ガクンと身体が重くなり落ちかける。慌てて体勢を立て直した。


(なに、いまの?)


 心臓が縮むような思いがしたが、怪物との戦闘中だ。気にしてはいられない。


 私はリボンを怪物に巻き付けて動きを止めた。

 刃となったリボンがくい込み痛いのか、怪物がもにょもにょと動いている。


「キュートボム」


 私は髪の毛に付けていたリボンを怪物に向かって投げつけた。

 リボンは怪獣にぶつかると弾けた。怪獣が砂煙に包まれる。


「どうだ」


 砂煙の中から影が現れる。怪物は無傷のようだった。


(うそ。きいてない!?)


 怪物は、リボンから抜け出そうと身体を大きく波うっている。

 触覚が何度も上下して、怒っているようにもみえる。


「えっと次は」


 考えていると巻き付けていたリボンが引っ張られた。

 怪物がリボンを食べるかのように手繰り寄せ、登ってきている。


 このままリボンを持っていると危ない。私は手を離した。


 反動で頭から落ちかける。

 私は宙で一回転すると、なんとかバランスを保った。


 なんだか飛びにくい。

 さっきまで簡単に飛べていたのが嘘のようだ。可愛い服を着ているのにどういうことだろう。


 私が手を離したことでリボンがゆるみ、怪物が解放される。

 怪物はまだまだ元気そうなのに、私はなぜか疲れ切ってしまっていた。


 怪物に攻撃などしなければよかった。

 状況を悪化させただけだった。


 素直に通報して、学校へ向かえば良かったのだ。


 怪物が大声を出しながら山を降りようとした。

 その方角はだめだ。すぐ近くにこども園がある。


 さっき私のことを魔法少女だと叫んでいた子どもたちを思い出す。

 そうだ、私は魔法少女。

 怪物を倒さなきゃ。


 私は近くの木の先を折ると、怪物に向かって投げた。


「あんたの敵はこっちでしょ」


 怪物が山を降りるのをやめて私を見る。

 とりあえず、気はそらせたようだ。


 でも、これからどうする?

 頭のリボンも、背中の編上げも使ってしまった。他に武器になるものはあるだろうか?


 怪物がネバネバとした体を伸ばしてきた。

 私は距離を置こうとして高度をあげようとしたが、体が重く上手く飛べない。


 高く飛ぼうという思いとは裏腹に、木が近づいてくる。


 無理に飛ぶのはやめようと諦めた時、翼が木に引っかかった。


 背中が軽くなり、肌が燃えるような痛みと、

 ボキボキといくつもの木の枝が折れる音が響いた。


 なんとか途中で止まったが、服は破れてボロボロになっていた。


 もう、飛べない。


 せっかく魔法が使えて、魔法少女学校にも入れそうだったのに。

 空を飛べただけで強くなった気がしていた。


 アステリアのように一瞬で怪物を倒せると思っていた。

 そんなわけ、ないのに。


 鼻の奥がツンとした。目の前が霞み、頬を涙が流れた。


 もう、魔法少女にはなれない。


 私は、怪物に包み込まれた。

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