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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
四の巻
99/153

欠片

 私達は、息を整えて持ち場に戻る事にした。

街ゆく人が剣士が走って何かを追いかけていたので、何事かと見ている。


朔太郎様は如才なく皆に、にこやかに話しかけていた。

それは商人の話し方とは違い、どこか堅苦しい話し方だ。

「皆、驚かせてすまなんだ。どうにも怪しそうな御仁がおって、

私を見るなり走り出したのでな。追いかけてきたという訳だ。

驚かせて悪かった。さあ、商売に戻ってくれ」


そう言われた街の人々は、なぁんだと自分のやる事に戻っていく。

中には助太刀をかって出る人もいるくらいだ。

「旦那、どんな御仁だったんで?」

「それがな、顔がはっきりと見えなんだ。

濃紺の渋い着流しをきておったのだ。でも、それだけでは

皆に見かけたら教えてくれと頼むわけにはいくまい?」

「確かに……。じゃあ旦那、もっと詳しく分かったら

番屋に言付けておくんなさい。我らも街の世話役から話が回ってくるでしょう。

それでいかがですかい?」

「すまぬな、その時はよろしゅう頼む」

「お安い御用で……。じゃあ、これで失礼しやす」

そういうと鳶職のような半纏(はんてん)を翻した一行は、

たぶん大工道具だろう、箱を担いで通りを歩いて行った。


橋を戻りながら、ジッと考える。

あれは誰だろう?朔太郎様は、私を狙っていたのかと言っていた。

と、いうことは朔太郎様は私より早く彼に気がついていたということだ。


橋をちょうど渡りきったところで、さっきの出来事を振り切るように

私は真っ直ぐ顔をあげた。

「朔太郎様、警らの仕事を終えたらお時間はありますか?

一緒に橙矢様のところへ行っていただきたいんです」


朔太郎様も、もう笑ってはいなかった。

「はい、雫様。もちろんお供します」



 その後の警らは平和そのものだった。

お屋敷街は、総じて落ち着いている空気がある。

役職によるのだと思うけど、女性が出歩く時は警護の人もいる。

守りの堅い街なのだ。

時間いっぱい使って、私は細道も覚えられるほどに歩いた。

鬼火も影も、今日は見当たらなかった。

朔太郎様と昼餉にお蕎麦を食べて、すぐさま屋敷に戻り

橙矢様に目通りを願う。ダメなら小春の所に行ってみよう。

何か文献が見つかったかもしれないし……。


私の願いは、すぐさま叶った。

よく考えたら橙矢様って多忙中の多忙な人なんだよね。

今まで会うことを断られたことがなかったから、うっかりしていたの。

今度は橙矢様にすぐに話せなかった時に、誰に相談するか考えておこう。


「雫、戻ったか。朔太郎様も、どうぞそちらへ。

今、茶を持って来させましょう。雫は甘味もいるのか?」

「橙矢様、ご飯を食べたばかりなので、甘味は後がいいです」

「そうか、お前は甘味に釣られないとは……。

なんぞあったか?」


私は、思わず膝に置いていた手でギュッと袴を握った。

「橙矢様、質問があります」

「……ほお、……なんだ?」

「この世界に来たのは私だけだという確証はあるんですか?」

前のめりになる私に橙矢様は、私にとっては

久しぶりに能面のような顔になった。

「……我らが知っておる事柄は、我が國に招いたのは雫、

お前 ただ一人だけだ。それ以外の事実はない」

「……我が國に招いたのは……。では他の國ではあるということですか?」

「……ふぅ」

橙矢様がため息をついた?!

初めて見たよ……。え? なんだか大事の予感……。


「雫、まだ何も掴めてはおらんのだ。警らの最中に何かあったのか?」

どうしようか迷ったけど、話してみるしかない。

「警ら中に、元の世界にいた人と似ている人を見ました。

でも逃げられたので確証はありません」

「……逃げられた?」

「はい、私を見ていたようです。そして、私たちがその人のところへ行こうとしたら

走って逃げました」


橙矢様は腕組みをして考えているようだった。

「朔太郎様、どんな人物でしたか?何か特徴は?」

「あれは偶然に雫様を見つけたのだと思う。

付けられている気配はなかった。

そして長い時間、雫様を見ていた。間違いなく雫様だと理解しておった様子。

でも雫様は、こちらの者ではないとおっしゃる。

橙矢が知らないのであれば、詳しく探索せねばならんだろう」

「他に何か気になる事はありませなんだか?特徴などは……?」

「いや、随分と渋い着物を来ておった。黒髪によく映える濃紺の着流し。

身のこなしも軽やかで、足もかなり速かった。

ただ間者ではないと思う。間者であればジッと雫様を見たりはせぬだろう」


しばらくの沈黙の後、橙矢様は決断した。

「雫、この件はしばらくの間、私に預けてくれ。必ずお前にも

事情がわかれば話す。それでどうだ?」

「はい。……でも、……情報があってもなくても

なるべく早くにお話を伺いたいです」

「なぜだ?」

「気になるからです。もちろん、元の世界の人かもという意味で気になるのもありますけど、

それよりも、なぜ逃げたのか。そっちの方が気になります」

「分かった。なるべく早く知らせをやるようにしよう。

朔太郎様、申し訳ありませんが雫の安寧を

どうぞお守りください」


「元より。充分に気をつけよう」

答えた朔太郎様は、橙矢様と同じ真顔だった。

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