幕無
次の日も休ませてもらった私は、すっかり体調を取り戻して
いつもの日常に戻って行ったの。
午前中の稽古は、剣士の皆と。
午後からは朔太郎様と。
午後は……、ため息が出るほど、また難関が目の前に
立ちはだかっている感じ……。
そうよねぇ、簡単にできたら実道様達も苦労しないもの……。
チャンスはキッカリ三回。それ以上は私が持たないし、
何なら二回でもと言われたのを頼み込んで三回にしてもらったの。
「雫、期間は五日だ。これで感触が掴めぬようなら、
回数を減らす。二回までだ。良いな」
清志郎様に静かに言い渡されてしまえば、うなずくしかない。
最初の集中力が難しい。ストンと暗闇に慣れない感じと一緒。
探り探り気配を追うので、当然間に合わない……。
……そっか……、最初で暗闇に入っちゃえば良いんだ……。
二回目、目隠ししているのに目を閉じる。目を開いているから
目隠ししても視線で拾えるものに頼るのかもしれないと思ったの。
目を閉じた瞬間、意識をふっと上へ持ち上げる感じ……。
あ、こないだと一緒……!!!って喜んでちゃいけない。
その隙に、朔太郎様に良いように詰め寄られる……。
でも、……でも、これがヒントになるかも……。
そして三回目……。さっきの感覚を忘れないように、
早く早く……。今度は早すぎた……!!!
スッと上に吸い込まれる感覚が出てこない〜〜!!!
「これまで」
清志郎様から声がかかった。
目隠しを外して、朔太郎様に手をつきお礼を述べる。
「朔太郎様、ありがとうございました」
はぁ〜〜、できなかった……。一昨日はできたんだけどなぁ。
少し肩が落ちていたのだろう、実道様と仁様が慰めてくれた。
「雫、気持ち悪くないか?」
「……、あっ、忘れてました。今日は気持ち悪くありません」
「そうか、少し疲れるようだな。何、慣れれば具合悪くなることもないだろう」
「雫、二回目はなかなかに良かったと思いますよ。朔太郎様、いかがでしょう?」
「ええ、実道様のおっしゃる通り。雫様、策を変えましたね?」
「はい、ちょっと試したいことができて……。なかなか良い案だと思ったのですが、
安定していないので、もう少し練習してみます」
わいのわいのと話していると、清志郎様から人がいる所で必ず試すように
約束させられてしまった。確かに……、それはおっしゃる通り。
気をつけます。
この際だから、朔太郎様にもたくさん聞きたいことがある。
「朔太郎様、お伺いしたいことがあります。この後のご予定は、いかがですか?」
「ふふっ、雫様。私は雫様つきになっております。予定は雫様次第なのですよ?」
「でも……、他の任務もあると思いますし……」
「他の任務は、支障の出ないようにしてございます」
そう柔らかく商人のように話す朔太郎様に、私は教わる身なので
敬語は無しにして欲しい、名前も呼び捨てでと他の人と同じように頼んでみていた。
でも、私はお供の者という役目がございますから、雫様も慣れていただきたいと
あっさり断られていた。
「朔太郎様、気配を消すって意識して出来るものですか?」
「ええ、もちろんできます」
「どうやって?」
「無になるのです。その瞬間、スッと見えない場所で隠れるかのように
自我を無にするのです」
「……自我を無に……」
「ええ、もちろん得意不得意はありますが、出来るようになりますよ」
「……そうなんですね……」
無になる……。気配を感じる時も同じだ……。
私は自我を手放して、無になろうとしていたのかも……。
パッと清志郎様をみて、同じ質問をすることにしてみたの。
「清志郎様、俯瞰するって、どうやるんですか?」
清志郎様は、優しく微笑んでいた。よし、質問としては間違っていない!
「雫、俯瞰も無になるのだ。自我は必要ない」
気配を消すのも、俯瞰して気配を察知するのも、
同じく無になる……。
この辺にヒントがありそうだ……!!!
「ありがとうございました!!!」
私は、嬉しさを隠しきれずに御礼を張り切って述べたのだった。




