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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
四の巻
96/153

吟味

 夕餉をいただいた私は、たっぷりの白湯(さゆ)を飲んで

そのまま寝てしまった。久しぶりに疲れた……。


稽古を始めてから、順調に伸びてきたと思う、我ながらだけど……。

体力も基礎力も、あげる努力をしていた。だって、小手先に走ると

後々困るのは自分なんだもの。

疲れも出たのかな……。ようやく忙しかった自分を振り返ることが

できた気がするの。嵐に巻き込まれたと同じくらいに

忙しかった自覚がある。何だか不思議な感じ。

まだ夢の中のような気がするのに、手に触れるものは

きちんと感触があって、現実だと思い知らせてくれる。

こうして、この世界に馴染んでいくのかな……。


次に目覚めた時は、もう日は少し高く昇っていたの。

寝坊しちゃった。タイミングよく蒼に連れられた仁様が顔を出した。

……蒼? お前はどこまで先を読めるの……?


「おっ、起きたか。 蒼が医局に顔を出してな。

お前が起きたんだろうと来てみたんだ。女官も頼んでおいた。

時期にくるだろう」

仁様は、私を起こしてくれ脈をとる。顔色を見たりして、

ニヤッと笑った。うん、これ大丈夫なヤツだ。

「昨日は焦ったぞ。物凄いやつれようだったんだからな。

ま、寝ただけで回復するなら、それに越した事はない。

明日まではゆっくりしておけ。ああ、ダメだぞ。

もう清志郎様に許可も取ってある。ちょっと休みすぎるくらいが

お前にはちょうど良いんだ。分かったな?」

「は〜〜い」

お兄さんが居たら、こんな感じだろうか?

いや、それにしても過保護すぎる気がする……。

仁様に続いて、女官さんがお粥を持ってきてくれた。


「さあさあ、雫様。寝覚められてよろしゅうございました。

今日は、漬物もお味噌汁もついてございますよ」

そう言って、仁様の脇に御膳を置いてくれたの。

「ありがとうございます」

「ゆっくりお休みくださいね」

そう言って、お仕事場に戻って行った。


私は顔を洗って布団に戻ってきたときには、

華様と千隼様が来てくれていたのよ。


「華様、千隼様。おはようございます」

「雫姉様、もう起き上がって大丈夫なのですか?」

少し眉を潜めて心配してくださる華様も、とても可愛い。

答える私も笑みがこぼれてしまう。

「ええ、すみません。ご心配おかけして……」

「いいえ、お元気になられるのなら、それで充分です」


「さあ、床に入られてください。膳をお渡ししましょう」

千隼様も、かなりの過保護なの。実道様の影響を

存分に受けている気がする……。

私は、大人しく千隼様の言う通りにして御膳に手をつけた。

私が食べている間、3人は楽しそうに話し続けていたの。

私の頼んだ、ある調理道具について……。


「そうだった。華様、雫が頼んだものとは一体何ですか?

料理するときに使うと言ってましたが……」

仁様は、不思議そうに薬湯を作っている手を止めた。

……その薬湯、菊次郎様が持たせてくれたんですよね?

苦くないですよね?苦いなら、食前に飲みたいのですが……。

「雫、これは食後だ。少し苦いが疲労回復の薬湯だから諦めろ。

菊次郎からもそう言われているからな」

仁様は、華様に質問しているのに私にクギをさした。

……皆、なぜ私の考えていることが分かる……?

大人しくお粥を口に入れることにした。


「そうなんですよ、仁様。雫姉様からお話を聞いて時は

随分と驚きました。だって、とても不思議な道具なんですもの。

それにあまり使わない調理方法ですしね」

華様は、愛らしくクスクスと笑っていた。きっと私と仁様のやりとりが

面白いんだろう。華様に、喜んでもらえるなら良いですけどねっ。


「雫姉様、いかがかしら?

お話に聞いた道具と似ていれば良いのだけれども……」


そう言って、華様と千隼様の持ってきた風呂敷をサラッと解くと、

そこには大きな深底のフライパンと、家庭用サイズくらいの普通のフライパンが

出てきたの!!……やった!!! できたんだ……!!!


こちらに来て調理法を色々見たのだけど、唯一、焼き物、炒め物が

なかったの。なかったと言うか、フライパンではない焙烙(ほうろく)と言う

どちらかと言うとものを()る為の道具を代用しているみたいだった。

お肉を焼くくらいはできそうだけど、オムライスを作れるかと言われると

ちょっと自信がなかったのよ。そして焙烙にはフライパンのような()ってが

なかったの。これは不便になるだろうなぁと思って、道具があればなぁって思ったの。

他は煮込むのは土鍋を代用すれば良いし、何とかなると思ったのよね。

問題は材料だったの。鉄だから、高価なのよ。ただ、一回できてしまえば、

それこそ手入れすれば、何十年も使えるでしょ?幸い肉食もあるから

脂もふんだんに使えるのよね。


そんな話を華様にしたら、華様が何かの機会に

千隼様に話してくれたみたいだったの。

知り合いの鍛冶屋さんに話してくれたんだって。

私の事を話すわけにいかないから、屋敷の料理人と女官さんからの

アイディアだから試してみたいんだけどって言ってくれたみたい。

私が絵と注釈を書いて、材料費も私が出す事を了承してくれるならって

二人を説得して、頼んでもらったのよ。


ポイントは、女性でも持てる重さ、出来る限り鉄を薄くする事。

ここは職人さんにお任せするしかないから、失敗したら、また今度だなぁって思ってた。


でも……、実物を見せてもらうと、限りなく注文に近い!!!

ああ、お値段はしょうがない。めちゃくちゃ高級品になっちゃった。

お金を使うところもないし、ま、いっか。


「ありがとうございます!! これで充分出来ると思いますよ。

一回で、思った通りの道具になるなんて……!!!すごい……」

そう喜んだ私に、華様はホッとしたようだった。

「良かった……!!!雫姉様は、稽古以外に時間をとるのが難しいでしょう?

非番のときに、息抜きができれば良いのにって思っていたの」


……天使か……!!!千隼様、あなたの妹さん、めちゃくちゃモテると思います!!


「華様、千隼様。ありがとうございます。何を作ろうかな……?

楽しみができました。ぜひ味見してくださいね」

フライパンを手に、これがツヤが出てくるまで料理してみよう……。


私の頭の中は、フライパンで出来る料理のレシピで

埋め尽くされていくのだった。


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