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勇隼様の執務室を辞した私達は、早速橙矢様の執務室に向かった。
とは言っても、同じ棟のいくつか連なる別の部屋。
朔太郎様が声をかけると、すぐに橙矢様から入ってくださいと返事が聞こえた。
橙矢様は、私をみるとニヤリとした。
「橙矢様、その笑い方、やめてください。……怖い……」
「お前、会うなり苦情か? まあ、それだけ憎まれ口を叩けるなら
結構な事だ。そこへ座れ。清志郎様も朔太郎様も、そちらへどうぞ」
橙矢様が敬語で話すのは、とても新鮮だ。
橙矢様の上官は、屋敷の中で限られているんだもの。
それに、いつもは一対一で授業を受けているので、コテンパンなの。
「さて、雫の市中での警らの話ですね?」
おお、相変わらず直球な橙矢様。その通りです。
橙矢様は、私と朔太郎様の顔を見比べると顎に手をやり考え出した。
「問題は場所が街中と言う所ですね。
……雫、お前は若殿というていで歩け。朔太郎様はそのお供という所で
いかがでしょう?反対の立場も考えたのですが、どうにもその後の活動に
支障が出る気がするのです」
そう言った橙矢様に、私は目を見張った。え?聞き間違いじゃないよね?
だって若殿?! くらいが高すぎる気が……。
そんな私の戸惑いを見透かしたかのように橙矢様は畳み掛けた。
「良いか、雫。お前はその内、人前で影と対峙しなくてはならなくなるだろう。
その時、お館様の客人、大切な預かり人の若殿という事であれば
民は、なるほどと思うであろう。民から疑念を受けぬことも重要だ。
さすれば、お前の立場もはっきりし、活動に支障もなくなる。
実道が帰還すれば、朔太郎様は本来のお役目に戻れる。
なに、心配はいらぬ。朔太郎様は、変装がお手の物だからな」
橙矢様の案は完璧だと思う。思うよ……!!!
でも、う〜〜ん、私の目立ちたくないという意図は入っていない……。
「橙矢様、それでは私が目立ちすぎると思うん……です……けど……」
途中から橙矢様も眼力に押されながらも、かろうじて言いたいことは言い切った!!!
頑張ったよ、私!!!
「雫、もう隠せる時期はすぎたと思うが、お前はそうは思わぬのか……?」
……ええ〜〜??? もう隠せなくなっちゃったの?!
「早く、諦めろ。市中でも少し噂に上っているのだ。
実道と千隼に連れられて目立ちたくないとは、良い度胸だ」
あっ……、そうか、そもそも千隼様が有名人だ。当然、実道様も……。
みんな、私はお供1号だと思ってくれなかったんだろうか……?
「あれだけ千隼と実道に優遇されて、お前、まさか自分は目立たないとでも……?」
橙矢様!!! 怖い怖い……。……そうですよ、そう思ってました!!!
のんびり間抜けな弟子で申し訳ありませんね!!!
橙矢様は、スゥッと目を細めて私を見ている。……マズイ、本当に怖い……。
ちなみに、私は、この時、まだ一言も話していない。
「橙矢、その策でいきましょう」
助かった……!!!朔太郎様の柔らかい声色が、天の助けみたい……!!!
橙矢様は朔太郎様に柔らかく視線を送ると、また私を見た。
……橙矢様、見なくて良いですよ……?
「朔太郎様、申し訳ありませんが雫の事を
どうぞよろしくお願いいたしまする」
そう言って橙矢様は、朔太郎様に頭を下げてくれたの。
驚いちゃった!!橙矢様、魔王って言ってごめんね?
「橙矢様、感情が表情に出ない方法を教えてください……」
観念して私が頼むと、魔王は速攻で却下した。
「無理だ。しばらく思案したが、お前にその策はむいておらぬ。
代わりに、そのままのお前が、そこを逆手に取る方法を教えよう。
それで良いな?」
「はい……!!!」
間髪入れずに返事をした私に、清志郎様が苦笑いしていた……。
ダメだ、やっぱり魔王から、能面になる方法を教わろう……。




