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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
三の巻 外伝
87/153

試行

 勇隼のもとに、伊吹達一行は、何と三日で帰還した。

雫の脚力が、想定以上についていた事もあったが、

話がまとまるのが即断とも言うべき速さだったのだ。


帰還の報告に来た伊吹と橙矢に、勇隼は苦笑していた。

「ご苦労であった。良いことではあるが、随分と早かったな」

「お館様、ただいま戻りました」

二人は黙礼した後、いつになく高揚している伊吹が、蕩々と話し出した。


「お館様、無事に鍛冶職人橙子様に、私の祈りを合わせる了承をいただきました。

今回は、蒼が間に入ってくれましたので、何事も速やかに進みましてございます」

「蒼は、やはり一枚噛むつもりで付いて行ったのだな」

「そのようでございます。雫様の役に立ちたかったのでしょう。

随分と橙子様との時間を、わざわざ持ちに行っていたように見えました」

「ほぉ、橙子殿とな……」

「はい。橙子殿は、自然体で蒼を受け入れておられました。

それも今回、話が早くまとまったことに繋がるかと……」


嬉しそうな伊吹をよそに、橙矢は淡々と報告を始めていた。

「橙子様は、何ヶ月も前から夢に見ていたそうで、

先ぶれの手紙にもさして驚かず、(とき)が来たやもしれませんと

いたって冷静な御様子でした」

「……そうか、橙子殿は夢を見ていたと?」

「左様でございます。雫がこちらに来る前からの様子。

この夢見が正しければ、

いずれ(ふみ)か、勇隼様からお呼びがかかるであろうと思っておられたようです」

「そうか……」

幼い頃から自分の一歩も二歩も先をゆく橙子を思い浮かべ、

勇隼は懐かしい感情と共に頬が緩んだ。


「伊吹、それでは、どういう算段になる?」

「文官と警護のものが必要です。私の補佐は祈りの民から……」

「文官……、小春ではまだ早いな……。少し考えさせてくれ。

明朝には決定する。警護は……、雫をこちらに残したい。

清志郎に、別の部隊を組織させる。実道に入ってもらおう。

と、なると雫の身辺が……。千隼では心許ないな……。

清志郎に張り付かせるか。たまには良かろう。補佐に千隼をつけよう」


勇隼の段取りに、橙矢は冷静に切り込んでいく。

「お館様、それはよろしゅうございますが、市中の見回りの時は

いかがいたしますか?さすがに清志郎様がついて回るわけには……」

「うむ、そうだな……。さて、……雫は見張ってないとすぐに案を試しそうだし……、

皆も見そこねるのは本意ではあるまい?……そうだ、朔太郎(さくたろう)はどうだ?

幸い、雫は朔太郎の正体に気がついておらぬし……。最初のうちは、

朔太郎に商家を案内してもらう代わりに、護衛ということでどうだ?」


おもしろそうに話す勇隼に、橙矢は変わらず能面のような表情で答えた。

「それはよろしゅうございますが……、いっそ朔太郎のことを雫に話したほうが

よっぽど雫のためになると……。雫が後から受ける衝撃も気になりまする……」

「……そうよな……、雫は繊細だからな、思案のしどころだな……」

「実道の話だと、雫は朔太郎の気配は感じ取ったようです。ただ、

……そう、以前にお館様が危惧された通り、平穏世界で暮らしていたからでしょう。

怪しいと思っても、自分の気の迷いかと流してしまうようです。

これが実道であれば、どんなことがあっても忘れません。きっと突き止めるでしょう。

実道は、例の過保護を発して清志郎様に相談したようです」

「清志郎は、何と答えたと?」

「それも雫の実力、放っておくようにと実道を諭されたようです」

「そうか、……お前も、清志郎も難儀よの。雫を大切と思うあまり

損な役回りをさせて、すまんな」

「いえ、お館様。私の場合、これは生まれ持った性分でしょう。

お気遣いくださいまして、痛み入ります」

謙遜する橙矢に、勇隼は労わるように微笑んだ。


「分かった、雫には朔太郎のことを話して良しとする。

方法はお前と清志郎に任せる。伊吹、祈りの民の人選はお前に任せる。

これで良いか?」


「御意にござります」


伊吹も橙矢も、いつものように静かに頭を下げたのだった。

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