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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
三の巻 外伝
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平時

 つい何年か前に参謀長になった橙矢の(かたわら)には、

必ず右腕と呼ばれる弥彦(やひこ)の姿があった。


彼は橙矢が参謀長となると、すぐさま副長に抜擢されていた。

何を考えているか分からぬと恐れられる上司と比較して

弥彦は、誰からでも声をかけられる。

月夜に映える銀色の髪は長く、仕事中は一つに束ねられている。

その髪とお揃いになるかのような、灰色の瞳は柔らかさを作り出していた。


大祭が無事に済んでも、橙矢の部署のやることは変わらない。

大祭の後片付けが増えるだけだ。大祭だからといって、

他の仕事を後回しにするわけにはいかないのだ。


橙矢に読んでもらう書面を机に積み、自分は自分の書面に向かおうとした時だった。

「橙矢様、雫様から授業をどうしたら良いかとお尋ねがありました」

部下の一人が、橙矢に伝言を伝えていた。

橙矢は、弥彦しか気づかないくらい微妙に表情を変えた。

橙矢は、雫への授業を面白がっているのだ。

「いつも通り、授業は行うと伝えてやってくれ」

「かしこまりました」

部下が部屋を下がっていくと、橙矢はふっと笑ったのだ……!!


弥彦は、至宝様、雫様に橙矢が授業をする事になった時から、

橙矢が、どんどん表情を崩すことが増えていくことを目の当たりしていた。


能面のようなこの上司を笑わせるとは……。

弥彦が感歎するのも無理はなかった。弥彦ですら、

年に数えるほどしか見たことがなかったのだから。

雫様の事となると、橙矢は饒舌にもなる。


「弥彦、近々遠征に出る。仕事は指示しておくから、

お前が見てやってくれ」

「かしこまりました。事前に目を通しておきます」

橙矢は、表情がないだけで部下を気遣う優しい上司だ。

まあ、事が起これば当然のように、部下が能力を全開にするのが当たり前になるが……。


「雫がな、面白い案を出しおった」

「雫様がですか?」

「ああ、隼と違う能力の刀を産み出せないのかというのだ。

まあ、お札を大盤振る舞いにするわけにはいかんからな。

なら、他の物をというのだ」

「他のもの……」

「弥彦、お前なら、どういった物を思いつく?」

「影を鎮める道具ですか……?!……さて、お札以外となると……。

……ああ、……でも……」

言い淀む弥彦に、橙矢は構わないから話せという。

「弥彦、雫が言い出したのだ。突拍子もない案の方があっているやもしれぬ。

構わぬから言ってみろ」

「はい。……では……鎮めるという使い方はできぬかもしれませんが、

確か今回は、伊吹様のお札が医局を守っていたと聞いております。

確かに一年中、お札を貼っておくわけにはまいりません。

茶道で使う、竹の結界は代用できないでしょうか?

まあ竹でなくとも良いのかもしれませんが……」

弥彦が自問自答しながら話していると、橙矢は目を見開いて自分を見ていた。

「申し訳ありません、いくら何でも荒唐無稽な話になってしまいますね」

弥彦は、物語のような話しをし過ぎたかと、慌てて頭をあげた。


「いや、良い。存外、良い案で驚いただけだ。

こちらが詫びねばならんな。お前の力を試して悪かった」

「いえ、とんでもござりませぬ。このような案でお役に立てるかどうか……」

弥彦が謙遜していると、さらに驚く事に橙矢はクスクスと笑い出したのだ……!!!


「いや、そうでもないぞ?雫は、聖なる水や聖なる葉や植物はないのかと

私に聞き返しておったからな」

「聖なる水……?」

「元の世界には、信じている者だけが行うようだが、

酒や塩で、清めるという習慣があったようだ」

「なるほど……。それでは、色々な候補が上がって

かたっぱしから試さねばなりませんね」

「そうだな。まあ、祈りの民にやってもらおう。

今年の大祭は終わったが、例年通りではないと御伝達があったばかりだ。

まあ、皆が働きどきなのだろう。伊吹は、四六時中仕事をしておるし、

……あいつは仕事が日常だからな。部下もやらねばなるまい?」


橙矢がニヤリと笑ったのを見て、弥彦は橙矢と雫の会話を思い出した。


「もう、橙矢様!! その口を片端だけ上げて笑うの、怖いからやめてください。

だから、みんなに何か企んでいるんだろうって誤解されるんですよ?!」

「別に構わん。お前も、おかしなところを気にするな? 俺が誤解されても

お前は何も影響がないだろう?」

「影響がなくても、イヤなんです!!橙矢様は、意外と真面目だし、

部下思いだし、ちゃんと仕事ができたら褒めていらっしゃるじゃないですか。

本人が気が付かない方法だけど……。だから、もう少し橙矢様の良さが

伝わった方が、皆が嬉しくなるんですよ?」

「ほお、お前から見て意外と真面目なのか。よく見ているな」

「もう、ごまかさないでください!!清志郎様も言ってました。

皆に分からない方法でいいから、そろそろ味方で周りを固めた方が良いって。

()()()、です!!!」

橙矢様にムキになってモノを言えるのは、雫様だけなのに……。

弥彦は思わず笑ってしまったのだ。


「弥彦様、弥彦様からも言ってください〜〜。橙矢様ってば、

絶対に面白がって本気にしないんですよ?!」

腕を組んでプンプン怒る雫は、本当に愛らしかった。

「雫様、橙矢様の事をご心配いただいて痛み入ります。

私が、橙矢様のお側におります。ですから、何があっても

橙矢様がお独りきりでご苦労なさらないようにいたします」

弥彦がそういうと、雫様は少しホッとしたような顔になった。


「橙矢様!! 弥彦様を大切になさってくださいね?!」


自分が、あの橙矢に1番特別扱いされていると自覚のない至宝様は、

そう言って、橙矢に釘をさしたのだった。

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