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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
三の巻
76/153

感慨

 一通り、小屋の様子や仕事の手順など説明したいただいたところで、

橙子様は、私たちの足元でチョコチョコとついてまわる蒼に優しい眼差しをむけていた。


「雫様の小鬼ですか?」

「はい、そうです。蒼と言います。すみません、今朝の出立の際に

急に着いてくることになったので、お断りも入れずに連れてきてしましました。

申し訳ありませんでした」

「まあまあ、頭など下げないでください。小鬼は吉兆の(しるし)

私どもも、お会いできて嬉しいですよ。お気になさいますな」

「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」


橙子様はそう言うと、私の足の後ろから、顔だけ出している蒼に

目線を合わせようと膝を床につけた。

「蒼殿、よくぞ参られた。雫殿を守っているのですね?

納得いくまで眺められるとよろしい。貴方が信じることができれば、

この場が整ったことになる。明朝を楽しみに待っていることにしましょう」


そう優しく問いかけられた蒼は、鳴きもぜずにジッと橙子様を見ていた。

「すみません、橙子様。いつもはもっとニコニコしているんですけど……」

「いえ、雫様。彼も役割があるのでしょう。自在に振舞うのが良いでしょう。

お気になさらずに……。さあ、そろそろ夕餉のおもてなしができた頃です。

どうぞこちらへ……」


客間のような広間に、美味しそうな御膳がずらっと並べられていた。

上座には橙子様、伊吹様。右一列には私達

左一列に、鍛冶職人の皆様。

う〜〜ん、壮観!!


「では、出立の前夜に」

橙子様は、何やら意味ありげな文言で杯をスッと上に挙げる。

「出立の前夜に……」

皆が橙子様の言葉を繰り返して、杯を少し挙げ飲み干した。

私も慌てて、同じように飲み干したのよ。

……あ、美味しい……。


それは日本酒で、辛口のキリッとした飲み口だった。

こちらに来てから、お酒を飲む機会は少しあったけど、

翌日の稽古を考えると、気楽に飲む気分にはなれず、

いつもほろ酔い気分のところで、お水に変えていた。

そんな私に、清志郎様が

「雫、たまにはハメを外して良いんだぞ」

と、優しく笑ってくれるんだけど……。いや、ここで甘えては

翌日の稽古が……。想像するだけで頭痛がしそうで、やめておいたのよ。

だから、美味しいと思っても、どこかブレーキをかける自分がいたの。

味わうのも良いものだな……。素直にそう思ったの。


「雫様、お気に召していただけたましたか?」

「はい、もちろんです。とても凛々しいお酒に感じました。

美味しいです」

感動した私に、伊吹様はニコニコしている。

「雫様は、お料理がお好きなのです。お酒もお好きですが

飲みすぎないところが、素晴らしいところで……」


……伊吹様、絶賛されると照れちゃうから……。

真っ赤になっているであろう頬をサッと押さえ、下を向いてしまう。

「あ、あのっ……、伊吹様は、どんなことでも褒めてくださるので……」


「雫様、良いことです。どうぞ楽しんで召し上がってください」

「はい……」


もう、恥ずかしくなっちゃうよ……。

褒められるのに慣れていない私は、やっぱりオロオロするのだった。

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