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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
二の巻 外伝
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回帰

 勇隼は、いつもと変わらぬ表情で、屋敷の社に控えていた。

毎年、つつがなく伊吹のお告げの伝達を受け、祝詞を捧げて

大祭の最後を飾る。それが國主になってからの勇隼の仕事だった。


もう知っている。今年は、異変が起こるやもしれぬ。

影向(やうがう)様が、民に事が起きると知らせるかどうか。

その一点にかかっているのが、今年の大祭なのだ。

この日は、勇隼も年に一度の礼装となる。

この國の正装、烏帽子(えぼし)を頭につけ、

直垂(ひたたれ)と呼ばれる着物を身に着ける。

國主は、古代紫と呼ばれる少しくすんだ紫を身に着ける。

これは國主にしか許されていない色だ。

祈りの民は、とても濃い紫を身に付けるので、

同じ紫と呼ばれていても、全く違う色に見えるのだ。


社の壁は全て雨戸の様になっており、この時ばかりは全てしまわれる。

だから社は、まるで舞台の様になるのだ。


お札に囲まれた伊吹が立ち上がると

勇隼も、その重鎮達も、社の外に詰めかけた民も、

皆が頭を下げた。

いよいよ、お告げの伝達が始まるのだ。


伊吹は、柔らかいがよく通る声で、いつもの様に伝達を始めた。


「影向様は、民の努力を喜んでおられました」

その一言に、ワッと歓声が上がる。


その歓声が治り、また静けさが戻ると

伊吹は、静かに異変を告げた。


「闇にのまれぬように。日々、目の前にある幸せに感謝するように。

心の中の影の語りかけがあったとしても、その反対には光がある。

そのことを忘れぬように。一人ひとりの心がけが、

光に近づく最善の方法と心えよ」


その伊吹の透き通った声に、勇隼は頭を下げながら目を閉じた。

影向様は、民に真実を告げることを選ばれた……。


ものすごく長い時間の沈黙の後、民の間からサワサワと

言葉が漏れ聞こえてくる。

驚き、恐怖、困惑……。


勇隼は立ち上がった。いつもと違う言葉で、民を勇気付けなければならない。

それが今年の國主としての勇隼の役割だ。


勇隼は、スッと頭を上げ伝達を終えた伊吹にねぎらいの声をかけた。

「祈りの民よ。本年も、お告げの伝達、誠にご苦労であった」

そう大きな声で労うと、スッと立ち上がりクルッと民のほうに振り返った。


「皆、いつも影向様に労っていただけるほどの努力、

この勇隼からも礼を言う。皆の力があってこその國なのだ。

本当に感謝してる」

そう言って頭を下げる勇隼に、民の瞳に力が宿り出した。


「本年のお告げの伝達は異例のものとなった。

しかし、恐るな。その恐れが、つけいられる事となる。

皆が、それぞれの家に帰ったら、大切な人に伝えてくれ。

闇にのまれぬように。日々、目の前にある幸せに感謝するように。

心の中の影の語りかけがあったとしても、その反対には光がある。

そのことを忘れぬように。一人ひとりの心がけが、

光に近づく最善の方法と心えよ、これを一言一句、間違えずに伝えて欲しい。

そして、日々の幸せを見つけることに尽力して欲しい。

私は信じている。翼賛(よくさん)の國の民の力強さを。

皆の力が必要だ。頼まれてくれるな?」


勇隼の力強い言葉の後、ドッと歓声が大きなうねりとなって起こった。

勇隼は微笑んだ。大丈夫だ、この民と踏ん張ろう。

勇隼は、力強く頷いたのだった。





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