表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
二の巻 外伝
66/153

迷信

 菊次郎は、恒例の薬草取りに山のふもとまで来ていた。

薬草取りは交代制で行われており、安全のため剣士の護衛もつく。

襲われることなど滅多にないが、野生のイノシシと出くわすこともある。

用心するに越したことはない。それが勇隼の方針だった。


菊次郎は、雫の案が頭から離れなかった。

聖なる葉……。そんなものがあったら、どんなに良いだろう。

御神木は切ってはいけないし、その代わりの効力を持つ植物……。


菊次郎は、薬師きっての知識の持ち主だった。

実家は商家で、幼い頃から他国の薬を目にすることも多かった。

別に薬だけを扱っていたわけではないのに、菊次郎は自然と

植物に興味の矛先が向かっていった。


薬を扱うからには、父も兄たちも用心深かった。

仕入れた薬で、事故があっては困るのだ。

長兄が医師になったので、いつでも確認したり意見をもらっていた。

今は、腕を見込まれて地方に派遣されている。

次兄は、見事に父の特徴を受け継ぎ、商売に余念がない。

末っ子の自分は、薬師になりたいと言うと、

父は大様にうなずき、にっこりと笑っていた。

「菊次郎、お前の好きな道ができて良かったね。

兄たちと一緒、自分で選んだ道なのだから精進すると良いよ」

そう言って、屋敷の学問所に送り出してくれた。


しばらく修練して、晴れて薬師となった菊次郎は、

医師との関わりも随分と増えていった。

要は、知識の塊の様な菊次郎を医師たちが頼りにしたのだ。

仁は、そんな菊次郎を見て嬉しそうだった。


都にも、薬草畑がある。屋敷内にも、研究名目の薬草畑があった。

でも自然に自生している薬草の力強さを、侮ってはいけない。

菊次郎は、そう思っていたのだ。


皆が自分を褒めてくれる。でも……、

菊次郎からすれば、自然はまだまだ分からない事だらけだった。


そんな菊次郎に投げかけられた、雫の一言。

そんな効力を持つ植物があるなどと、想像したことすらなかった。

菊次郎は、考え抜いた。色々な書物を読み返して、珍しく部屋に本をちりばめたほどだ。

菊次郎は、普段から散らかす方ではない。薬師らしく、物は分類し

整然としておくのが常なのだ。


「……おっとっ……、どうした、菊次郎……?」

皆が休憩する部屋に入ってきた仁は、いつになく散らかった

菊次郎の周りに驚いていた。

菊次郎の話を聞くと、仁は苦笑いしながら

菊次郎の周りに散らばった本をかき集め、机に置いてやっていた。


「なあ、菊次郎。お前、堅く考えすぎなのかもしれないぞ?」

「……堅く……?」

「ああ、そうだ。まあ、これは俺の勘でしかないんだけどな……」

仁にしては、珍しくはっきりとしないもの言いだった。

「雫が来たっってことは、大事が起きるってことだ。

しかも、今のところ雫しか見えてねぇときてる。

……いっその事、まじないの様な方法を試すのも手じゃないのか?」

「……民に、縁起担ぎとして使われている方法と言うことですか?」

「ああ、何と言うか……。今までの考えは無かったことにする方が

近道だと思うんだ。お前、こんだけ書物を読みあさって、

雫の言ってた聖なる葉とやらは、思いついたのか?」

「いいえ、そんな葉があれば、とっくに使っていると思います」

「だろ?」

菊次郎の答えに、仁はニカッと笑った。

「ほら、イワシの頭も信心からって言うだろう?行き詰まったら

何でも試すのが良いんじゃねぇのか?」

仁は、豪快に笑って仕事に戻っていった。


そう言われて、菊次郎はハタと思いついた。

あれがあるはずだ。まずはあれを試して……。


麓から少し山に足を踏み入れて、それは簡単に見つかった。


オニヒイラギ……。

民間の縁起担ぎの様な物で、庭に植えられることもある、

普通の植物だ。植えると葉が濃い緑で生い茂るのが特徴で

尖っている葉は、厄除に1番良いと思われている。


菊次郎は、その大木の脇にある小さな苗を掘り起こした。

大木に手を合わせ、この小さな苗を都に移すことに許しを乞う。


お前の小さな子孫を、預からせておくれ。

私が責任を持って、立派に育てる。


この小さな苗が、雫の言った苗ではないとしても

菊次郎は、その責任を果たそうと決心していたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ