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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
二の巻 外伝
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疑念

 小春は自分の研究の合間をぬって、

雫のために過去の文献を調べていた。

小春は本来、歴史的なことに興味がない。

それよりも、目の前の物についての疑問がたくさんあったのだ。


あの花は、なぜ色違いがあるのだろう?

あの木は、なぜ冬になっても葉が散らないのだろう?

反対に、なぜ何もないように見える木から、新しい芽が出るのだろう?

場所によって土の色が違うのは何であろう?

石は、どこから運ばれてくるのだろう?


小さな頃から、質問の塊だった自分を

うるさがる事もなく教えてくれる人がいる学問所に行きたい。

それが、幼い小春の願いだったのだ。


その願いが叶い、街の学問所からお屋敷の学問所で学士の道を見つけた。

小春は、なんてことはないと思っていた試験だが、当然のごとく難しい試験だ。

「あれを簡単って言うようじゃ、お前には学士が似合っていたんだろうよ」

そう言って笑った仁に、

「医師の方が、よっぽど大変です。私のは勉学していたらできますから」

そう真面目に言い返した小春に、仁は更に笑っていた。


小春は菊次郎と話が合う。お互いに植物という分野に関わることが多いからか、

自分にはない発想を聴けることが楽しかった。

菊次郎は、薬師という仕事柄、昆虫や食物、動物の内臓まで

幅広い知識を持っていた。


そんな小春が、歴史学の学士に頼み、

隼の文献、……もはや伝説のような扱いになっている絵巻に

取り組みだしたのだ。

いつの時代に書き残されたのかは、絵の顔料を調べれば

大体のことは分かる。文字も絵物語のように書かれていた。

解読はさして難しいことはない。もう何人もの人が

研究に研究を重ねたから、目新しいところを探す方が難しいのだ。

それでも小春は、自分の目でもう一度文献を確かめたかった。

美しい絵巻、服装も今とは違い、羽衣の様な布を腕にかけ

話を聞いている女性。男性は髪が長いことが普通だったのだろう。

皆が束ねている様子だった。

まるで、おとぎ話の様な絵巻……。ある祈りの民の祖先と、

刀鍛冶が得意な鍛冶屋が、2人同時に夢を見る。

お告げを聞いて、半信半疑、山の中の作業場に行くと……。

これは本物のお告げだと、鍛冶屋は魂を込めて隼を打ち、

祈りの民の祖先も魂を込めて祈りを捧げる。

そうして、1週間。隼は誕生するのだ。


ここで、ふと小春は首を傾げた。

隼が誕生した経緯は分かった。でも、隼はこの後

初めての主人を選んだはずだ。その文献は……?


疑問に思った小春は、関わりのありそうな学士に

かたっぱしから話を聞いた。でも、誰も知らないという。


……おかしい……。隼が大切なのは分かる。

でも最初の國主の文献がない國……?

そんなことがありえるだろうか?


衝撃のまま、橙矢の執務室に雪崩れ込んでいた。

橙矢は、静かに小春の衝撃を受け止め、

この男にしては珍しくごまかし茶化しもせずに答えた。


「小春、お前が見つけたものが全てだ。

治政はな、黒と白では分けられぬ。それが正しいかどうかは

後の世が判断するであろう。小春、我らの祖先が、そう判断したのだ」


小春は、その橙矢の言葉に、何かもつれた糸を感じていた。

正しいも正しくないも、もはや誰にも分からない。

その何かが起こった。それが事実で史実なのだ。


そして隼は、民が幸せだと思う国を創ることを選んだ。

それが真実なのだろう。


でも小春は、その説明にしっくりと納得できなかった。

だって、雫は? ……いくら民のためとはいえ、1人の女性の人生が

ある日突然に変えられても、それは許されるのだろうか?

もし自分が雫の立場だったら……?

影向(やうがう)様が、お告げを出すのだ。間違いはないだろう。

……影向様の説明に納得のできないものがいたら?


雫と話した会話が、小春の中に木霊した。

他国に至宝様は、いなかったのか……?


橙矢と話した小春は、更に大きな葛藤を抱えることになるのだった。

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