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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
二の巻 外伝
63/153

覚悟

 仁は、いつものように実道と菊次郎、千隼を伴って

小料理屋にいた。


伊吹は大祭の前で、身を清めていないといけないので、

今日は参加できていない。菊次郎は、さすがに疲れていた。


「それにしても千隼、よくお館様が外出を許されたな」

ようやっと千隼を呼び捨てにすることに慣れた仁は、

手酌でグイッとやりながら驚いていた。


「仁様、私の粘り勝ちでございます。父上はともかく、

母上が難関でしたので……」

そう言いながらニコニコと千隼は、小鉢に手を伸ばした。

「確かに奥方様は、ご心配であろう。大切に育ててこられたゆえ……」

小さな頃の千隼に思い馳せながら、仁は思わず頬をゆるめた。


千隼は無口で、大人しい子供だった。親の言うことをよく聞き、

好奇心も旺盛で、まさしく國主の息子にふさわしい利発さだった。

たまに研究心旺盛なのが熱心のあまり、子供らしい一面も覗かせていた。

人の手は、どこまで冷たくなるのだろう?そう思った千隼は、

たらいいっぱいに雪を積めて、その中に手を入れていたのだ。

皆が気がついた時は、千隼の手は真っ赤になっており

凍傷の一歩手前だった。

桔梗は、千隼を涙を流しながら叱りつけ抱きしめた。

後にも先にも、あの時が1番怒られた経験だろう。


勇隼は、とても厳しい顔をして千隼に凍傷が

いかに恐ろしい事かを教え、試したい時は必ず大人に聞くように

約束させたのだ。

でもその後、仁は、千隼の両親がホッと胸を撫で下ろしたことを知っている。

大事にならんで良かった。そう言って勇隼は、大きく息を吐き出したのだ。


「母上は心配症なのです。でも仁様達と一緒だと話しましたので……」

千隼は、そう言って苦笑いした。

「そうだな。桔梗様も、お前が出かけることを少しずつ受け入れてくださるだろう」

「はい、仁様。華も私と同じようにしたいと言っていました」

「華様も?」

「はい、やりたいことが決まったようです。いずれ父上に話すのではと思うのですが……」

「そうか……、華様もか。……千隼、楽しみだな」

仁は、彼らしい明るい表情になった。


「ところで実道様、例のが始まったと伺ったのですが……」

千隼は小鉢の青菜の胡麻和えを口にしながら尋ねた。

実道は、千隼まで知っていたのかと口をへの字にしたが

律儀に答えていった。


「ええ、……千隼まで知っているのですね……。

そうなのです、ザワザワとするのですよ……」

実道の《勘》については、年長者達にしか知られていないはずだった。


まあ、別に知られたからと言って、どうという事もない。

何となく変わったことがあるかもしれないと知らせるに過ぎないのだから……。


「大祭もありますし、落ち着かないことでしょう?

眠れているのですか?」

千隼に気遣われた実道は、もっとしかめっ面になった。

「千隼、敬語はやめて下さい。私のは元々の口調です。

幼なじみなのだから、それくらいは良いでしょう?」

「……うん、分かったよ……。実道に普通に振舞うのが

楽しかったのに……」

「そんなに、しょんぼりしても譲りませんよ。

私には、あなたが年下だという気持ちがありません。

だから、気にしないでください」

「分かったよ、実道だけは諦めることにするよ。

それで?そのザワザワは、治りそうなのかい?」

「……今回は、長いのです……」

「長い?」

「ええ、……期間が長いのです……。

私の場合、祈りの民のような力がありませんから

長くて2週間ほどです。でも、実はもうひと月前からあったので……」


「それは長いですね、実道様」

菊次郎も気遣わしげに眉を潜めた。

「ええ、……こんなに長いのは初めてです……。

あの、ハズレたら、……ハズレたら後で笑い話にして下さい」


実道は、そう言うと真面目な顔をして箸をおいた。

そして居住まいを正すと、まるで稽古の時のように真っ直ぐに言ったのだ。


「大祭で、影が現れます。たぶん、……たぶん間違いありません。

それが何日めの何刻なのか、それは分かりません。

でも、雫の前に必ず現れます」


息が真っ直ぐに通るかのような実道の話に、

仁は思っていた。

……そうだな、来るだろう……。


「実道、分かった。俺たちも心に留め置こう。

あとは心配するな、どうにかなるさ。雫がいるんだぞ?大丈夫だ」


仁は笑っていたが、誰もが仁は真剣だと言うことが

その瞳の強さから分かったのだった。





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