算段
勇隼は、雫の示した案に思いを巡らせていた。
雫に案が浮かんだと報告を受け、皆を集めることにした。
橙矢の質問に、雫は持っていた疑問を吐露したのだ。
「橙矢様、できるできないではなく、とても不思議だったんです。
伊吹様から聞いたお話と合わせて考えると、
私以外にも、影と対峙できる人が必要です。
お札を使わないなら、他の策が必要ですよね?
私は、影の居る空間を切ります。
だから、同じく剣士の技が必要なのかな?と思ったんです。
でも、そうでないなら他の方法を考えなければなりません」
さらに案を求める雫に驚いたように、橙矢は質問を返した。
「他の策?」
「はい。要は、影が見えた人が、浄化できればいいですよね?
吹き矢を吹くとか、槍で突くとか、呪文を唱えるとか、薬草を投げつけるとか?
他には……、何か策はありませんか?」
思いがけず、今度はこちらが問われる立場になった。
清志郎がいくつか質問をしていたが、それは後で考えれば良いのでは?
そう言う意見で、ともかくも前へ進んでみることにする。
清志郎は、考え込んでいたことを口にした。
「なるほど。それが手順のようだ。それから……、
薬草を投げるとは……、面白い案だな」
「すみません、他に思い付かなかったので……。
薬草でなくとも良いんです。聖なる木の葉とか、聖なる水とかありませんかね?」
そういうと、伊吹が笑い出した。
「聖なる木の葉……。なるほど、祈りの民でも代用が効く植物があるか
いくつか候補をあげましょう。お札が最強だと思っておりましたので、
そこは考えつきませなんだ。さすが雫様でございます」
伊吹は、満面の笑みで雫を絶賛し出した。
盲目的な信頼に、案の定、雫は照れ出した。
まったく、……雫はいつでも控えめだ。
勇隼が、目を細めていると清志郎から提案が出ていた。
「武器となると、候補は山のようにあるな……。お館様、
……まずは鍛冶屋が作れるものに絞ってみるのも良いかと思います」
しばらく思案したが、雫が言い出したのだ。
何か想定している出来事や、思い当たることがあるのだろう。
「雫、面白い案であった。我らには思い付かなかった。
さすが雫だな。またお前の周りが右往左往するだろう」
勇隼は、そう言って笑った。
「はあ……、すみません……」
雫は、何を思ったのか頬をポリポリと人差し指でかきながら、
すまなそうに謝っていた。
「いやいや、お前の案は皆を活気づけると言っているのだ。
聖なる水とは、どんなものだと思うのだ?」
「元の世界では、……これは、その効果があると信じている人だけが
行うんですけど、身や場を清めるときに、お塩やお酒を使うんです。
だから、こっちの世界にも同じようなものがあるのかなって思って……」
「なるほどな……。そういう訳であったか。
伊吹、少し候補を広げて考えてみよ。これは
祈りの民が適任であろう。鍛冶屋は清志郎と実道で補佐してやると良い。
橙矢、文献の改を急ぐように。何か示唆するものがないか確認するのだ」
「御意に……」
勇隼様の決断に、皆が頭を下げる。
とにかく大祭前で忙しい、無理なく準備を進めよと言うところで
留めおくことにしたのだ。
雫と実道、伊吹が部屋をさがっていくと、勇隼は顎に手を当て考え出した。
「お館様、何か気になることがおありでございましょうか?」
清志郎は、真っ直ぐに疑問を口にした。
「いや、なに。少しな……。……橙矢、探りは続けているのであろうな?」
「はい、お館様。ただ……」
「ただ? ただ何だと申す。良い、確証がなくとも話してみよ」
「はい……」
橙矢は黙礼すると、話し出した。
「実は、探れど探れど、何も出てきませぬ」
「何も?……目の付け所を変えんといかぬか?」
「いいえ、そう言う訳では。……お館様、国内から発している問題では
ないのではないかと思い出したのです」
その一言に、勇隼は片眉をあげた。国内でも大問題なのに、
それが他国が絡んでいるとなると、どうにも穏やかではない。
「実は小春が、ふと気になることを申しまして……」
「小春が?」
「はい、雫のために隼の文献や至宝様の文献を調べているらしいのですが、
あまりにも文献が少なくて、可笑しいと申しまして。
雫と、他国に至宝様は来なかったのかと言う話題になったと……」
「他国にも至宝様が……?」
思わず清志郎も呟いた。
「はい、確かに文献が少なすぎまする。
ただ、あえて書き残さなんだ可能性もあるますゆえ……」
2人の会話に勇隼は、目を瞑って考えていた。
そう、文献は少なすぎる。その通りだ。もっと熱狂的に迎えただろうに
その文献は民話のような少なさなのだ。
「……他国もあえて公表せなんだか……」
勇隼が考えを口にすると、橙矢は再び黙礼した。
「橙矢、他国の動きも会わせて探れ。
清志郎、どのみち動くの大祭後になる。それまで案を練っておくように」
「御意にござります」
清志郎と橙矢は、静かに頭を下げたのだった。




