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紫雲の國の玉水の恵み  作者: テディ
二の巻 外伝
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予感

 実道は、自分は昔から勘が働く方だったと思っていた。

伊吹のように説明できないのが、もどかしい。

何がはっきり分かるかと問われると、はなはだ困るのだが、

でも何かは起こるのだ。

実際、ことが済んだ後にホッと胸を撫で下ろし、

ああ、そういえば……。そう思うのが常だった。


何が起こるのか、はっきり分かれば

もっと人の役に立つのに……。いつもそう思っていた。


一度だけ、伊吹にそうボヤいた事がある。

伊吹は、驚いた顔をして実道に尋ねたのだ。

「実道……、それではあなたが努力しなくなるではありませんか?」

そう言われて、実道も驚いた。

「私が努力するために、はっきりと分からないのですか?」

「良いですか、全部が分かるほど、便利で不便なことはありません。

分からないからこそ、原因をつけ止めようとしたり努力するのです。

失敗が全て悪いわけではないのですよ。

全て成功している人間など、いないのですから」

「……伊吹様もですか……?」

「もちろん、私もです」

伊吹は、胸を張ってなぜか自慢げに答えた。

「皆、私の事を何だと思っているんでしょうね。

確かに、仕事でも、家へ帰っても、物事がうまくいくように努力します。

でも私だって、失敗もしますし反省もするんですよ?」

そう言われた実道は、なぜか笑い出してしまった。

「伊吹様、普通は落ち込むのですよ?」

「良いではありませんか。そうしたら、また立ち上がれば良いのです

人間らしいという証明になりますよ」

そうやって、実道は気持ちを軽くしたのだ。


だいぶ、そのことに慣れはしたが、

それでもこの胸の中のざわめきには、なかなか慣れる事ができない。

もどかしく、胸が重くなるのだ。

自分では気がつかぬうちに、しかめ面で歩いている。

そんな大祭前だった。


 清志郎は、勇隼の執務室で今日の報告をしていた。

一通りの報告や打ち合わせを終えると、清志郎は真顔で勇隼に話し出した。

「お館様、実道のアレが始まりました」

「……そうか……」

「常に眉間にシワを寄せて、不快そうにしておりますので、

まず、間違いはないかと……」


実道の勘については、清志郎達のような年長者は

話を聞き及んでいた。が、それに振り回されるわけにはいかないので、

口を挟んだり、特別な配慮をした事がない。

振り返って今までの例をみると、それが自然の流れなので、

良い結果をもたらしていたのだ。

「お館様、今回は雫もおりますし、大祭もあります。

いかがいたしますか……?」

清志郎の問いかけに、勇隼は静かに茶を口にした。

ゆっくりと旨そうに飲むと一言。

「良い、いつものように放っておけ」

その判断に、清志郎はゆっくりと頭を下げた。


勇隼も、勘というものがあるというのは充分に分かっていた。

ただ、不確かな物を(よすが)にする訳にはいかない。

祈りの民は、特別なのだ。だからこそ皆も祈りの民の言葉を信じる。

実道は、分かりやすかった。様子がおかしいと、あからさまに分かる。

別に能力が落ちるわけでもなく、悶々と考え込んでいるような様子なのだ。

最初のうち、実道は、いえ、大したことではありませんのでと

はっきり説明しなかった。後から考えると、実道もどう説明して良いか

分からなかったのだろう。


そんな事が何回かあると、清志郎が声をかけていた。

そうして、ようやく実道が、何かを感じ取るらしいが、

それが何であるのかは、理解できていないという事が分かった。


そこまで分かれば、勇隼は実道に声をかけてやる事ができる。

内心は安堵し、実道に話した。

「実道、その何かは考えずとも良い。良いのだ。

先のことは、誰にも分からん。それで良いのだ。

多少、何かを感じても目の前にある事を大切にせよ。

違和感が大きくなれば、大切なことの対象を変えるのだ。

その程度のことで良い。あまり、見えぬものに振り回されるなよ」

「……はい、お館様」

実道は、その力を高よと言われずに驚いたようだった。


「さあ、清志郎。我らも、いつものように目の前のことを片付けるぞ」

勇隼は、そう笑って清志郎を労った。

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