歩路
大祭の役目を終えた伊吹様は、いつもとは違い
とても疲れているように見えた。
勇隼様の執務室で顔を合わせると、伊吹様は優しく微笑んでいた。
「雫様、今日も新しい試みを成されたとか。ありがとうございます」
そう言って、丁寧に頭を下げてくれる。
「いいえ!!!そんな……、あの、できて良かったです……」
相変わらず丁重に扱われることに慣れていない私は
しどろもどろになりながら、首も手も振っていた。
勇隼様は、ことの次第を実道様から聞き取ると……
(私では、話の整理が下手なんだろうか……??)
やっぱり、私にお礼を言ってくれる。
「雫、助かった。おかげで事なきを得た。
民を無事に家に帰してやれる。本当に助かった」
「あの、勇隼様……、どうかもう頭を上げてください。
今回は、私の思いつきのような案に実道様が乗ってくださったので
分かったことがいくつかあります。功労者は実道様なんです……」
まだ慌てている私に、勇隼様は笑い出した。
「ほんに、欲のない……。雫、欲がなさすぎるぞ。
そうだな、自分からは言わないだろう。
皆、今回の褒美に自分で考えて雫に贈り物をするように。
費用は私が持つから心配するな」
豪快に笑っている勇隼様に、橙矢様が静かに笑っている。
……口の片端だけあげると、ニヤリとして見えて
腹黒に見えますよ……?
「お館様、それは豪気でございますな。されど、
我ら自ら、決めて購入しますゆえ、ご暗示なさいますな。
そう、物でなくとも、どこかに連れて行けば雫は喜びましょう」
おお、清志郎様、さすがです。それも楽しそうなので、
私は大歓迎ですよ?皆さん、大金とかかけないでくださいね?
「さて、雫。今回の実道に使わせた方法だが……」
勇隼様は、私をゆったりと見た。
「残念ながら、今回だけになる」
「………………ええーっっっっっ!!!???」
なんで??なんで?? あれ?浄化できたよ??
混乱している私に、橙矢様が無情にも理由を教えてくれた。
「雫、実道が使ったお札は2年に1回しか作らぬ」
……?!?!?!2年に1回?!
「良いか、伊吹達が潰れぬように定まっておる。
お前、伊吹が歴史に名を残すであろう祈りの民だとしても、
そんなにポンポンと最強のお札を作っておれば、
影向様が、お前を呼ぶように
伊吹に言付けるはずはなかろう?」
……、そうですね、橙矢様……。
伊吹様、お札製造機ではないですもんね。
あんまりにも色々なことができるので、勘違いしてました。
……すみません……。
ああ……、せっかく良い方法だと思ったんだけど……。
あからさまにガッカリして、大きなため息をつく私に、
清志郎様が、慰めてくれた。
「まあ、雫。そんなに落ち込むな。何、案の方向を変えればよかろう」
「方向、ですか……?」
「そうだ。良いか、今は文献に乗ろうかと言う一大事だ。
だから、やはり付け焼き刃では行かぬよ言うことよ」
「お札を使うのが、付け焼き刃……?」
「そうだ。お札がないと何も出来ぬと言うのが問題だ。
だから……、刀にお札の威力も付ければよかろう?」
「清志郎様、それって……」
「そうだ、以前お前が話していた案を試すときだ」
清志郎様は一転、勇隼様に向き直った。
「お館様、やはり祈りの民と鍛冶屋を会わせて見てはいかかでしょう?」
清志郎様の問いかけに勇隼様は静かに頷いた。
「そうだな、それしかあるまい」
こうして、次の手筈は整ったのだった。




