次項
実道様の言った通り、清志郎様、久しぶりに会う橙矢様、
周りに気取られないように、いつものようにゆったりと歩いてきていた。
ん???後ろに蒼がいる……。
あれ?!いつの間に……。
私が首を捻っていると、清志郎様は笑いながら教えてくれた。
「蒼が、お館様の所に呼びにきたのだ」
「へっ?!」
そう教えてもらって、私は思わず驚いて間抜けな返事をした。
だって……!!!
小鬼は、よっぽど慣れている人がいないと人混みには行かない。
街中でお手伝いしている小鬼は、大好きな人がいるから
裏方でお仕事を手伝えるんだそうだ。
蒼は、確かに人懐っこい気がするし、屋敷内は自由に歩いている。
でも、例えば自分から道場で、剣士の皆に近づいて行ったことはない。
あくまでも、私や実道様、清志郎様の手の届く範囲で遊んでいる。
そして、今日は大祭のフィナーレの日。勇隼様は、國主として
社につめていたはずだ。その人混みをかき分けて蒼が呼びに行った?!
「蒼?! 心配して行ってくれたの?怖くなかった?
ありがとうね!!」
私は、抱きついてきた蒼を、めいいっぱい愛でることにした。
「どうやって入ったのやら……。清志郎様、警備の見直しが必要では?」
橙矢様が、からかうように清志郎様を見る。
清志郎様は、生真面目に渋い表情になった。
「分かっている。少し考える時間をくれ」
実道様は、そんな2人に肩をすくめて言った。
「清志郎様、お言葉ながら再考は必要ないかと思います」
珍しく自分の意見を口にした実道様に、清志郎様は少し目を開いた。
「ほお、珍しい。再考の必要はないと申すか」
「はい。これが人であれば、問題です。
でも相手は蒼です。自由にさせておくほうが得策かと……」
ニヤリと笑う実道様に、橙矢様もニヤリと笑った。
「実道、どうやら何かを乗り越えたな」
「はい、雫のおかげにござります。
毎日、良い勉強をさせていただいておりますゆえ……」
……実道様、橙矢様の腹黒は、受け継がないほうが……。
そう思った私は、考えていることが丸わかりの表情だったのだろう。
「雫、また失礼なことを考えているな?」
「……いっ、いえ……?!」
橙矢様が、グイッと顔を近づけたので思わず後ずさる……。
「お前は、顔に出過ぎる。実道、お前も気をつけてやれ」
なぜトバッチリが実道様に……???
「はい、気をつけるようにいたします」
実道様は、橙矢様に頭を下げていた。
「さて、お館様がお待ちだ。動けるか?」
そう聞いた清志郎様に、実道様はもちろんと頷いた。
それを見ていた私は、慌てて止めに入る。
そう、菊次郎様に言われたことを、忘れてはいけないと思うの。
「待ってください。菊次郎様が、仁様に見ていただいて
許可が降りれば動いて良いとおっしゃっていて……」
慌てて説明する私に、実道様が笑って、心配しなくとも大丈夫だと言った時、
またまたヒョッコリと仁様が、外へ顔を出した。
「実道、俺は動いて良いとは言ってないぞ?」
そう言うと、実道様のところまで来て脈を取り出した。
「菊次郎から聞いている。良いか、これからも過信は禁物だ。
雫のように、力の按配を自分で探れるようになるまでは我慢しろ。
良いな、これは医師としての判断だ」
仁様の、あまりの剣幕に実道様は驚いていた。
「……はい、分かりました……」
おお、すみません。私、最初の頃に倒れるように眠ったので、
心配していただいたんですね?!
ごめんね、実道様。……過保護の原点、私でした……。
……ん??? 実道様、私の手伝いをしたって話したのかしらん?
しばらくの間、実道様の状態を見ていた仁様は、
ふぅ〜っと息を吐き出した。
「どうやら初期の雫ほど疲労はしていないようだ。
清志郎様、それでも一刻だけです。
そのあとは屋敷か医局に泊まらせます。もちろん私がついています。
経過を観察する必要がある」
キッパリと言い切った仁様に、清志郎様は微笑んで頷いた。
「分かった。お前の言う通りにしよう」
こうして私達は、勇隼様のところへ向かうことになったのだ。




