啓示
本宮の当日、私は昨日より遅い時刻だが
いつも通りすっきりと目覚め、小鬼達と戯れていた。
今日の警護当番は、お昼をすぎて少ししてから、
夜警の人達が来る時間まで。
夕暮れ時には交代できるかな。
伊吹様の、お告げの伝達をみてみたかったのだけど、
ちょうど私たちが警護している時間で、
今回は拝見できなそう……。ちょっぴり残念。
まあ、その後に祭りで盛り上がっている街中を見に行こうと、
小春から誘われているの。すごく賑やかなんだって。
もれなく、実道様も一緒に行くのよ。
そんな感じで、午前中は稽古の1時間だけ。
あとは、ゆっくりとしようと思っていたら、お昼前になって
蒼が部屋へやってきた。
「蒼? お手伝いはもう良いの?」
私がそう聞くと、蒼はいつものように走ってきて
ご褒美をねだった。
「どうしたの?お手伝いしすぎて、疲れちゃったの?
ほら、おいで。いっぱいギュってしようね」
そう話して、いつもより少し長くギュッとした。
そうすると、蒼は満足したように、ニコニコしながら、
私の膝の上で遊んでいる。
「蒼、今日は時間に余裕があるんだね。
私は、もう少ししたらお仕事に行くね?
今朝は、のんびりできたんだよ。稽古も1時間だったしね。
蒼は?お手伝い、楽しかった?」
いつものように私は、なんて事もない話を
蒼に つらつらと話していた。
蒼は、キュッと鳴いてニコニコしている。
私の手で遊んだり、畳の上をコロコロと気持ちよさそうに転げ回ったり。
しばらくすると、キュッと鳴いて立ち上がった。
「もう遊ばなくて良いの? お手伝いに行く?」
「キュッ」
面白いもので、蒼の鳴き方で返事が分かるような気がするのよ。
これは、肯定のキュッ。
「分かったよ、蒼。お手伝い、いつもありがとう。
今日の夜は、お出かけするから、先に休んでいて良いよ。
また明日の朝ね」
「キュッ」
蒼は、首を傾げて可愛らしく返事をするとトテトテと廊下を走って行った。
さて、私も仕事だ……!
そう思って、隼を脇に挿した。
「実道様、待ちましたか?」
剣士の控え所に行くと、実道様はもう来ていた。
「いいえ、雫。今、来たところです。さあ、行きましょうか」
実道様は、おもむろに立ち上がるとにっこりとしていた。
歩いていると、今日は昨日とは比べ物にならないほど人でごった返していた。
「うわぁ、さすがに今日は人が多いですねぇ」
私が、正直に驚くと実道様はクスクスと笑っていました。
「雫の町の方が、ごった返していたのではないですか?」
「ああ、それは休日に都のようなところまで行けばです。
さすがに、警らが歩行の警備には回らないですよ」
「そうなのですね? 何やら歩くための規則があったのでしょう?」
「ええ、小さい頃に親や学問所で習うんです。警備の人が
なぜその規則になっているのか説明に来てくれる日もあるんですよ」
「それは、良い習慣ですね」
そんなことを話しながら、ぐるっと屋敷内を歩き出した。
本当に、すごい人出!!
こんなに大勢の人達の前で、伊吹様は伝達を読み上げるんだなぁ。
1時間すると、次の当番と交代。
別段、変わった事もなく、もうすぐ夜番と交代になりそうだなって思った時、
私たちは、屋敷の裏手を歩いていた。ここを抜ければ医局だ。
その時だった。
「あぁ、もうすぐ伊吹様の伝達が始まりますね」
実道様が、ボソッと言いながら空を見上げた時、
私の目に蒼が見えた。
「蒼?」
思わずそう声をかけた時、再び、あの時の鳥肌がたった。
ーーー来た!!!!!
「実道様……!!医局まで走ります!!!」
駆け出した私に、実道様は目を見張りながらも
納得したような顔で、同じく走り出した。
「蒼!!!」
私は、走りながら蒼を抱き抱え、そのまま医局を目指した。
蒼の浄眼は、やっぱり蒼く震えている。
間違いない!!私は、本能のまま確信を得て走り続けた。
「実道様!!、医局のお札の効果はどこまでですか?!」
「長椅子の周囲までですよ!!」
「わかりました!!!」
走る練習をしておいて、良かった!!なんでも練習しておくものね。
ようやく医局が間近に見えた時、仁様と菊次郎様は
長椅子に座っている人を見立てたり、薬を塗ったりしていた。
私たちの気が、よっぽど強かったんだろう。
2人は違和感を感じて、ふとこちらへ顔をむけた。
「仁様!!!皆を連れて、中に入って!!!」
そう叫んだ私に、一瞬固まったように見えたが、
すぐに立ち上がって、患者さんを次々と建物のなかに誘導している。
「雫様!!早く、中へ!!」
菊次郎様も、強張った表情で叫んでいる。
「菊次郎様!!実道様と、蒼をお願い!!」
私まで中に入ったら、浄化できなくなっちゃうよ!!
そう思っていたのに、実道様も蒼も長椅子の前で動かなかった。
「蒼!!!だめよ、中に居て?!実道様、早く蒼を連れて中へ!!」
そう言ったのに、2人ともガンとして動かない!!!
実道様は、私より早く落ち着いたようで
穏やかに笑っていた。
「雫、ここまで来れば大丈夫です。良いですか、
私が手伝えることがあるかもしれない。思っていることは
全て声に出すのです。大丈夫、蒼はよく分かっています。
いざとなれば、あなたの足手まといにならないように
お札の守りの中に入るでしょう。私もそうします。
良いですか、雫?私たちが手伝うには、貴方の知恵が必要なのです。
わかりましたね?」
落ち着いている実道様と比べて、やっぱり私は緊張感を隠せない。
良いや、反省はあとからだ!!!
私は、背後に皆を隠すように立ち、
走ってきた道を見返した……。
影、……影は……?
夕暮れの中、影はゆらゆらと立ち上っていた。
……マズイ、三体は居る……。私の気で保つんだろうか……?
探しながら、何か方法はないかと思考を巡らせる。
三体とも浄化しないと、あとはできる人がいない……。
まずは私が三体相手をして、万が一残った時……。
後ろにいる実道様しか、できる人はいない。
……実道様ができる方法……。実道様が影を見ることができれば……。
「実道様、影が三体います」
「……三体も」
「皆、近い場所で浮いて揺らめいています。
色は、三体とも変わりません。前回よりは影が薄く見えます。
だから、そんなに気を多く使わなくて済むはずです。
どこにいるか見えますか?見るときに丹田に力を込めてください。
ほんの少しです。そうでなければ影に感づかれます」
私が、隼に手をかけ静かに問いかけると、
実道様も、愛刀に手をやり、私と同じ構えになった。
どのくらい息を潜めただろう。
汗がたらりとたれた瞬間、実道様が小声で囁いた。
「いたっ!! 雫、でも一体しか見えません。
手前から二本目の木の前ですか?」
やった!!見えた!!実道様にも見えた!!
次は、どうやって浄化するか……。実道様の愛刀だけでは難しい。
……そうだ!!!
「実道様、お札を持っていますよね?一枚だけ最上級のがあると聞いています。
実道様の刀にそれを貼ってください」
刀にお札を貼るのに、ノリも何も持っていない。
だから冷静に考えるとおかしいのだけれど、そのときは
お札は必要であれば浮くのだから出来ると確信があった。
実道様は、ゆっくりと私の言う通りにしてくれた。
準備が整うと、実道様は静かに合図をくれる。
「大丈夫、雫。はっきり見えるようになりました。
貴方は他の二体を……。私が見えるのとは別の場所なのでしょう?」
「はい。二手に別れましょう。でも私の後ろからついてきてください。
蒼、お前は長椅子に座って?」
ようやく蒼がお札の効果のある範囲に入ったのと、
実道様が頷いたのが同時となった。
「行きますよ、実道様」
私がジリっと歩みを進めたとき、実道様も同じように動いたのだった。




